65.魔王を爆破
公爵邸に戻りながらルチアはフィデスに何を取りに行くのか説明した。
公爵邸に着いたルチアは急いで自分の部屋に行き、部屋の片隅に置いてあったトランクを開けた。
「ダン爺、これが役立つときが来たかもしれないわ」
ルチアは銀白色の金属の箱を手に取り、外に待たせているリベルの元に戻った。
「それが先程言っていたダン爺が作った兵器か?」
「はい、この金属の箱の中に入っているそうです。一滴で研究所が丸ごと吹き飛んだそうです。これ全部で一国が消えてなくなるほどの威力だそうです」
「それを魔王の体内に投げ込んで永遠の岩石を破壊して分散させるのだな」
「はい。岩石がバラバラになって吹き飛んでしまえば魔王の力を削ぐことができます。その隙に浄化をします」
ルチアは銀白色の金属の箱を両手で抱えた。
「どうやってそれを魔王の体内に放り込むかだな」
「聖女の力で魔王の動きを封じます。その間に箱を解除して中の兵器を口の中にそっと入れます。ただ国一つ消滅するほどの威力です。急いで離れて結界を何重にも張らなければなりません」
リベルはすぐに行動を起こせるように今の会話を長老の竜たちに通信した。
国境付近まで戻ると山よりも高くなった魔王が見えた。
長老の竜たちが魔王を囲い、火や風や水などそれぞれの能力を使い魔王がそこから動き出せないようにしてくれていた。
リベルはギリギリ魔王から攻撃を受けないところまで近づいた。
「インモビリゾ!」
ルチアは魔王に向かって手をかざし、イメージしてスペルを唱えた。
眩しい光が魔王を包んだ。
魔王は動かなくなった。
その間にルチアは兵器の箱を解除しようと箱に手を当てスペルを唱えようとしたとき、
「魔王が動き出したぞ!」
フィデスが叫んだ。
ルチアはもう一度魔王に向けて動きを封じるスペルを唱えた。
魔王は動かなくなったが、十数秒後には再び動き出した。
「浄化と同じで聖女の力が効かない……」
ルチアは下唇を噛み締めた。
《永遠の岩石がある限り聖女の力も吸収される》
青竜が言った。
《ルチアわたしを小さくしてくれ。わたしがその兵器と共に魔王の口の中へ入る。みんなは魔王がわたしから目を逸らすように援護してくれ》
白竜が言った。
「それでは白竜も吹き飛んでしまいます!」
《いいんだよ、ルチア。それしか方法はない。わたしは一番長く生きた。老いてヨボヨボだ。リベルのように生まれ変われるならそのほうが若くていいだろう?》
白竜は笑いながら言った。
「この兵器は金属の箱のままでは爆発しません。空気に触れると液体化して少しの衝撃でも爆発するそうです。運んでいる間に魔王が攻撃をしてきたら爆発します」
《それならわたしたちが魔王に近づいたらすぐに結界を張ってくれ、ルチア。そうすれば魔王の腹に入らなくても結界内で爆発して魔王も木っ端微塵になるだろう》
赤竜が言った。
「そんなこと……みなさんにそんなことさせられません!」
《白竜が言ったようにわたしたちみんなもう老いぼれなのよ。気にしないで》
黄竜が言った。
《そうだよ。ピチピチに生まれ変わって来るから心配しないで》
緑竜が言った。
ルチアは泣く泣く白竜を小さくした。
金属の箱を開けると中に握り拳ほどの黒い塊があった。
白竜はそれをそっと口の中に入れた。
《さあ、液体化する前に行くぞ。ルチア結界頼んだ》
青竜が言って白竜を腹の下で守るように飛んだ。
《じゃあまた会おう》
《生まれ変わってもよろしく》
《次会うときまで元気でね》
《後は頼んだぞ》
竜たちはそれぞれ挨拶をして青竜を囲うようにして魔王に向かって飛んで行った。
ルチアは竜たちの背を見送りながらリベルに高く飛んでもらい、外側から内側に向かって結界を何重にも張っていった。
ルチアが結界を張っている間、フィデスがルチアの目からとめどなく溢れる涙を拭った。
結界の中をオレンジ色の閃光が走った。
次の瞬間真っ黒になって何も見えなかった。
ルチアはさらに結界を外側に張った。衝撃の後に張った結界なら壊れないだろう。
結界の中が見え始めるのに丸一日かかった。
爆破の後から張った結界だけが残っていた。
そこにあった山は吹き飛び大きな穴が空いていた。
魔王の姿はどこにも見えなかった。
当然竜たちもいなかった。
「魔王は永遠の岩石と共に散ったようだな」
「喜んでいいのか……」
《ルチアが落ち込んでいたらせっかく長老たちが命を投げ出して頑張ったのにきっと怒るよ》
「そうだな。また会おうと言っていたじゃないか。大丈夫。あれは神々が創り出した竜だ。神々が放っておかないと思う」
リベルやフィデスの言葉にルチアは少し気持ちが楽になった。
ルチアのお腹の虫が大きな音を立てて鳴った。ルチアはこんなときにと顔を真っ赤にして俯いた。
「お腹すいたな。丸一日以上何も食べていないからな」
フィデスは微笑みながら言った。
ふと気がつくと、結界の周りに人々が集まって来ていた。
ルチアたちの周りにも大勢の人が集まり始めた。
今回の様子をずっと見ていた人もたくさんいたようで、口々に賞賛やお礼の言葉をルチアたちにかけてきた。
誰かがルチアを聖女様と呼んだ。
するとそこにいた全員が聖女様と崇め始めた。
「悪いがわたしたちは食事も取らず魔王退治をしていたので、お腹も空いているし疲れている。なのでこれで失礼する。リベル!」
フィデスはそういうとルチアを抱えてリベルに飛び乗り、リベルは高く舞い上がった。
人々は感嘆と歓声の声をあげて拍手や手を振って見送った。
公爵邸に向かっていると王太子率いる騎士たちが馬でかけて国境に向かっていた。
フィデスは気付かぬふりして公爵邸に戻ろうと思ったが、王太子がリベルに気づき両手で大きく手を振り降りて来いと手招きした。
フィデスは舌打ちをしてからリベルに降りるように言った。
「これはこれは王太子殿下。お久しぶりですね。この大変なときにどちらに行かれていたんでしょうか?」
リベルが地上につくや否やフィデスは大きな声で嫌味を込めて挨拶した。
「公爵……すまない。そう嫌味を言うな。わたしだって不甲斐ないと思っているのだから」
王太子は城の異変に気づき、いち早く宰相や側近たちと秘密の地下通路を使って王城から脱出していたらしい。
フィデスは魔王がどうなったか簡単にことの次第を報告した。
「それではわたしたちは疲れてるし腹も減っているのでこれでお暇します。詳細は明日王城に参りますので」
「ああ、待っている」
王太子もそれ以上は何も言わず、リベルが飛んでいくのを見送った。




