66.仮のプロポーズ
公爵邸に着いたルチアたちはお互いの部屋に戻り入浴した。
リベルも専用のプールで汚れを洗い落とした。
その間に料理を作ってもらい、食堂で食べた。
ルチアもフィデスもリベルも無言のままガツガツ食べた。
周りにいたサイオンやミランダは何があったのか不思議そうに見ていた。
フィデスが戻ったと聞いたクラリスが食堂に来た。
「フィデス!どこに行っていたんだ!全くこっちは業務が滞って大変なんだぞ」
「二日いなかったぐらいで大袈裟な」
「それまでもしょっ中王家に呼び出されて、いなかったことが多いじゃないか!しかも護衛もつけずに二日もいなくなるなんて……」
クラリスはチラリとルチアを見た。
「ふふーん、そういうことか。それならそれで言ってくれればもっと対処するのに」
クラリスはニヤニヤしながら言った。
「勝手な想像するな。とにかく今日は休ませてくれ。わたしもルチアも一日以上寝ていないんだ」
フィデスの言葉に周りのものはギョッとしたと同時にニヤけた。
周りの反応にはじめはわからなかったルチアだが、クラリスの次の言葉で気づいた。
「婚前旅行とはフィデスも変わったな。やっぱりルチアを嫁にするのか」
ルチアは持っていたスプーンを落とした。
「クラリス!勘違いするな!わたしたちは世界を救ってきたところだ」
「え?どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。おそらく明日の新聞に載るだろう。詳細はそれを見ろ。何も知らない奴はお気軽なものだ」
フィデスは食べ終わるとルチアが食べ終わるのを待ち、ルチアが席を立つと抱きかかえた。
「公爵様!じ、自分で歩けます!」
ルチアはびっくりしたと同時に真っ赤に顔を染めた。
周りも驚いたり照れ笑いしたりしていた。
「疲れているだろう。三階に上がるのは体力がいるからな」
「こ、公爵様も疲れていらしゃるでしょう?」
「わたしはルチアがしていたことをただ見ていただけだ。遠慮はいらない」
フィデスはそう言いながらルチアを抱えたまま食堂を出た。
「公爵様、わたし本当に歩けますから、大丈夫ですから」
ルチアは少しバタバタしながら言った。
「ルチア、大人しく首に腕を回してくれ。落としてしまう。かなり力を使っただろう。わたしはそばにいて見守ることしか出来なかった。せめてこれぐらいはさせて欲しい。わたしにとってはこれも役得だが」
ルチアは黙って頷き、そっとフィデスの首に腕を回して、真っ赤になった顔を隠すためにフィデスの胸に顔を埋めた。
フィデスはその瞬間理性が飛びそうになった。
前世のルチアとは何度も契りを交わした仲だ。
記憶が戻ってからアテネとのそういう行為を鮮明に思い出しては理性で制してきた。
フィデスも顔を赤らめながらなんとかルチアを部屋に運び、ベットに寝かせた。
「ルチア……」
フィデスはルチアの額に口づけをしてルチアをじっと見つめた。
ルチアは恥ずかしくて両手で顔を覆った。
《二人とも僕がいることを忘れてませんか?》
後をついて来ていたリベルが呆れた口調で言った。
「リベル、お前も疲れているだろう。早く休みなさい」
《はいはい、僕は何も見ないし聞きません》
リベルは自分のベッドに入り、スリーピングカーテンを口で挟んで閉めた。
フィデスはリベルが見ていないのを確認してからルチアに声をかけた。
「わたしのルチア。魔王も退治できたことだし二人の将来のこと考えてみないか?」
ルチアは黙ったままだった。
「ルチア?」
フィデスはしばらく待ってから、ルチアが顔を覆っている手をそっと握って持ち上げた。
ルチアは爆睡していた。
フィデスは目を丸くしてルチアを見た後、声を殺して笑った。
翌日ルチアはハッと目が覚めた。
昨日あのまま眠ってしまったのか。フィデスが何か言っていたような気がするが覚えていない。
ルチアは起きようとして身体を横に向けた。
「!!えーーーーー〜ーーッ⁈」
ルチアは思わず叫び急いで口を押さえた。
フィデスが横に寝ていたのだ。
フィデスはルチアの声に反応して目を開けた。
「おはようルチア。ぐっすり眠れたようだね」
「ど、ど、ど、どうして公爵様がここに⁈」
ルチアはベッドの端に飛び退いた。
「わたしも疲れていたようで、ルチアの顔を見ていたらいつの間にか寝てしまったようだ」
「そ、そうなんですね…」
いやいやいや、すぐ隣が部屋なんだからここで寝ることはないでしょうとルチアは思った。
ルチアが困った顔をして視線を逸らしていると、フィデスが寂しそうな声で言った。
「ルチアはまだ前世のわたしとのこと思い出せていないのか?」
「……はい…ごめんなさい」
「謝ることはない。だが今後のことは考えて欲しい」
「今後のこと…?」
「ルチアが成人したら妻に迎えたい」
ルチアは頭から火が噴き出るかと思うぐらい心臓が高鳴った。
《フィデス、今のはプロポーズ?》
ルチアはリベルの言葉でほぼ気を失いかけた。
「ああ、そういうことになるな。でも正式なプロポーズは改めてきちんとしたい。今はまだルチアが未成年だから婚約だけでもしておきたい」
ルチアはボーッとしていたが、気を取り直してフィデスに言った。
「……でも身分が違いすぎます。周りが納得してくれないと思います」
「身分など関係ない。それにルチアが聖女だと世間に知れ渡るのもすぐだ。おそらく今朝の新聞には載っているはずだよ。聖女なら誰も文句は言わないだろう」
スローライフもこれまでかとルチアは残念に思ったが、身分を気にせず結婚できるなら聖女だと知れてもいいかもしれないと考え直した。
それに公爵領に行けばのんびり生活できるだろうとも思った。
「前世は世間に認められた夫婦になれなかったから今世では盛大に結婚式をあげて、わたしたちは夫婦だと世間に知らしめたい。その前に婚約式を盛大にしよう」
フィデスは嬉しそうにルチアの手を取った。
ルチアも少しはにかみながら頷いた。




