51.王太子との話
フィデスはルチアの隣に座り、ルチアの顔をじっと見て安堵したように微笑んだ。
「おやおや、女性には興味を全く示さなかった公爵が、女性に向かってそんな顔をするとはこれは天変地異が起きる前触れかな?」
王太子は驚いたようなふざけたような顔で言った。
フィデスは王太子を睨みつけるようにして見た。
「ルチアに何の用ですか?」
フィデスは苛立ちを隠さない声で言った。
「このお嬢さんらしき者が竜に乗って国境に向かったという目撃情報を得てね。フィデスのいう情報源は彼女からかなと思って聞いていたんだよ。詳しい状況を知りたいからね。フィデスが口を閉ざして言わないから」
王太子は口角を上げてはいたが目は笑っていなかった。
フィデスはルチアを見た。ルチアは軽く頷いた。
「全て話してもいいのか?」
フィデスが念を押すように聞いた。
嘘の部分があるが聖女の力のことはバレたくないので心苦しいが仕方ないとルチアは頷いた。
《瘴気のことは話さなくていいの?公爵は瘴気を知っているよね》
ルチアはこっそり「あとで話す」とリベルに言った。
フィデスはルチアから聞いた話を王太子に全て聞かせた。
「この竜が⁈…これは我が国にとって貴重な財産ではないか」
王太子はリベルをじっと眺めた。
「リベルはルチアから離れません。陛下も望まれましたが、ルチアから引き離すと王宮は火事になるかもしれませんよ」
フィデスは脅すように言って王太子がどう出るか待った。
「ふう、仕方あるまい。本来なら王城で囲っておきたいところだが、公爵家にいるのであればいざというとき助けになる。今回はカザールの兵士が驚いて逃げ帰ることになったが、これだけでは終わらないだろう。今度いつ攻めてくるやもわからぬ」
フィデスは安堵の表情になりルチアを見た。
「今日はこれで帰らせてもらってもよろしいでしょうか?」
フィデスは言いながらルチアの肩を抱いて一緒に立ち上がった。
「とりあえずな。明日もフィデスは登城して欲しい。早急にカザール対策をしなければならない。明日には早馬も帰って来るだろう」
王太子はそう言うと執務室の入り口までルチアたちを見送った。
ルチアたちは公爵家の馬車に乗り屋敷に向かった。
馬車の中でルチアはフィデスに瘴気の話をした。
「公爵様、まだ言っていないことがあるんです。実はカザールの兵士が瘴気を纏っていたのです」
「なんだって⁈」
フィデスは驚いた顔をして眉をひそめた。
「瘴気とはあのカフェと同じものか?五百年前に現れた魔物と同じ?」
ルチアは頷いた。フィデスは聖女の伝記を読んでいるから詳しいだろうと思って話した。
「魔王は聖女を恐れて冥界に姿を隠したと本に書いてありました。もし、魔王がカザール王国に現れて国王を操って兵士を動かしたとしたら……」
「……そうか、平和協定を結んでいるにもかかわらず、それを破っていきなり攻めてきたのはそういうことかもしれないと」
ルチアは真剣な顔で黙って頷いた。
フィデスは視線を落とし右手を丸めて顎と下唇の間に置き何かを考えているようだった。
馬車が公爵邸に着いた頃には辺りはもう暗くなっていた。
馬車を降りて屋敷に入るとフィデスがルチアに今日は世話はいらないので食事をとって休むようにルチアに言った。
着慣れないドレスを着て身体的にも精神的にもかなり疲労していたので、ルチアはフィデスの言葉がありがたいと思った。
ルチアは部屋に戻るとまず浴槽に湯を溜めた。
ドレスを脱ごうとしたが一人では後ろのボタンを外すことができなかった。
どうしようかと思案しているときに誰かがルチアの部屋のドアをノックした。
ルチアがドアを開けるとフィデスが立っていた。
「食事を一緒にしながら今日のことやこれからのことを話そうと思って……すまない、まだ着替えていなかったのだな」
「それが……後ろのボタンが自分では外せなくて……」
ルチアは照れくさそうに言った。
「ボタンぐらいなら外してあげよう」
フィデスは何も考えず親切心で言った。
「えっ……あ、ではお願いします…」
ルチアはフィデスを部屋に入れ背中を向けて髪を持ち上げた。
フィデスがドレスのボタンを三個外したところでドレスがはだけてルチアの色白の背中があらわになった。
「……っ!すまない!考えなしに外すなんて言ってしまった。これ以上は……」
フィデスが顔を赤らめて背けながら言った。
「あ…大丈夫です…ドレス抑えときますから腰までお願いできますか?…あとは自分でやります」
ルチアも顔を真っ赤にして言った。
「…わかった」
フィデスは背中を見ないようにして急いで腰までのボタンを外すと部屋の入り口の前に立ち、ドア側に向いたまま言った。
「じゃ、食堂で待っている。着替えたら降りておいで」
そう言ってフィデスは部屋を出た。
ルチアは急いでドレスと下着を脱いで浴槽に浸かりささっと汚れを落として上がり、着替えた。
ルチアはニナの選んだ少し派手目の洋服を着て食堂に向かった。
食堂ではフィデスが席について待っていた。
「すみません。お待たせいたしました」
執事のサイオンが椅子を引いてくれルチアはお礼を言って座った。
「お腹が空いているだろう。まず腹ごしらえをしてから今日のことについて話をしよう」
フィデスは微笑みながら言い、ルチアに食べるように促した。
ルチアは頷いて食べ始めた。
ルチアの所作が見事なので側で見ていたサイオンが「ほおぅ」と呟いた。
「ルチアはなんでもすぐに吸収してそれを行動に出せるのだな」
ルチアの華麗な所作にフィデスも賞賛した。
ルチアは照れながら「ありがとうございます」と言ってから黙々と食べた。
食事が終わり、お茶を飲み始めたときフィデスが今日のことについて話を始めた。
「カザールの兵士のことだが、瘴気を纏っていたのは全員か?」
「はいたぶん。一人ひとりを見たわけではないのではっきりとは言えませんが、リベルの背に乗って上から見た限り隊全体が覆われていたので」
「そうか……」
フィデスは視線をティーカップに落とし何か考えているようだった。




