60.公爵の溺愛
ルチアたちは王都のフィデスの屋敷に戻った。
ルチアはリベルを元の大きさに戻すため、フィデスと別れて誰もいないところに連れて行った。
《公爵にはもう見られてもいいんじゃない?》
「いいけど、他の人に見られると困るから」
ルチアはリベルに手をかざして「レスティートゥオー」と唱えたが、リベルは元の大きさより大きかった。
「何?急に成長したの?」
《たぶん公爵の記憶が戻って神としての加護も戻ったんじゃないかな。だから止まっていた分成長したのかも。僕のエネルギーもいつもよりみなぎっているよ》
「そうなの?」
《でもこの大きさじゃ部屋に入れないから前の大きさにして欲しいな》
「わかったわ」
ルチアはリベルに手をかざして小さくした。
「きっと寝ている間に元に戻るわよ」
《部屋の中なら十分広さがあるから大丈夫だよ。でもみんながびっくりするね》
「誰かに見られたらそのとき話しましょう。それまでは元に戻ったら小さくするわね。公爵様にだけは話しておきましょう」
《了解》
ルチアが屋敷の中に入るとフィデスが待っていた。
「お腹空いただろう。今準備してもらっているから食堂に行こう」
フィデスは臆することなくルチアの肩を抱いて食堂に向かった。
ルチアは少し固まったが、それよりも使用人たちの驚いている視線が気になった。
「あの公爵様…」
「フィデスだ。フィデスと呼んでくれ」
ルチアはますます困った。ルチアはフィデスから離れた。
「ルチア…?」
ルチアは唇を噛み締めて俯いていたが決心をしたような顔でフィデスを見た。
「公爵様。前世恋人同士であっても今は高位貴族と平民。周りからどんな批判があるかわかりません。皆の前で先ほどのような行為はやめませんか?」
フィデスは傷ついたような顔をした。
「わたしはきみと共にいたいがためにこうして生まれてきたのだ。それができないならここにいる意味がない。帰る途中にも言ったが爵位などすぐに捨てられる」
ルチアはフィデスの顔を見て胸が痛んだが、屋敷の人たちが困惑するだろうと考えて押し切った。
「公爵様の気持ちはとても嬉しいです。でも事情を説明できないので公爵家の皆さんが混乱します。まだ今まで通りでどうかお願いします」
「……わかった。前世のことは話せないが、近いうちに公爵家所縁の者や使用人たちにはルチアが生涯の伴侶だと話をする」
フィデスはそう言うと先に食堂にむかって歩いた。
《記憶が戻ってからの公爵はルチアにベタベタだね》
「リベル、聞こえてるぞ」
フィデスは顔を赤らめて言った。
夕食後、ルチアはリベルのことで話をしようとフィデスの部屋を訪ねた。
「ルチア、きみから訪ねてくるなんて嬉しいよ」
ドアを開けたフィデスはすぐにルチアを抱きしめた。
「公爵様、待ってください。わたしはリベルのことで話があって…」
「二人だけのときぐらいフィデスと呼んでくれ」
そう言いながらフィデスはルチアの額に口付けをした。
ルチアは心臓が破裂しそうだった。
フィデスは前世の記憶が戻り、ルチアの前世アテネとは子どもまで成した仲だから当然のように触れてくるが、ルチアはまだそこら辺の記憶が戻っていない。
《僕が呼んであげるよ、フィデス。だめだよ、フィデス。ルチアはアテネじゃないんだから。ユピテルとの記憶もまだ戻ってないし、今のルチアはそういうのに免疫が全くないんだから》
「そうか……すまない、ルチア……リベルの話だったな」
フィデスはルチアをソファに座らせて自分も座った。
ルチアはリベルが成長したことを話した。
「今はまだ大丈夫でしょうが、もっと成長すれば部屋の中では住めなくなると思うんです」
「そうだな。公爵領に少しでも早く帰った方がいいな。魔王の件が片付いたらすぐにでも公爵領に移れるよう準備だけはしておこう」
「ありがとうございます」
ルチアが深々と頭を下げるとフィデスは笑いながら言った。
「礼を言われる筋合いはないよ。黒紫竜は元々わたしが創ったのだからね」
そうだったとルチアは思った。
フィデスはすっかり神ユピテルの記憶が戻りユピテルそのものになったようで、ルチアは戸惑いを感じた。
「明日は朝から登城する。王太子にアルカナ聖国のことの報告と魔王のことをどうするか話してくる」
「置いて行ったことかなりお怒りなのでは?」
「王太子が怒ってもさほど怖くないさ。彼は権力を振りかざして理不尽なことをする人間じゃない」
「そうなのですね」
「ああ、わたしは早く王太子が国王になればいいと思っていた。陛下があのような形で引退せざる得なかったのは自業自得だ。良かった思っているよ」
フィデスはよほど王太子に信頼を寄せているのだなとルチアは思った。
次の朝早く王太子からの使者が公爵邸にやって来た。
ちょうど王城に出かけようとしていたフィデスは使者を応接室に通した。
「コンコルディア公爵様。フォルティス王太子殿下より勅書をお持ちいたしました」
フィデスは勅書を受け取りその場で読んだ。
フィデスは怪訝そうな顔をしてサイオンにルチアを呼ぶように言った。
「おはようございます、公爵様」
ルチアは応接室に入りフィデスに挨拶をしてから、使者に向かってお辞儀をした。
「この者は王太子殿下からの使者だ。王太子殿下がルチアとリベルにも登城するようにと、勅書を持って来た」
勅書ということは拒むことができないということだ。
「わかりました。すぐに準備をいたしますので少々お待ち頂けたらと思います」
「急がなくていい。時間は書いていない。ゆっくり支度をしなさい」
フィデスは使者の方をチラリと見て少し嫌味っぽく言った。
「女性の支度は時間がかかるから、急な命令に従わなければならないのでそれぐらい大丈夫だな?」
使者は顔色も変えずに頷いた。
ルチアはミランダに伝えて急いで部屋に戻り、ドレスに着替えた。
ミランダが部屋にやって来て髪を整えてくれた。
「あなたも忙しい身ね。昨日帰って来たばかりなのに。身体には十分気をつけてね」
ミランダは淡々と言ったが、優しさが込められていた。
ルチアとフィデスは王太子の使者が乗ってきた馬車に同乗して王城へと向かった。




