67.王宮での報告
フィデスとリベルが朝食を取っている傍らでルチアが立っていると、フィデスが一緒に座って食べるように促した。
「いえ、わたしは侍女ですから」
「何を言っている。ルチアはわたしの婚約者だ」
「まだ正式に発表していませんし…」
「わかった。朝食後、騎士や使用人たちを呼んで正式に発表しよう」
フィデスがそう言ったすぐ後にクラリスが叫びながら食堂に飛び込んできた。
「フィデス!フィデス!ここにいたのか!」
「なんだ騒々しい」
「ルチアもいたのか!いや、聖女様か!」
クラリスは持っていた新聞の一面を広げて見せた。
そこには一昨日聖女が魔王を倒したという記事と、いつの間に撮られていたのか昨日民に囲まれていたときと、リベルに乗って公爵邸に戻るときの写真が掲載されていた。
「どうして教えてくれなかったんだ!」
フィデスは無視して朝食を食べた。
「すみません。わたしが内緒にして欲しいとお願いしていたので」
ルチアが代わりに答えた。
「ルチアが謝る必要はない。クラリス、お前に教える義理などない。それにわたしも知ったのは最近だ」
「冷たいなぁ。いや〜しかし、本当にいたとはなぁ、びっくりしたよ。フィデス、お前の子どもの頃からの夢が叶ったな」
「その前に言うことがあるんじゃないのか?誰のおかげで今朝も普段通りでいられるんだ」
フィデスがクラリスを睨んだ。
「ああ、そうだ、本当だ。ルチア、いや聖女様。この国をこの世界を救ってくださりありがとうございます」
クラリスはルチアの前に跪いて手を取り甲に口付けた。
ルチアはびっくりして固まった。
「クラリス!ルチアはわたしの婚約者だ。勝手に触るな!」
「ええッ!いつの間に⁈」
フィデスは朝食後、騎士や使用人たちを全員広間に呼んだ。
もうすでに新聞を読んでルチアが聖女だということを知っている者もいた。
「皆に発表がある。わたしとルチアは正式に婚約をする。これからはルチアは侍女ではなく未来の公爵夫人だと思って接してもらいたい」
フィデスの言葉に全員拍手と口々に祝いの言葉を投げかけた。
ルチアは嬉しかったが、急に公爵夫人のように扱われてもどう対応すればよいかと困った。
そこへ門番が慌てて入って来た。
「公爵様!王家から迎えの馬車が来ております!」
「なんだって?迎えに来なくてもこちらから行く予定だったのだが」
「その、聖女様もご一緒に来るようにとのことです」
フィデスはルチアを見て頷いた。
ルチアは覚悟を決めていかなければと思った。
聖女とバレたからには王家からなんらかの要望か提案をしてくるだろう。
ルチアとフィデスは王家の馬車に乗り、王城へ向かった。
ルチアは無理難題な要望をされたらどう答えればよいのか、不敬にならないように断るにはどうしたらいいのか悩んで緊張していた。
フィデスはルチアのそんな気持ちを汲み取ったのか、向かい側に座っていたのをルチアの横に移動してルチアの肩を優しく抱きしめた。
「大丈夫だ。王太子はそれほど理解のない人ではない。ただ周りの貴族や他国から何を言ってくるかわからない。何を言われてもわたしがルチアを守るから、ルチアは正直な気持ちを話せばいい」
ルチアはフィデスに抱きしめられて緊張はほぐれたが、代わりに心臓がドキドキしている。
フィデスが守ってくれる、正直な気持ちを伝えようと思ったら気持ちが少し楽になった。
《ルチアの力があればフィデスに守ってもらわなくてもなんとかなるんじゃない?》
「リベル、せっかくルチアの前でカッコつけてるのに身も蓋もないことを言わないでくれ」
フィデスは眉を寄せてリベルを睨んだ。
ルチアはクスクスと笑った。
馬車が王宮前についた。
聖女を一目見ようと大勢の貴族が集まっていた。
王太子もわざわざ出迎えてくれていた。
フィデスがまず馬車から降り、ルチアの手を取った。
ルチアとリベルが馬車から降りると王太子が素早く寄って来て、ルチアの手を取り甲に口付けた。
そして集まって来ていた貴族たちに向かって叫んだ。
「皆の者よく聞け!この方が魔王を倒し世界を救った聖女ルチルアーヌと黒紫竜リベルだ!この国の宝だ!」
「おーっ!」
歓声と拍手の渦が巻き起こった。
フィデスは先手を打たれたと思い王太子を睨みつけた。
王太子はフィデスを見てほくそ笑んだ。
ルチアとフィデスとリベルは王太子に案内されて会議室に向かった。
「殿下、卑怯な手を使いましたね」
フィデスが会議室に向かっている途中王太子に言った。
「さて、何のことかな?」
「ルチアが聖女であることを認識させて国の宝として個人で独占させないようにアピールしたのでしょう」
「当然じゃないかな。誰かが聖女を独占してしまうと非常に困るからね」
「ルチアは聖女の前に一人の人間です!聖女として崇めてしまったら自由がなくなります!」
「大丈夫だよ。何不自由なく王宮で暮らしてもらおうと思っている」
「殿下!」
ルチアはハラハラした。今にもフィデスと王太子が取っ組み合いの喧嘩でも始めてしまいそうな雰囲気だった。
会議室に着き、王太子の側近がドアを開けた。
会議室には高位貴族や官僚たちが席についていた。
「待たせたな。こちらが聖女ルチルアーヌと黒紫竜リベルだ」
王太子はルチアの後ろから肩に手を置きみんなの前で紹介した。
「おお、これは何と美しい。さすが聖女様は違う」
「魔王を倒したなんて思えないほど華奢だ」
「我が国を救ってくださり感謝する」
貴族や官僚は口々に賞賛や礼を述べた。
「ルチルアーヌ嬢と公爵はそこに座ってくれ」
王太子は自分が座る椅子の横にルチアとフィデスを座らせ、自分も座った。
「さて、新聞でざっとしたことはわかったが、どういう状況だったのか詳しく聞かせて欲しい」
王太子がルチアに向かって言った。
ルチアはカザール王国のことから話し始めた。
カザール王国が攻めて来たのは魔王に操られていたからだったこと。カザール王国に行って浄化をしたこと。
この国にも魔王が現れたこと。
サランディ王国に魔物が現れて浄化に向かったが、フローラル王国が危ないと気づいて戻って来たら、タラン国との国境の山に巨大化した魔王がいたことなど、ときどきフィデスが補足しながら起こったことを全部話した。
「ご苦労だった、ルチルアーヌ嬢。君に全てを背負わせて申し訳なかった」
王太子は頭を下げた。
「殿下、頭を上げてください。これは聖女としての役目ですから。それに公爵様がずっと側で支えてくださったので」
「コンコルディア公爵にも感謝する」
王太子はフィデスにも頭を下げた。
貴族と官僚たちも席を立ち、頭を深々と下げた。




