50.王太子の呼び出し
フィデスは馬から降りるとすぐに国王に謁見を求めた。
ところが誰一人として国王の居場所がわかる者がいなかった。
フィデスは王太子がいつもいる執務室に向かった。
王太子は執務室で大臣たちと対策を練っていた。
「失礼します。殿下お話が」
フィデスが王太子に声をかけると、王太子はフィデスを見て言った。
「悪いがフィデス、今はそれどころではない。カザールが攻めてきたのだ」
「はい、そのことで話があります」
フィデスはリベルが追い払ったことは言わずに、何か不足の事態が起こりカザールの兵士が撤退したことを王太子に話した。
「なんだと⁈ではとりあえず攻めてきてはいないのだな?」
「はい。わたしが見たわけではありませんが、信用のおける情報筋からです。間違いありません」
フィデスが言うと王太子は近くにいた衛兵に向かって叫んだ。
「今すぐ国境に早馬を送れ!それと城内に敵は撤退したと伝達を!」
衛兵は返事をして急いで部屋を出た。
ルチアは誰もいないところでリベルを元の大きさに戻し、フィデスを探して王宮内を歩いた。
衛兵の何人かが城内を駆け回り敵が撤退したことを触れ回っていた。
フィデスが国王に話したのだと思ったルチアは衛兵の一人に声をかけてフィデスの居場所を訪ねた。
王太子の執務室にいることがわかったが、王太子の執務室に平民のルチアが行くわけにはいかない。
ルチアは王宮の玄関近くで待ってみようと思った。しばらくしても会えなかったらリベルに乗って先に公爵邸に帰ればいいかなと考えた。
ルチアが玄関近くでフィデスを待っているとだんだんと喧騒していた王城内が落ち着いてきた。
一人の衛兵がルチアに近づいて来た。
「失礼ですが、コンコルディア公爵家の侍女ルチルアーヌ嬢ですか?」
「はい、そうです」
「王太子殿下がお呼びになっています」
王太子が何の用だろうと思ったが、おそらくフィデスが一緒にいるから呼ばれたに違いないとルチアは衛兵について行った。
衛兵は王太子の執務室のドアの前に立ちノックした。
「ルチルアーヌ嬢をお連れしました」
「入れ」
中から声がして衛兵がドアを開け、ルチアを通した。
「やあ、きみがフィデスの侍女のルチルアーヌか?と、竜だ。なるほどどちらも美しいな」
今喋った正面の机に座っているのが王太子だとルチアは思い挨拶をした。
「王太子殿下にご挨拶申し上げます」
ルチアは丁寧にお辞儀をしてから顔をあげ、辺りを見回したがフィデスはいない。
「フィデスを探しているのか?彼ならここにはいない」
王太子がほくそ笑んで言った。
ルチアは生唾を飲み込んだ。フィデスがいないのに何故王太子に呼ばれたのか。
「そんな顔をしないでくれ。きみたちを取って食おうとしているわけじゃない。そこのソファに腰掛けてくれ」
ルチアは言われた通りソファに腰掛けた。リベルはルチアの膝に座った。
王太子は机から離れ、ルチアの正面のソファに座った。
「実は青いドレスを着た少女が竜に乗って王城から国境に向かって飛び立ったと言う情報が入ってね」
王太子は腕を組んでルチアとリベルを眺めながら言った。
これだけの人がいる中、見られていないわけがないとルチアは思った。
まずは王太子が何を考えているのか話すまでは黙っていようと考えた。
「その情報の少女はきみで間違いないかな?」
ルチアは黙ったまま微動だにせず王太子を見つめた。
「…ふむ、フィデスと一緒できみも黙秘か」
どうやらフィデスは全てを話していないようだ。
どこまで王太子に話しているのかわからないので、やはり何も喋るわけにはいかないとルチアは思った。
王太子はやれやれというような顔をして話し始めた。
フィデスからカザールの兵士が不足の事態が起きて撤退したとの情報を得たが、こんなに早くどうやって情報を得たのか聞いてもフィデスは答えなかった。
そこに青いドレスの少女が竜に乗って国境に向かって飛んで行くのを何人かの者が見たという情報が入ってきた。
本日国王と謁見をした公爵家のルチルアーヌという侍女が竜を連れていたというので、ルチアを探したということだった。
「きみたちが国境まで行って見てきたのではないのか?もしそうなら詳しく聞きたいと思ってね」
王太子は微笑んではいたが目は鋭かった。
ルチアは視線をリベルに向けた。
《黙っているのが一番いいと思うよ》
王太子もリベルに視線を向けた。
「陛下がその竜を欲しがったらしいね。本当のことを話してくれたらわたしが何とかしてあげるよ」
ルチアは王太子の顔を見た。
《本当かなぁ。国王に逆らえるのかな?》
リベルがチラリと王太子を見て言った。
「…国王陛下に進言できるのですか?…この国で最も偉い方に?」
ルチアは恐る恐る聞いた。
「はは、この国で最も偉いねぇ…今はまだ父が国王だがすぐに代わるよ。何せこの騒動でいち早く城から逃げた人だからね、おっと、これは内密に、ね?」
王太子は冗談っぽく言っていたが、最後の言葉は口外すると処刑されそうな顔つきでルチアを見た。
ルチアは冷や汗が出そうだった。
《ろくな人間がいなさそうだね王族って。こいつも腹黒そうだし》
ルチアは苦笑いしながら、リベルの言葉が自分以外聞こえなくて良かったと思った。
執務室の外が急に騒がしくなった。何か争っている声がする。
「何事だ!」
王太子が言うと部屋にいた側近がドアを開けた。その瞬間にフィデスが部屋に入ろうとして衛兵に止められた。
「公爵様お待ちください!誰も入れるなと言われているんです!」
フィデスは衛兵を押しのけながら部屋を覗いてルチアを見た。
「ルチア!大丈夫か!」
「公爵様!」
「よい、衛兵は下がれ」
王太子が言うと衛兵は下がってドアを閉めた。
「殿下。これは一体どういうつもりですか?」
フィデスは先ほどの取り乱したような態度とは変わっていつもの落ち着いた物腰で言った。
「まあまあ、フィデス。きみも座りたまえ。ゆっくりお茶でも飲みながら話そうじゃないか」
王太子は余裕のある笑顔でフィデスに言った。




