64.巨大化した魔王
タラン国との国境の山が近くになるにつれ瘴気が濃くなっていった。
国境近くの村にも影響が出ているようで、上空から見ても畑の作物が枯れているのがわかる。
それだけではない。村人同士だろうか、争っている姿があちこちで見られた。
ルチアは浄化したいとフィデスに話したが、今は魔王をなんとかしなければ浄化をしてもきりがないと言われ、確かのそうだと思った。
リベルは山を見渡せるぐらい高く飛んで魔王の居場所を探した。
木が腐って四方八方に倒れ、瘴気で真っ暗なところを見つけた。
《きっと魔王はあそこにいるよ》
リベルがそう言って真上に来たとき、下から真っ黒な手のようなものが伸びてきてリベルの首を掴んだ。
《ぐっ…》
「リベル!」
フィデスが剣を抜いて伸びてきた手のようなものを切った。
その隙にリベルはその場から離れるように飛んだが、切ったはずの手のようなものが再生されて追いかけてきた。
「クラウスラ!」
ルチアはリベルの周りに結界を張った。
手のようなものは何度も結界にぶつかってきたが、その度に弾いた。
すると今度は山の中から伸びてくるように巨人が現れて結界ごと両手で掴んだ。
《魔王だ!》
「なんだって!これが魔王?」
フィデスは驚いたがルチアは確かに前世で見た魔王の顔だった。
だが前世ではこんなに巨人ではなかった。
「お前が今の聖女か。なるほど五百年前の一番力の凄かった聖女と似ているな」
魔王は結界を潰そうとして手に力を入れた。
ルチアはさらに結界を内側に張って強化した。
「結界があるから浄化できないわ。なんとか魔王から離れられないかしら」
《どこに行くかわからないけどとりあえず瞬間移動してみたら?》
「そうね……数メートル上をイメージしてみるわ。移動したらすぐに浄化に入る……テレポルタティオ!」
結界だけを残しルチアたちは光に包まれた後、数メートル上に移動した。
ルチアはすかさず真下に手を向け浄化のスペルを唱えた。
「ルストラーレ!」
眩しい光が魔王を包み、みるみる小さくなっていった。
ルチアもフィデスも安堵したのも束の間、再び魔王が巨大化し始めた。
「浄化が効かない⁈」
「いや、一度は効いているが再生できるのだろう」
ルチアはもう一度浄化をしようと手を魔王に向けた。
「ふはははは、無駄だ!浄化しても今の我には通用しない。小さくなっても消えることはないからすぐに巨大化できるのだ!はははははー」
ルチアはリベルの周りに結界を張り魔王から離れた。
「どんどん大きくなっているようだ」
「周りの瘴気や怨念を吸い込んで大きくなっているようです。瘴気や怨念なら浄化できるはずなのにどうして……?」
浄化の力が効かないとなるとルチアはどう対応すればよいかわからなかった。
「とりあえず大きくなるのを防がなければ……」
ルチアが浄化しようとするのをフィデスが止めた。
「ルチア、無駄だ。今力を使いすぎてルチアが倒れてはダメだ」
「ではどうすれば…⁈」
ルチアはフィデスに何か考えがあるのかと思って聞いたが、フィデスもどうしたらよいか見当がつかなかった。
リベルが目を閉じて何かに集中しているようだった。
《今長老の竜から通信があってサランディ王国の魔物はとりあえず片付けたらしい。今こっちに向かっているって。それとペルデルが言っていたらしいけど、魔王はこの五百年の間に冥界にある小石ほどの魔石をコツコツ集めていたらしい》
「魔石?何に使うの?」
ルチアが言うとフィデスはしばらくの間考えていた。
「……もしかしたら集めた石を一つの塊にして体内に取り込んでいるのかもしれない」
「どういうことですか?」
ルチアが聞くとフィデスが険しい顔をしながら話した。
冥界はもともと天界の一部にあって、肉体が滅ぶと魂を浄化して次に生まれ変わるまで過ごすための場所だった。
ところが人間がだんだんと精神的に病んだり、欲に走って他者を踏みにじったりする者が増え、なかなか魂が浄化せず天界の一部だけでは間に合わなくなった。
そこで天界の神々が地底空間を作り浄化できにくい魂を送り込む場所としての冥界を創った。
天界から離れてしまった魂が朽ちることなく浄化できるように、天界にある永遠の岩石を細かく砕いて冥界にばら撒いた。
永遠の岩石はその名の通り、魂が朽ちて消えてしまわないように永遠に保てる力を持っている。
「その永遠の岩石のかけらを魔石と言っているのだろう。おそらくその岩石のかけらの力に気づいた魔王はそれを集めて自分の中に取り込んだに違いない。もしかしたら神ヘルが助言をしたかもしれない」
「つまり永遠に保てるということですか?それで浄化しても元に戻ったのですね」
「それだけではない。永遠の岩石は常時プラナと呼ばれる空気中のエネルギーを吸収している。そのエネルギーを利用して巨大化しているのだろう」
そんな強力な魔石を取り込んでいる魔王相手にどう戦えというのか、しかも神が魔王の味方にいるなんて、ルチアは困惑した。
「とにかく取り込まれた永遠の岩石を魔王から取り出すしかない」
どうやって取り出せば良いのか、ルチアは聖女の力でできることを考えた。
永遠の岩石だけを瞬間移動させる?いえ、だめ、永遠の岩石を見たことないからイメージできない。
魔王を小さくしてその間に取り出す?それも無理だ。岩石ごと小さくなっているしすぐに巨大化してしまったら危険だ。
魔王の動きを止めて体内に入り込んで取り出す……誰が?取り出す前に何が起こるかわからない。
ルチアは八方塞がりだった。
そんなことを考えている間にも魔王は巨大化しつつあった。
ルチアたちを捕まえようと手を伸ばしたり瘴気を吐いたりしていた。
そこへ長老の竜五体がやって来た。
《なんと、リベルから聞いてはいたがこんなに巨大化しているとは》
リベルはフィデスから聞いた話を長老の竜たちに伝えた。
《永遠の岩石か……なるほどそれであの状態か》
《厄介なもの取り込んでくれたな》
《これは一筋縄ではいかないな》
《さてどうする?神の力でもないと永遠の岩石は消滅できないぞ》
《神は直接手を出したりしないからな》
竜たちの話を聞いてルチアは思いついたことがあった。
「破壊して体内から外に散らばれば浄化できる……長老様たち申し訳ありませんが、ここで魔王をなんとか食い止めていただいていいですか?わたし取りに行きたいものがあるんです」
《何か手立てがあるのか?》
「はい、たぶん……」
《わかった。食い止めることしかできないから早く戻ってこい》
「はい!リベル、公爵邸に飛んで!」
《うん、わかった》
ルチアとフィデスを乗せたままリベルは公爵邸に向かった。




