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5.公爵との出会い

 伯爵夫妻と後から馬車を降りた男性が近くまで来た。


「これはこれは領主様。いつもありがとうございます」


 ヤンが帽子を取り深々と頭下げた。それに倣って他の四人も頭を下げた。


「ヤンだったな。変わりはないか?麦は豊作だったか?」


 オストラル伯爵がニコニコしながらヤンに言った。


「はい、お陰様で変わりなく過ごさせていただいております。麦も例年と同じぐらい収穫できました」


 ヤンはペコペコ頭を下げながら答えた。

 ルチアは伯爵夫妻と一緒に来た男性をチラリと見た。

 近くで見るとまだ若く、こんな田舎では滅多に見られないほどの美顔だった。何か神秘的で瞳は蒼く鼻筋が通っていて背も高く、細身に見えるが肩幅があった。

 ルチアとニアはついボーっと見惚れていた。


「ルチア、ニア…」


 スカイに背中を突かれ、ルチアとニアは慌てて頭を下げた。


「ホホ、お嬢さんが見惚れるのも無理はないですわね。この方はわたくしの甥でフィデス・コンコルディア公爵です。今回わたくしたちについてきましたの。それで領地を案内していますのよ」


 フィデスは伯爵夫人が自分を紹介したことなど気に留めていなかった。それよりもリベルが気になってじっと見ていた。


「フィデス、どうかなさったの?」


 伯爵夫人はフィデスの顔の前で手を振った。


「え、あ、申し訳ない。珍しい生き物がいて釘付けになってしまいました」


 フィデスはまだ弁当を食べているリベルに近づきながら言った。


「閣下!気をつけなされ!これは竜ですぞ!」


 伯爵がフィデスの前に立ち塞がった。


「…これが竜なのか…初めて見た。危険なのか?」


 フィデスが聞くとヤンが答えた。


「この竜は娘が飼っているものです。危険はありません」


「娘とは?」


 フィデスがルチアとニアの方を見た。

 スカイに背中を押されてルチアが前に出た。


「あ、えと…初めまして。ルチルアーヌと申します。この竜はわたしが飼っていて父が言うように危険はありません」


 ルチアは頭を下げてからフィデスの方を見て言った。

 フィデスはルチアをじっと見て言った。


「…ほう、碧眼か…ここにも珍しい者がいた」


 ルチアは一歩下がって俯いた。


「その竜わたしに譲ってはもらえないだろうか?」


 フィデスがルチアに向かって言った。

 ルチアはリベルの方を見た。リベルは食べるのをやめてルチアの背中にしがみついた。


「ほう、わたしが言ったことがわかるのか。賢い竜だ。だが、ルチルアーヌ嬢と離れたくないようだな」


 フィデスはルチアに近づいて背中にいるリベルをじっと見た。


「美しい竜だ。名はなんと言う?」


「リベルです」


「そうか。リベル、わたしと一緒に暮らさないか?贅沢させてやれるぞ」


 フィデスはリベルに手を伸ばしかけたが、リベルが唸った。


「ギューッグルルルル!」


「どうやらわたしは嫌われたようだな」


 フィデスはそう言うと伸ばしかけた手をルチアの顎にかけて、クイっと持ち上げた。


「ではルチルアーヌ嬢。リベルと一緒に王都に来ないか?君をリベルの世話係として雇おう」


 ルチアはドギマギして顔を真っ赤にして固まった。その瞬間、スカイがルチアを引き寄せた。


「公爵様、申し訳ありません。妹はこのように田舎で育った無骨者です。王都での生活に馴染めるとは思えません」


 オストラル伯爵が前に出てきて困ったような顔をしてスカイに言った。


「閣下が申し出ているのに断るつもりかな。君はこの子の兄だろう。閣下はこの子に…」


 フィデスが伯爵を制止して言った。


「いや、わたしが強引過ぎた。すまない。今からまだ回るところがあるから明日リベルに会いに来てもかまわないか?」


 ルチアは視線を下に向けたまま頷いた。


「良かった。楽しみにしている。では伯爵、馬車に戻って次に行こう」


 フィデスは微笑みながらそう言うと馬車の方へスタスタと歩いて行った。伯爵夫人も横目でルチアを見ながらため息をついてフィデスの後を追った。

 伯爵は何やらヤンに耳打ちをした。ヤンは驚いた顔をした後、眉間に皺を寄せ帽子をギュッと握りしめて頷いた。

 伯爵も頷きながらヤンの肩を二回ポンポンと叩いてから馬車に戻って行った。

 馬車が見えなくなるとスカイが怪訝そうな顔をしてヤンに聞いた。


「父さん、領主様に何を言われたんだ?」


 ヤンは眉間に皺を寄せたままスカイと目を合わせずに畑に戻りながら言った。


「…種蒔きをするぞ。話は夕飯のときに…」


 スカイは不満そうな顔をして畑に行った。


「わたしはもう戻ってもいいわよね。領主様に挨拶が済んだし」


 ニナがモリーに向かって言った。


「しょうがないねぇ。まあ、あんたがいても身体より口の方がよく動くからかえっていない方がいいかもねぇ」


 モリーがため息混じりに言うと、ニナは膨れっ面になった。


「はいはい、どうせわたしは役立たずだからね!ルチア姉も帰えろうよ。種蒔きだけなら三人いればいいでしょ」


 ニナがルチアの腕を引っ張って言った。


「ニナ、わたしは手伝うよ。種蒔きっていっても大変なんだよ」


 ルチアはニナに掴まれた腕を解きながら言った。


「ちぇっ、ルチア姉と公爵様の話で盛り上がりたかったのになァ。いいよ、一人で帰る」


 ニナはそう言って走って家に向かった。

 ルチアとモリーは顔を見合わせて苦笑いをした。


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