53.カザール王城の浄化
「ほう、これはすごいな」
フィデスは感心したように言った。空を飛ぶのは当然初めてである。
リベルは大きくなった分スピードも増していた。
ルチアは少し怖いぐらいだったが、手綱があるのと後ろでフィデスが支えてくれていたので何とか平静を保っていた。
「前にルチアが空中散歩と言っていたが、病み付きになりそうだな。こんなことがなければゆっくりと見学したいくらいだ」
「カザール王国のことが片付いたらゆっくり空中散歩いたしましょう」
「そうだな。楽しみにしている」
三時間かからないうちに国境の砦が見えてきた。王太子が送った早馬も途中で追い越したようだ。
「これは見事に破壊されているな。リベル!ここからカザールの城にはあの三角山に向かって飛んでくれ。あの三角山を超えてすぐがカザール王国の首都だ」
フィデスは腕をまっすぐに伸ばして指を差しながら言った。
リベルは三角山を目指して飛んだ。
三角山を越えるとすぐに首都が現れた。王城は首都のど真ん中にあった。
《あの城瘴気で包まれているね》
リベルは目立たないように高く飛んで王城に近づいた。
《魔王の気配は感じられない。でも城全体が瘴気で包まれているから眷属がいるか、魔王が瘴気で支配しておいて今はここにいないかだね》
「公爵様、王城全体が瘴気で包まれています。リベルが言うには魔王はここにはいないようですが、魔王の眷属がいるか、魔王がどこかで支配しているかのようです」
「そうか……まだ兵の動きはないようだな。とりあえず一旦戻ろう。わたしたちだけではどうにもできないからな。早馬が戻るのを待って改めて対策を立てることになるだろう」
《どうするルチア?このまま浄化しないで帰って大丈夫?早馬がこの城に入るとたぶん二度と帰って来れないよ》
フィデスがいなければこのまま浄化するのにとルチアは思った。
いやフィデスがいようとも浄化して帰らなければ、早馬の騎士はもちろんこの国の民も近隣諸国もいつ襲われるかわからない。
「リベル、浄化する。城全体を包めるぐらいまで降下して」
《了解》
「ルチア、何を言っている?降下したら見つかってしまうぞ」
フィデスは驚いて慌てたように言った。
ルチアはフィデスの言葉を聞こえないふりをして真っ直ぐに王城を見つめた。
フィデスには申し訳ないが眠っていてもらおうとルチアは考え、振り返ってフィデスのおでこに指を当てた。
「ドルミー」
フィデスは一瞬目を見開いて驚いた顔をしたがそのまま眠った。
「リベル、公爵様を眠らせたので落ちないように優しく飛んでね」
ルチアはそう言うと王城に向かって両手を伸ばした。
「ルストラーレ!」
眩しい光が王城全体を包み、瘴気と共に消えた。
《瘴気、消えたようだね》
「中の確認したいからあの最上階のテラスに近づいてくれる?ひと通り回って下まで降りるからリベルは公爵様を守りながらわたしが下に現れたら降りて来て」
《一人で大丈夫?》
「大丈夫よ。魔王はいないようだから、聖女の力さえあれば怖くないわ」
リベルは最上階のテラスの手すりに着陸して、ルチアはテラスに飛び降りた。
「じゃあ、お願いね」
そう言うとルチアはテラスのドアをそっと引いてみた。幸い鍵はかかっていなかった。
王城の中は鎮まりかえっていた。
最上階には誰もいないようだった。階段を探し下に降りるとポツポツと人が倒れている。中まで浄化の力が効いたようだ。
もし魔王の眷属がいるとしたら国王のそばにいるに違いないとルチアはカザール国王を探したが、王城は広くてどこに行ったら良いかわからない。
とりあえず走って廊下をぐるぐると回った。
浄化をすると半時ほどで目を覚ます。時間があまりないと思ったルチアは諦めて王城の外に出た。
ルチアを見つけたリベルが降りて来た。
《どうだった?》
「中まで浄化は効いているみたい。みんな眠っていたわ。眷属か国王を探したんだけど広くてどこにいるかわからなかった」
《しばらくは大丈夫じゃない?あと二日すれば早馬が着くし、国王とは謁見するでしょう。早馬の報告を待てばいいと思う》
「そうね。じゃあ帰りましょうか」
ルチアはリベルによじ登った。
フィデスはまだ寝ている。眠れと暗示をかけたから起こすまで起きないかもしれない。
リベルが飛んでしばらくしてからフィデスのおでこに指を当てた。
「スールゲ」
フィデスの瞼が開いた。
「……あれ…?もしかして眠っていた?」
「いいえ公爵様、眠っていらしたのなら一瞬だけです」
「浄化だとか降下するだとか言っていたんでは…?」
「公爵様に言われて危ないからやめました。見てください、カザール王城からだいぶん離れています」
ルチアに言われてフィデスは振り返った。確かに王城から離れている。
フィデスは腑に落ちないような顔をしてルチアの後ろ姿を見つめた。
日が暮れる前に公爵邸に戻った。
リベルの姿が屋敷から見えたのかクラリスをはじめ使用人たちが心配そうな顔をして外でリベルが降りるのを待っていた。
リベルが屋敷の玄関前に降りるとみんな安堵の顔をして一斉に声を出した。
「お疲れ様でした!」
フィデスがリベルから飛び降り、ルチアが降りるのを抱き抱えるようにして支えた。
ルチアはドキドキしながらフィデスの腕に身体を預けた。
クラリスが待ちきれないようにしてフィデスに近づいて聞いた。
「カザール王国はどうだった?」
「今のところ攻めて来る様子はなかった。時間の問題かもしれんが」
ルチアは二人が話している隙にリベルを誰もいないところに連れて行って元に戻してから部屋へ戻った。




