54.早馬の帰還
七日後、無事に早馬が戻って来た。
フィデスは連日王太子の元に行っていた。
この七日の間に王城もいろいろあった。
まず、いの一番に隣国に逃げた国王と王妃が五日経って戻って来た。
首都が無事なのを確認して戻って来たのだ。
当然王太子は受け入れなかった。国民と城を捨てて逃げた者に居場所はないと突っぱねた。
国王夫妻はかなり激怒したが、味方についてくれる宰相も補佐官もいなかった。
結局国王夫妻は隠居という形で離宮に移り、王太子に国政を任せることになった。
今の問題が落ち着いたら戴冠式を行う予定だ。
王太子は独身であったがために、戴冠式までに王妃候補を募って婚約しなけらばならないと周りの貴族が騒ぎ出した。
ひっきりなしに娘を連れて登城する貴族が後をたたず、カザール王国との問題を解決するまでは国政に関係のない貴族と貴族全員の家族は城内立ち入り禁止にした。
カザール王国に行って戻って来た騎士はカザール国王からの謝罪の書状を預かっていた。
今回のことは何故起きたのか国王自体よくわかっていないという。ただ起きた事実は把握しており、国王自ら命令したことも周りの証言や薄っすらとある記憶から間違いないと告白していた。
今国内でも混乱が起きていてそれが落ち着き次第改めて謝罪に訪れると書状には書かれていた。
夜遅く王城から帰って来たフィデスがルチアの部屋を訪ねて来てその話を聞いた。
ひとまず戦争は免れたし、浄化の力も効いているようだ。
《魔王の支配から解放されたようだね。やっぱりあそこには魔王はいなかったんだ。でも別のところに行って同じようなことをしそうだよね》
ホッとしたのも束の間、リベルの言葉にルチアはそれはあり得ると気落ちした。
「リベルが何か言ったのか?随分落ち込んでいるように見えるが」
フィデスがルチアの顔を見て心配そうに聞いた。
ルチアはリベルと顔を見合わせた。
《今後のことも考えて公爵には全て話した方がいいと思うよ。いつまで隠れてコソコソ出来ない状況になってきているし》
そんなこと言われてもなんと言って話せばいいかわからないし、そもそも聖女の力のことを話したら今までみたいに平凡に暮らせる保証がないとルチアは思った。
「無理よ。そんなことしたら今まで通りの生活ができなくなる」
ルチアはリベルに小声で言った。
《もうすでに今まで通りの生活はできなくなっているじゃないか?そんなこと言っている場合じゃない》
いつになくリベルの口調が厳しかった。
ルチアは少しムッとして心にもないことをリベルに言ってしまった。
「そうよ!誰のせいでこんなことになったのよ!リベルを助けるんじゃなかったわ!」
ルチアは言ってからしまったと口を押さえた。
リベルは黙ったまま横を向いた。
フィデスがルチアの言葉に驚いてリベルの側にやってきてリベルをそっと撫でた。
「何を言われたのかわからないが、少し冷静になろう」
フィデスはルチアに向かって言った。
「……申し訳ありません」
ルチアは俯いて下唇を噛み締めた。
「何があったか聞いてはいけないか?」
「……明日まで待ってください。心の準備が必要なので。それとリベルともう少し話し合いします」
ルチアはそう言うとフィデスにお辞儀をした。
フィデスは頷いて部屋から出て行った。
「リベル、ごめんなさい」
ルチアは土下座をした。
「助けるんじゃなかったなんて本当は微塵も思っていない。リベルに出会えて良かったと思ってる。ただいろんなことがありすぎて、思ったような生活ができなくて……本当にごめん」
《いいよ、わかってる。ルチアも急に生活が変わって大変だよね。でも今僕と巡り合って聖女の力が使えるようになったのは、そういうタイミングなんだと思う。ルチア前に言ったよね、力が使えるようになってから事件ばかり起きるって。逆だよ。事件が起こるから力を得たんだよ。魔王が地上界に再び現れるから、今このときに聖女ルチアが誕生したんだ》
ルチアはリベルの言葉にこれは避けられない運命なんだなと感じた。
「うん、わかった。明日公爵様に魔王のことや瘴気のことを話すわ。でも聖女のことはもう少し待って欲しいの。魔王が本当に現れたときには必ず話す」
《ルチアがそうしたいのなら。でも僕は公爵ならいつ話してもいいと思ってるよ》
リベルはフィデスが神ユピテルの生まれ変わりだろうと考えていた。
もしそうならルチアにとってとてつもなく大事な存在だ。フィデスにとってもルチアはかけがえのない存在のはずだ。フィデスはルチアを守り抜くだろう。
神ユピテルはルチアの前世のアテネの恋人であり、アテネのこどもの父親でもあるから。
何故ルチアはそこを忘れているのかよくわからないし、神であるユピテルが人間として生まれ変わったのもどうしてだかわからない。
リベルがわかったことは前の黒紫竜ルキウスが亡くなった時期とフィデスが生まれた時期がちょうど重なっていることだ。
リベルはルキウスが弱り始めて亡くなったのは、ユピテルの神としての力が無くなったからだと考えた。
そして生まれ変わったリベルが大きくならないのもおそらくそのせいだろう。
《公爵はどんなことがあってもルチアの味方になってくれると思う。安心して話せばいいよ》
「リベルのその自信どこからくるの?わたしは誰かに話すのは怖いわ」
《そのうちわかるよ。ルチアだって公爵は大丈夫って本当は思ってるでしょ》
「……そうね。公爵様は大丈夫ってわかってるわ。でもこんな誰も持っていないような力をわたしが持っているなんて……やっぱり知られたくないわ……大丈夫、その時がきたら必ず話すから」
ルチアはそう言ってベッドに横たわった。




