71.聖女救出
日は沈み暗闇の中、リベルは湖に近づいた。
湖のほとりでぼんやりと明かりが見えた。
《舟があるよ。大きな衣装ケースが乗ってる。男が二人舟の近くの岸辺にいる》
「こんな暗い中リベルは見えるのか?」
《竜の目は夜でも見えるんだ。たぶんあの衣装ケースの中にルチアがいるよ》
「まずは男二人を捕らえよう。リベル、男に体当たりしてくれ」
リベルは男二人に向かって急降下し、一人に体当たりした。
「うわーっ!!」
フィデスはリベルから飛び降り、もう一人の男の足を剣で刺した。
「た、助けてくれっ!」
「誰に頼まれたか言え!」
フィデスは剣を突きつけて言った。
体当たりされた男の方はリベルの口に咥えられ、恐怖のあまり気絶した。
「き、貴族だ。名前は知らない。ほ、ほんとだ。金貨をもらって、王城の水門を開けておくから舟で来るように言われて……行ったら数人の騎士がいて衣装ケースを乗せたんだ。大事に扱わなければ首が飛ぶぞと言われて……それでここを教えられて待つように言われただけだ!」
「衣装ケースに何が入っている?」
「し、知らない……衣装ではないと思う、重いから…」
フィデスは男の後頭部を叩き気絶させた。
「リベル、陛下のところに行って騎士をここに案内してくれ」
《了解》
リベルはそう言って王城に飛んで行った。
ルチアは外が急に騒がしくなったので首謀者が来たのだと思った。
誰かが船に乗ったらしく揺れた。
ルチアは身構えた。
ケースの蓋が開いたが暗くてよく見えない。
「ルチア!」
この声はフィデスだ。
ルチアはホッとした。
フィデスがルチアの縄を解こうとしているとき、背後から舟のオールでフィデスの頭を殴った者がいた。
リベルに咥えられて気絶した男が目を覚ましたのだ。
フィデスは頭から血を流したが、殴ってきた男を殴り返し、その反動で男は湖に落ちた。
フィデスは急いでルチアの縄と猿ぐつわを外した。
「公爵様!大丈夫ですか⁈ 頭から血が出ています!」
「大丈夫だ。これぐらいたいしたことはない。それより早く舟から降りよう」
そう言ってルチアの手取り立ち上がったフィデスはふらついた。
「公爵様!」
ルチアはすぐにフィデスの頭に手を当ててスペルを唱えた。
「サナーレ!」
淡い光がフィデスの頭を包んだ。
「…ありがとう、ルチア。治ったようだ」
「こちらこそ助けに来てくださりありがとうございます」
二人は舟から降りた。
「今リベルに陛下の騎士を呼びに行ってもらっている。それより早くタラン国の王太子がここにくるはずだ」
「タラン国の王太子が?」
「ルチアを誘拐したのはタラン国だ」
タラン国と言えば王家は名ばかりの象徴に過ぎなく、政務は貴族と平民から半数ずつ選挙で選ばれた者が行っていると、隣国についての勉学の中でルチアはオルドから習った。
そんな中、王太子が他国の聖女を誘拐したとなれば、それこそ王家は無くなってしまうのではないだろうか。
そんな危険な行動をなぜ王太子は犯したのだろうとルチアは思った。
馬の蹄の音と馬車の車輪が砂利を踏む音が聞こえた来た。
「タラン国の王太子のお出ましだ。ルチア隠れなくていいか?」
「大丈夫です。おかしな真似をしたら力を使います」
馬車が近くで止まり、ランタンを持った王太子とその一行が舟の近くまで来た。
「衣装ケースが開いていないか⁈」
王太子が言うと、騎士の一人が舟に乗り込んだ。
「ケースの中は誰もいません!」
「船頭はどこだ!」
「殿下!ここに男が一人脚を斬られて倒れています!」
「なんだと!聖女はどこだ!」
タラン国の王太子が倒れている男の方に近づこうとしたとき暗闇の方から声がした。
「聖女はここにいる」
タラン国の王太子は声がする方へランタンを向けた。
「貴様は誰だ!」
「誘拐犯に名乗る名はないな。そっちは誰か知っているぞ。タラン国の王太子殿」
フィデスはそう言ってルチアの肩を抱き寄せて、タラン国の王太子の方へ歩み出た。
「な、何を言っている!人違いだ!」
タラン国の王太子はそう言いながら騎士たちに手を振って攻撃の合図をした。
騎士三人がフィデスに斬りかかって来た。
「聖女を傷つけるな!」
タラン国の王太子の言葉に一瞬騎士たちが躊躇をした隙にルチアは騎士たちに手を向けてスペルを唱えた。
「ドルミー!」
眩しい光が騎士たちを包み騎士たちはバタバタと倒れた。
「な、何をした!」
タラン国の王太子が驚いて言った。
「眠ってもらっただけです。時間がくれば目覚めますよ」
ルチアがすました声で言った。
「まあ、目覚めたときには牢獄だろうがな」
フィデスは言いながらタラン国の王太子に剣を向けた。
「よくもルチアをあんな狭いところに押し込めて危険な目に合わせたな」
「クッ……」
王太子はその場に座り込んだ。
「我が王家には聖女が必要なんだ!今のままでは王家は無くなってしまう。聖女を取り込めばもう一度王家の威厳を復活させることができる!」
「それはタラン国の王の意向か?」
「父は知らない。言っても反対されるのはわかっていた。父は自分の代で王家を無くしてもいいとまで言うんだ……そんなの……そんなことになったら僕はどうなるんだ…僕は王太子として王になることだけを考えて生きて来たんだ……周りからもそれを望まれて……それなのに王家が無くなってしまったら僕の価値もなくなってしまうではないか…」
ルチアはちょっとかわいそうだなと思ったが、フィデスがスパっと言い放った。
「お前は馬鹿なのか?聖女を誘拐して王家がただで済むと思うのか?それこそお前のせいで王家は取り潰される」
フィデスの言葉にタラン国の王太子はビクッとして肩を震わせながら俯いた。
そこへリベルがフローラル王国の騎士たちを連れて戻って来た。
《言葉が通じないから困ったよ。王太子が出て来てようやく理解してもらえて騎士を連れて来れた》
「ご苦労だったな」
リベルはルチアの側に来て顔をすり寄せた。
《ルチア、大丈夫?無事で良かった》
「ありがとう、リベル。大丈夫よ」
タラン国の王太子たちはフローラル王国の騎士たちに捕えられて王城に戻った。
ルチアとフィデスも大きくしたリベルに乗って王城に戻った。




