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6.伯爵の提案

 畑仕事が終わり、ルチアたち家族は食卓を囲んで夕食を食べていた。

 いつもより重々しい雰囲気が漂っていて、誰も口を開かなかった。

 おしゃべりのニナでさえ空気を読んでひと言も喋らなかった。

 食卓の上の料理がほぼ空になったころ、スカイが口火を切った。


「父さん、昼間の話。領主様は何て言ったんだ?」


 ヤンはテーブルに置いてある湯呑みを握りしめたまま身動きもせず黙っていた。


「父さん!」


 スカイは少し強い口調でヤンを呼んだ。

 ヤンはフーッと息を吐いた。


「ルチアを公爵様の王都のお屋敷に行かせるように説得してくれと。支度は領主様が全てするから、ルチアが公爵様のお屋敷で働いている間は年貢も半分免除すると言われた」


 みんな驚いた。領主様がそんなことを言っていたとは。


「父さん!何ですぐに断らなかったんだよ!それともルチアを王都に行かせるつもりか?」


 スカイはテーブルを拳で叩いてヤンに喰ってかかった。モリーが慌ててスカイをなだめた。


「スカイ、父さんだって行かせたいわけじゃないよ。でも領主様に逆らえないのも事実だよ」


 ヤンがお茶をグイッと飲んで湯呑みをテーブルに叩きつけるように置いた。


「行かせたくはない。でもこれはルチアが選択することだ。周りが決めることではない」


 スカイはルチアを見た。


「ルチア、領主様の言うことなんて気にすることない。別に年貢を半分にしてくれなくても十分に暮らしていける」


 ルチアは俯いた。ルチアが何と答えるか全員固唾を飲んで見つめた。

 ルチアは王都なんて行きたくないというのが本心だ。ここでのんびり暮らしていきたいと思っている。

 だが、ルチアの中に自分は拾われた身だということが重くのしかかった。ルチアがいなくなれば食い分も減るし、年貢が半分になればもっとみんな贅沢できる。


「……少し考えさせて」


 ルチアは俯いたまま弱々しい声で言った。


「考える必要なんてないだろう?ずっとここにいればいい。一人で王都なんて行っても孤独になるだけだ。田舎者なんて誰も相手にしてくれない。ルチアが辛い思いするだけだ。王都に行っても幸せにはなれないよ」


 スカイは必死な顔でルチアに言った。


「スカイ、父さんも言ったようにルチアが決めることだよ。ルチアにとって何が幸せかはルチアが判断することだ。お前が判断することじゃない。これ以上はルチアに何も言うな……ルチア、ゆっくり考えな。でもこの家のことは考えるんじゃないよ。ルチアが一番したいと思うことをすればいい」


 モリーがスカイを厳しく制し、ルチアには優しく言った。

 今まで黙っていたニナが口を出した。


「わたしなら王都に行くけどね。王都に行ったらここにはない素敵な物がいっぱいあるんでしょう。そうよ、ルチア姉王都に行ってよ。そうしたらわたし遊びにいけるわ。王都なんて縁がないと思っていたけどルチア姉が行けば縁が繋がるじゃない。嫌になったら帰ってくればいいだけのことよ」


 スカイがニナを睨んだ。モリーは呆れてため息をついた。ヤンは黙ったまま目を閉じていた。

 ルチアはニナの言葉で少し気持ちが軽くなった。ここにいたいけど、もし王都に行くことになってもみんなに遊びに来てもらえばいいし、いつでも帰って来れる。

 ルチアはみんなを王都で案内する自分の姿を想像した。悪くないと思った。


《僕は反対です。それって僕が欲しいからルチアも一緒にってことでしょう?王都に行ったらルチアはどうなるかわかりません》


 テーブルの下でパンと果物を食べ終わったリベルがルチアの膝に飛び乗って言った。


《それに王都に行ってルチアの能力がバレたら利用されるだけです》


 ルチアはそうかもしれないと思った。

 フィデスが欲しいのはリベルであって、ルチアはリベルを手に入れるために雇うだけだ。

 相手は貴族だ。リベルが手に入ったらルチアはどうなるかわかったものではない。貴族にとっては平民がどうなろうと気にもしない。命の危険に晒される可能性もある。そのとききっと力を使ってしまうだろう。

 この力がバレるとそれこそ自由に生きられないかもしれないとルチアは思った。


 ルチアは部屋に戻りあれこれ考えをめぐらせた。

 王都行きは伯爵の圧力がある限り、前向きに考えなければならない話だ。

 伯爵夫妻は領民に優しいけれど、所詮は貴族。良い条件だけを提示してきたけれど、ルチアが行かないと返事をすればここの家族にどんな負担を押し付けてくるか、わかったものではない。


「ねえ、リベル。わたしは王都行きを前向きに検討しようと思ってるの」


《ルチア、さっきも言ったけど危険です》


「でもね、わたしが行かないとなって、ここの家族が不幸になるかもしれないとしたら?わたしは物凄く後悔するわ」


《しかし……》


「明日、公爵様がリベルに会いにくるじゃない?そのときに公爵様のお人柄を見極めようと思ってる。それで最終的に判断するわ。だからリベルも公爵様をよく観察して欲しいの。わたしがジロジロ見るわけには行かないから」


 リベルはじっとルチアを見た。ルチアの顔に不安や悲痛な気持ちは表れていなかった。


《わかりました。しっかり公爵を観察します。その代わり僕の判断に従ってください。僕がダメだと言ったら絶対に王都には行きませんよ》


「うん、わかった。主役はリベルだもんね。本当はリベルの気持ちが一番なんだけどごめんね、わたしの事情を優先させて。公爵様の人柄が分かればちゃんとリベルに従うわ」


 ルチアはそう言ってリベルを抱き寄せた。


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