63.魔王の狙い
リベルはフローラル王国の王都に近づいた途端、飛行を停止した。
ルチアはすぐにその理由がわかった。
王城が瘴気で包まれているのだ。
「遅かったか…」
フィデスの顔が険しくなった。
「わたしが浄化します」
「いや、待て。罠かもしれない。慎重に行動しよう」
「はい……」
ルチアは王太子や城のみんなは無事だろうかと心配になった。
一旦公爵邸に戻って対策を立てることにした。
戻りながら街中や公爵邸の周りを確認したが異常はなかった。
「普通の人には瘴気は見えないからまだ民衆は混乱はしていないようだな」
「王城の中の人がどうなっているか心配です」
「おそらく魔王に支配されているだろう。王城の中に味方はいないと思った方がいい」
《問題は魔王がどんな聖女対策をしているかだよね》
「先に王都の住民を逃す方が大事じゃないでしょうか?」
《逃すって言ってもどこへ?魔王が現れたって言ったら混乱を招くし、魔物が四方八方から攻めて来たら逃げ場はないよ》
リベルの言う通りだ。魔王は人間を支配しようとしているのに逃げたら魔物の餌食にしてしまうかもしれない。生きてさえいれば支配されていても後で浄化できる。
「やはり直接王城に乗り込むしかないのか……」
フィデスは唇を噛み締めて苦悩に満ちた顔をした。
王都の民を逃がせないならせめて瘴気に当たらないようにしたいとルチアは考えた。
「あの、どのくらいもつかわかりませんが、王城にの周りに結界を張ってとりあえず瘴気を外に漏らさないようにしてみます」
「そんなことができるのか?」
「自分を守るための結界は前世何度も使いました。王城となれば広いのでやってみないとわかりませんが…」
「……そうだな。住民に出来るだけ被害が及ばないようにやれるだけやってみようか」
ルチアはとりあえず公爵邸の周りに結界を張り、フィデスはクラリスとサイオンに事情を説明して外に出ないように全員に通達するように促した。
ルチアとフィデスは再びリベルに乗って王城に向かった。
王城の一番高い塔に降り立ちそこで王城に全体に結界を張ることにした。
王城に着くと一番高い塔の屋根にリベルは降りた。
ルチアは両手を天に向けイメージした。
「クラウスラ!」
ルチアの両手から眩しい光が放たれ王城全体を包んだ。
「結界張れました」
「よし、では王宮に行こう」
再びリベルに乗りルチアは瘴気を浄化しながらフィデスと王宮の入り口まで来た。
リベルを王宮に入れるぐらいの大きさにして中へ入ろうとしたとき、騎士や衛兵が一斉に出て来てルチアたちを囲い、剣を向けた。
衛兵たちがルチアたちを拘束しようと近寄って来た。
フィデスが剣を抜いた。
「誰に剣を向けているのかわかっているんだろうな!」
騎士や衛兵は瘴気で理性を失っているようで、フィデスの言葉は届いていないようだった。
相手は同じ国の騎士や衛兵だ。フィデスは本気で切り付けることができないだろうとルチアは思った。
ルチアは騎士や衛兵に手を向けて浄化のスペルを唱えた。
「ルストラーレ!」
眩しい光が騎士たちを包んだ。騎士たちはバタバタと倒れていった。
「気絶したのか?」
フィデスが騎士の一人の首の頸動脈を触りながら言った。
「はい。人を浄化すると半時ほど気絶するようです」
「……そうか。城内の様子を聞こうと思ったんだが半時も待てないな。先に進もう」
フィデスが先頭に立って王宮の中に入った。
ルチアは王宮内の瘴気を浄化しながらフィデスの後ろをついて行った。
リベルは先に飛んで行った。
騎士や衛兵がときどき襲ってくるがルチアが全て浄化して、みんな倒れていった。
「ルチア、大丈夫か?力を使いすぎて倒れるなんてことはないか?」
「はい、大丈夫です、今のところは」
王太子の執務室の前まで来た。中を覗いたが誰もいない。
途中で政務室にも行ったが誰もいなかった。
「王太子や側近、宰相や文官たちはどこにいるんだ?」
ルチアたちは王宮の中を隈なく見て周り瘴気を浄化して行った。
《魔王の気配は感じられないよ》
先に王宮の中を見て回っていたリベルが戻って来て言った。
「公爵様、魔王がいないならとりあえず王城を一気に浄化してもいいですか?」
「ああ、もちろん構わない」
ルチアはリベルに乗り結界の近くまで高く飛んで王城全体の瘴気を浄化した。
そのときにカザール王国とは反対の隣国タランとの国境にある山が瘴気で真っ黒になっていることに気づいた。
《ルチア、向こうの山…》
「うん、気づいてるわ」
リベルは急いで下に降りた。
ルチアがフィデスに瘴気が見えたことを報告した。
「魔王はタラン国との国境の山にいるようです」
「我々が対策を練っている間に逃げたのか…」
フィデスは視線を落として黙って考えていた。
「……魔王の狙いは聖女を右往左往させることのようだな」
フィデスは呟くように言った。
《聖女が何人いるか確かめているのでは?》
「どうしましょう。サランディ王国の魔物もなんとかしなければ…」
ルチアは悩んだ。一人では全てを救うことはできそうにない。
リベルが目を閉じて何かに集中しているようだった。
《アルカナ聖国の竜たちに連絡を取った。ルチアは魔王を追うようにって。魔物は竜たちがなんとかすると言っているよ》
ルチアはフィデスを見た。フィデスは頷いた。
二人はリベルに乗ってタラン国との国境の山に向かった。




