57.アルカナ聖国へ
公爵邸に戻ったルチアはミランダにカフェのオーナーとしてペルデルを紹介した。
事情があって一晩だけ泊めて欲しいとお願いをした。
「フィデス様に聞いてみないとわかりませんわ。サンマール侯爵夫人の用はこのことだったの?」
ルチアが答えようとするとペルデルが説明した。
「いえ、わたしが至急ルチアに話があったのですが、まさか公爵家にわたしのような平民が訪ねるわけにはいかなかったのでサンマール伯爵夫人にお願いしたのです」
「そう、とりあえず応接室で待っていただきますね」
「ありがとうございます」
ルチアが頭を下げるとペルデルも一緒に頭を下げた。
「わたしの店のスイーツです。みなさんで召し上がってください」
ペルデルは大きな箱をミランダに差し出した。
「まあ、あのペルルのスイーツ?それは楽しみだわ。ありがとうございます。ルチア、ペルデルさんを応接室に案内してあげて。案内したらお茶を用意するように」
「はい、承知いたしました」
ルチアはペルデルを応接室に案内をして厨房に行った。
リベルはペルデルを監視すると言って応接室に残った。
ルチアが厨房に行くと、使用人たちがスイーツを食べながらペルデルの話で持ち切りだった。
「あの方がペルルのオーナー?すごい魅惑的な男性ね」
「スイーツも最高に美味しいわ。ずっとここにいて欲しいわね」
「ほんと公爵様に劣らない良い男よね。眼福だわ」
「彼は平民でしょ。ならチャンスはあるわね」
「独身かどうか確認しなきゃ」
ルチアは話を聞きながら苦笑いをしてお茶の用意とペルデルに貰ったスイーツをいくつか皿に乗せ応接室に戻った。
ルチアとペルデルが歓談しているとフィデスが戻ってきてすぐに応接室に来た。
フィデスは二人の楽しそうな雰囲気を見て一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに笑顔になってルチアの隣に座った。
ルチアが立ち上がろうとするとフィデスに手を引かれて座った。
ペルデルが急いで立ち上がりフィデスに挨拶をした。
「で、今日は何の用かな?」
穏やかな言い方だったが、フィデスの目は笑っていなかった。
ルチアはペルデルの代わりに何があったか話した。
「とうとう魔王が姿を現したか……」
フィデスは眉をしかめて腕を組んだ。
「それでアルカナ聖国にペルデルを匿ってもらうためにリベルに乗って行って来ようと思っているんですが……魔王のことを竜たちに報告をもかねて。二日ほどお休みいただけますか?」
フィデスは横目でルチアの顔を見ながら考え込んでいた。
「……致し方ないことだな……わたしも同行してもいいだろうか?」
ルチアは驚いた顔をしてリベルを見た。
《三人乗せるには相当大きくしてもらわないと飛べないよ》
「それはいいってこと?」
《大きければ大きいほど速く飛べるしね》
「大きくすることでリベルに負担はない?」
《たぶんね。疲れたらルチアが治癒の力で癒してくれれば》
「わかったわ……公爵様、リベルは大丈夫と言っていますのでご同行お願いします」
「良かった、ありがとうリベル」
フィデスがリベルに向かっって軽く頭を下げた。
「あーあ、せっかくルチアと二人っきりで空のデートができると思ったのに」
ルチアもフィデスもペルデルを睨んだ。
フィデスは立ち上がり脱いでいた上着を羽織った。
「魔王が現れたことを王太子に報告に行って来る。ルチアはペルデルを二階の客室に案内してくれ。今日は遅くなると思う。明日日の出前ぐらいに出発でいいだろうか?」
「はい、承知致しました」
フィデスはルチアに微笑みながら頷いて応接室を出て行った。
ルチアはペルデルを客室に案内してからミランダに報告に行った。
明日の朝早くに出かけることも告げると、フィデスが王城に行く前にサイオンに伝え、それをミランダはサイオンから聞いていた。
リベルと部屋に戻ったルチアはベッドに倒れ込むように横になった。
《ルチア、明日早いからお風呂に入って速く寝よう》
「…そうね……何だか精神的疲れと緊張とで眠れるかしら?」
《緊張って?》
「アルカナ聖国よ。わたしは初めてなわけだし、長老の竜がいるんでしょ」
《ふふ、大丈夫だよ。取って食われるわけじゃないし》
「…そうね、リベルもいるし、それに公爵様もいてくれるし…」
ルチアはフィデスがそばにいると胸がドキドキするが、それと同時に安心感というか癒されるものがあった。
翌日の夜明け前、ルチアはリベルを大きくして玄関前でフィデスとペルデルを待った。
「おはよう、ルチア」
ペルデルが出てきて挨拶をした。
しばらく待ったがフィデスが出てこない。
すると馬の蹄の音が聞こえてきた。フィデスだ。
「すまない。遅くまで王太子と話をしていて、王太子がアルカナ聖国に行くと言って聞かなくて、離してくれなかったんだ」
「王太子は納得されたのですか?」
「睡魔に負けて居眠りし始めた隙に帰ってきた。すぐに出発しよう。王太子が気づいて追いかけて来るだろうから」
フィデスは玄関で見送りしようとしていたサイオンに馬を託し、リベルを見上げた。
「この間の三倍ぐらい大きいな」
「はい、手綱が合わないので今日はなしで」
「どうやって乗るんだ?」
フィデスが言うとリベルは翼を下ろした。
「翼を登るのか?大丈夫なのか?」
《大丈夫。竜の翼は頑丈です。今日は特に大きくなったので強固にもなってます》
「頑丈だから大丈夫だそうです」
ルチアが通訳するとフィデスは頷いた。
「では一人ずつ登ろう」
まずはルチアが登って次にペルデルが登った。最後にフィデスがの乗ったところで王太子が馬で駆けてくるのが見えた。
「リベルすぐに出発だ!」
フィデスの合図でリベルは空高く舞い上がり、アルカナ聖国の方向へ飛んだ。
ちょうど太陽が昇り、リベルの黒紫色の鱗がキラキラと輝いた。
下を見ると王太子が馬を停め、悔しそうな顔をして上を向いている姿が見えた。
「帰ったら散々文句言われそうだな」
フィデスは苦笑いしながら言った。
そのときは王太子に一緒に謝ろうとルチアはフィデスの顔を見ながら思った。




