48.国王と謁見
王城にリベルを連れて行く日が来た。
この日のためにフィデスがルチアにドレスをあつらえた。
「よく似合っているよ、ルチア。きっと王城にいる誰よりも美しい」
フィデスは馬車までルチアの手を引きながら言った。
ドレスはブルーシルバーの髪が映えるロイヤルブルーの生地に金の刺繍が施されていた。
「もったいないお言葉です、公爵様。こんな素敵なドレスありがとうございます」
「所作も申し分ないよ。オペランティ卿が言っていた通りだ」
フィデスは馬車の手前で握っているルチアの手の甲に口付けをした。
ルチアは胸が高鳴り顔を赤くしたが、これは貴族にとって普通の挨拶だと言い聞かせた。
馬車が王城の門をくぐるとルチアは手に汗を握るほど緊張してきた。
ルチアの横で丸まっていたリベルがルチアの握りしめた拳が震えていることに気づいた。
《ルチア、大丈夫。手が震えているけど》
ルチアはリベルに向かって無理に笑顔を見せた。
「大丈夫よ」
それを目の前で見ていたフィデスが心配そうな顔つきで見つめていた。
馬車が王宮の入り口の前で止まった。
衛兵が馬車のドアを外から開け、中を確認してから降りるように促した。
公爵家の馬車が着いたので、見目麗しいフィデスを一目見ようと近くにいた貴族令嬢たちが集まって来た。
フィデスが降りてルチアに手を差し伸べた。ルチアがフィデスの手を取り馬車から降りると周りにいた貴族たちの嫉妬の声とルチアの美しさに感嘆する声が聞こえた。
さらにその後、リベルが自ら飛んで降りて来たので、周りの者たちは驚きと恐怖の声が漏れた。
フィデスは何も聞こえなかったかのようにルチアをエスコートして、衛兵の案内で謁見の間に向かった。
リベルもルチアを後ろから守るようにして飛んでついて行った。
謁見の間に入ったルチアたちは、すでに待ち構えていた国王と王妃に丁寧に挨拶をした。
「小さいが黒紫色の立派な竜だな。そなたがこの竜の飼い主か?」
「はい。ルチルアーヌと申します」
「なるほど。適齢期になっても女性を寄せ付けない公爵が心酔するわけだ。この世のものと思えぬほど美しいな、公爵」
国王はルチアを撫で回すように見た。
フィデスは少し前に出てルチアを隠すようにした。
「陛下、お戯もほどほどに。コンコルディア公爵、心配なさらずともよい。ルチルアーヌと申したな。そなた出身は?」
王妃が国王を諌め、ルチアに質問した。
ルチアはなんと答えればよいのかわからず、顔を上げることもできなかった。
「恐れながら王妃様、ルチルアーヌはわたしの専属侍女でございます。慣れない王宮で緊張をしておりますので、質問はわたしにお願いいたします」
フィデスがそう言ってくれたのでルチアはホッとした。
「どこの家門から迎えた侍女だ?」
国王が聞いた。
「ルチルアーヌは貴族ではありません。わたしが親戚の領地に遊びに行っているときに竜と一緒にいる彼女を見つけて、しばらくの間雇用したのです」
国王も王妃も驚いた。公爵の専属侍女ならどこかの貴族夫人か令嬢が迎えられるのが通常だ。しかし貴族といってもわからないほどルチアの所作は完璧だ。
「つまり平民か」
国王は目を細めてルチアを見た。
ルチアは視線を更に落として下唇を噛んだ。
「それならば遠慮はいらぬな。ルチルアーヌとやら、その竜を余に譲ってくれ。礼は弾んでやる」
ルチアは俯いたまま目を見開き、どうすればいいのか考えた。
「陛下!この竜はルチルアーヌにとって家族も同然。その話はお受けできません!」
フィデスが強い口調で言った。
「余の言うことが聞けぬと?たかが平民風情に竜など必要なかろう」
フィデスは下唇を噛み締めて国王を睨んだ。
《ルチア、記憶を消そう。それしか方法はないよ。このままでは公爵が捕えられてしまうよ》
ルチアはリベルを見て頷いた。
ルチアが力を使うため立ちあがろうとしたとき、バタバタと足音が聞こえてきた。
「大変です、陛下!隣国のカザールが我が国の国境付近まで兵を進めているとの情報が入りました!」
官僚が入って来て慌てて国王に伝えた。
「なんだと!カザールとは平和協定を結んでいるはずだぞ!間違いないのか⁈」
国王は椅子から立ち上がって官僚を問い詰めた。
「間違いありません!今しがた国境の砦にいる衛兵から伝書が届きました!」
「なんと……」
国王は力を落としたように椅子に座って頭を抱えた。
「我が国がカザールに勝てるわけがない…」
「陛下……」
王妃も狼狽えていた。
カザールといえばオストラル伯爵領から東にある国だ。国境を越えればオストラル伯爵領が踏み荒らされてしまうとルチアは焦った。
「リベル、今すぐ故郷に帰るわよ」
《了解》
「ルチア、どうするつもりだ?」
フィデスがルチアに近づいてこっそり聞いた。
「公爵様、ここはお願いします。わたしはリベルに乗ってすぐにオストラル伯爵領に向かいます」
「何を言っている!危険だ!国の兵が出陣するから君たちは王都で待機しなさい!」
ルチアは国王を見てため息をついた。
「公爵様、この国に勝算があるのですか?こうしている間にも父たちが大変な目に遭っているかもしれないんです!」
ルチアはそう言うとフィデスを振り切って謁見の間を出て王宮の外に出た。
王城全体が騒がしかった。ルチアは誰もいないところを探してリベルを大きくした。
「クレス!」
リベルに飛び乗りルチアはオストラル伯爵領に向かった。
フィデスが王宮から外に出たときには、リベルがルチアを乗せて空高く舞い上がっていた。




