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62.忍び寄る魔王

 王宮の前まで馬車がつくとルチアに馬車で待つように告げ、フィデスは王太子に会いに行った。

 ルチアは馬車に残っていろいろ考えた。

 魔王が現れたとしたら力を隠している場合ではない。聖女だとバレても魔王を倒すことのほうが大事だ。


 小一時間ほどしてフィデスが戻って来た。


「街中の警備を強化するそうだが、普通の人間には瘴気は見えない。それどころか警備兵が瘴気にあてられたら大変なことになるとは進言してきたのだが、今はそれ以外どうすることもできないそうだ」


 ルチアは少し考えてからフィデスに言った。


「わたしとリベルなら瘴気が見えます。浄化もできるので毎日空からの監視をさせてもらえませんか?」


「…だが、そうするとルチアの力を晒すことになるのではないか?」


「魔王が現れたのですから非常事態です。今この力を使わなければ何のために授かったのかって思いました。わたし個人のことを考えている場合ではないです」


 フィデスはルチアの決心に目を細めて優しく頷いた。


「ありがとう、ルチア。では王宮に戻って本格的に対策を立てよう。王太子にも君が聖女であることを知ってもらった上で、わたしの一生のパートナーであることも再確認させておかなければな」


 ルチアはフィデスに連れられて王宮に入り、王太子の執務室に向かった。


 フィデスは人払いをしてもらい、ルチアがアルカナ聖国の末裔であり聖女の力を授かっていることを話した。


「やはりそうか。薄々気づいてはいたよ。公爵の嘘が丸わかりだったからね。いやー、ほんと助かった。魔王相手にどうすればいいか、お手上げ状態だったから。公爵の王族に対しての虚偽罪は目をつぶろう」


 王太子は皮肉たっぷりにフィデスに言った。


「ルチアが聖女であることはあまり知られたくはない。ルチアがわたしのパートナーであることは公にしてもらっても構わない」


 フィデスはキッパリと言った。ルチアは頬が赤くなるのを感じた。


「なるほどね…わたしが妃にと言ったから敬遠のつもりかな?まあいずれにせよ、この国に聖女がいることを他国には知られたくないからね。ルチアのことは内密にしておくよ。でもルチア、気が変わったらいつでも正妃として迎え入れるからね」


 王太子はルチアにウインクをした。

 フィデスは鬼のような形相になり、ルチアは苦笑いした。


 三人はリベルに乗っての空からの監視体制を綿密に話し合った。 

 竜が空を飛んでいたら民衆が驚くだろうということで、あらかじめ王家から御触れを出すことになった。

 御触れを出すことにより、もしかしたらそれを見た魔王が何らかのアクションを起こしてくるかもしれないという目的もあった。

 御触れは、王家で密かに飼育していた竜が成体になったので空で遊泳するが安全なので気にしないようにと、竜が地上に降りる場合があるので降りてき始めたら速やかに場所を空けるようにという内容だ。


 御触れを出した翌日からルチアは早朝にフィデスと登城して王城からリベルに乗って街を監視した。

 もし魔王や瘴気を見つけたらその上空で王城に向かって鏡で光を反射させて知らせることになっている。

 フィデスは王城に待機して知らせを受けたらすぐに騎士たちと現場に向かう手筈になっていた。


 一ヶ月空からの監視を続けたが、瘴気は一度も見なかったので王都にはもう魔王はいないのではないかということになって、空からの監視は終了することになった。


「ルチアもリベルも毎日疲れただろう。一ヶ月も酷使してしまいお詫びする」


 王太子が頭を下げた。


「頭を上げてください。大丈夫ですから。治癒の力で毎日体力は回復させています」


 ルチアは慌てて言った。


「さすが聖女ですね。うーん、公爵に独り占めされたくないなぁ」


 王太子の言葉にフィデスは鋭い眼光を向けた。


「冗談だよ、半分はね。本音を言えばわたしの妃になってもらいたいけどね」


 王太子はからかうように言った。


「殿下!大変です!」


 王太子の側近の一人が執務室に慌てて入って来た。


「何事だ」


「サランディ王国に無数の魔物が現れたと報告が入りました!」


 サランディ王国はカザール王国から見てフローラル王国とは反対側の隣国だ。


「フローラル王国に聖女がいることをわかっているようだ。狙いを変えたようだね」


 王太子が腕を組んでルチアを見た。


「今すぐサランディ王国に行きます!」


 ルチアは執務室を出ようとした。


「待てルチア。わたしも一緒に行く」


 フィデスが言うとルチアは頷いた。


「公爵、ルチア、ちょっと待て!二人だけで行くのは危険すぎる」


 王太子が止めに入った。


「殿下、お言葉ですが人間が何人いようが喰われて終わりです。魔物に人間の武器は通用しません。前世の戦いで認証済みです」


 ルチアがキッパリと言った。


「そうなのか……今我が国から聖女を出したくはないが、聖女でなければ魔物は退治できないということなんだな」


「はい。浄化の力以外では魔物を消すことはできません」


 王太子はフーッと息を吐いてルチアを見た。


「仕方がない。フィデス、聖女を頼む」


「頼まれなくても守りますよ。行こう、ルチア」



 ルチアとフィデスはリベルに乗ってサランディ王国に向かった。

 途中カザール王国を通ったが、異変は見られなかった。


「カザール王国への支配は諦めたのでしょうか?」


「フローラル王国に聖女がいることがわかって離れた国から支配することにしたのではないだろうか」


「ペルデルの話では扱いにくい魔物より人間を支配して地上界を牛耳るつもりでいたようなのですが、結局魔物を呼び寄せたのですね」


 ルチアはそう言ってからハッとして、フィデスを見た。フィデスも同じことを考えているようだった。


「リベル、すぐにUターンして!フローラル王国に戻るわよ!」


《え、魔物はどうするの?》


「魔物は囮だ。おそらく魔王はフローラル王国にいる。ルチアが魔物を退治している間にフローラル王国を支配するつもりだ」


《そんなことをしてもルチアが浄化すればすぐに元通りじゃない?》


「魔王が冥界に隠れてから五百年だ。その間に何もしなかったわけではないだろう。おそらく何か勝算があって地上界に再び姿を現したに違いない」


 ルチアもそう思ってはいたが、フィデスに言われると自分の力で魔王を倒すことができるだろうかと不安になった。


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