49.隣国からの襲撃
ルチアとリベルがオストラル伯爵領についたとき、カザールの兵士はまだ国境付近にいた。
国境の砦は破壊され、フローラル王国の衛兵らしき者が何人も倒れていた。
《ルチア、よく見て!カザールの兵士たち瘴気を纏っているよ!》
リベルに言われてルチアが下にいるカザールの兵士をよく見ると確かに瘴気のような濃いモヤが身体にまとわりついていた。
《魔王かあるいは眷属が動かしているのかもしれないね》
リベルが言うとルチアは厄介なことになったと思った。冥界から力のあるものが来ているということだ。五百年経ってまた地上界を侵食するつもりなのか。
「とりあえず兵士たちを浄化するわ。もう少し降下して!」
リベルは兵士たちの真上に降下した。
「あれはなんだ!」
兵士たちが驚いているのも束の間、ルチアは浄化の力を使った。
「ルストラーレ!」
眩しい光がカザールの兵士たちを包み込み、兵士たちはバタバタと倒れ込んだ。
ルチアは地上に降りるようにリベルに告げて、倒れているカザールの兵士たちの近くに降りた。
「うーん、これ全員カザールの城まで転移できるかしら?カザールの城なんて見たことないのよね」
《やってみないとわからないよ。盗賊のときは転移場所をイメージしなかったんだよね》
「あのときは盗賊に相応しい場所って思ったの。じゃあ、やってみるわね」
ルチアはカザールの城と念を込めた。
「テレポルタティオ!」
カザールの兵士たちはルチアが放った眩しい光に包まれ、光が消えたときには全員いなくなっていた。
「ちゃんとお城に転移したかしら?してなかったらごめんね……あとはフローラル王国の衛兵ね。まだ息があれば治癒できるのだけど……」
ルチアは衛兵がまだ息をしているか一人ひとり確かめた。
ため息をつきながら落ち込んでいるルチアを見てリベルが慰めた。
《ルチアのせいじゃないよ。それどころかルチアのおかげでフローラル王国は助かったんだから。これだけの犠牲で済んだことに感謝だよ》
「……うん、ありがとうリベル……一応全体に治癒の力をかけておくわ。もしかしたら見落としてるかもしれないから」
ルチアはそう言って衛兵たちに向かって手をかざした。
「サナーレ!」
淡い光が衛兵たちを包み込んだ。
《壊された砦はどうする?直す?》
「そこまでしたら亡くなった衛兵がなぜ命を落としたのかわからなくなるわ。さあ、帰りましょう。帰って考えることがたくさんあるわ」
ルチアはリベルの背に乗り王都に向かった。
《考えることって何?》
リベルは飛びながら聞いた。
「兵士が何故瘴気を纏っていたか。兵士は独断で動くはずないからカザール国王が支持したはずよ。つまり国王も瘴気を纏っているか、あるいは魔王か眷属に支配されているか……ああ、もう!カザール王国に行かないといけなくなったわね!」
ルチアは頭を抱えた。
《今すぐ行く?》
「いいえ、魔王が直接関与しているなら気をつけないと。聖女がいなくなったと思って地上界に再び現れたのならいいけど、聖女対策をこの五百年の間に練って来たとしたら慎重に行動しないとね。兵士を送りつけたからなんらかのアクションをしてくるはず。それを待つわ」
王都が見えてきた。リベルは王城に行くのか公爵邸に帰るのかルチアに聞いた。
ルチアは悩んだ。きっと今頃王城は慌てふためいて兵士を集めているだろう。その必要がなくなったとどう説明すればいいか。
「公爵様のいらっしゃるところに。まだ王城にいると思うの」
《いや、ルチア。王城にはもういないよ。ほらあの馬でかけてる人、公爵じゃない?》
リベルに言われてルチアは下を見た。かなりのスピードで駆けているらしく通り過ぎて行った。
「リベル、Uターンして!公爵様の目の前まで飛んで!」
リベルは旋回してフィデスを追った。相当スピードを出しているらしくなかなか追いつけなかった。
《ルチア、しっかり掴まっていて!》
リベルはスピードアップしてフィデスの視界に入るところまで迫った。
フィデスはリベルに気づいて馬を止めた。
リベルも地上に降りた。
「ルチア!」
フィデスは馬から降りてリベルに駆け寄って来た。
ルチアがリベルから降りるとフィデスがルチアを抱きしめた。
「公爵様…」
ルチアは驚いたのと同時に心臓が高鳴った。
フィデスはハッとしてルチアの肩に手を乗せ、鋭い目つきでルチアを頭の先からつま先まで網羅した。
「怪我はないな……」
フィデスはため息をついて安堵の顔になった。
「何があったか、話してくれるな?」
ルチアは頷いたが、どこまで話そうかと悩んだ。
リベルの背に乗りカザール王国との国境まで飛んだこと、砦が壊されてフローラル王国の衛兵が全員倒れていたことをルチアは話した。
あとは、今よりさらに大きくなったリベルが上空から現れて火を吐いたことに驚き、カザールの兵士は全員撤退したとルチアは嘘をついた。
「リベルはこれより大きくなれるのか?口から火も吐けるのか?」
フィデスは驚いていた。
前世の黒紫竜ルキウスが火を吐いたのでリベルも吐けるだろうと思ってルチアは言った。
《僕は吐いたことないけど》
リベルの言葉にルチアは苦笑いした。
「ではとりあえず、兵士はいなくなったのだな。すぐに王宮に戻って陛下に報告しよう」
フィデスは馬に乗り、王都に向かった。ルチアもリベルに乗りフィデスの後を追った。
王都に着くと多くの貴族たちが大荷物を馬車に積んで王都から離れようとしていた。
国民は何も知らされていないようで、貴族たちのその様子を何事だろうかと傍観していた。
王城に着くとこれまでにないほど大騒ぎになっていた。




