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47.国王からの呼び出し

 ニナから手紙が届いた。王都に遊びに行きたいと言う内容だ。ペルデルがカフェを他の人に任せて首都に店を出したらしいということも書かれていた。


「もう知ってるわ…」


《ルチア、モテモテだよね》


 この間フィデスとオルドとカフェに行ったとき、リベルは小さくなってルチアのバッグの中に隠れていた。


「ほんとに、急にみんなどうしたのかしら?わたしみたいな田舎者の芋娘に…」


《ルチアは故郷でもモテてたらしいよ》


 ルチアは眉を寄せて首を横に振った。


「それ誰が言ったの?一度もモテたことなんかないわ。誰一人として告白されたことないもの」


《ニナが公爵に言ってたよ。スカイが睨みをきかして寄せ付けさせなかったって》


 そういえば思い当たる節が何回かあるなとルチアは思った。

 強引にデートに誘われたり、つけ回されたりしたことがあった。あのときはスカイが相手に圧力をかけて遠ざけてくれた。

 ルチアはフーッと息をはいた。いろんな感情に振り回されずのんびりと生活したい。恋だの愛だのというものにも振り回されたくない。結婚するなら一緒にいることが自然で穏やかな暮らしができる人としたい。嫉妬も溺愛も必要ない。

 ルチアは早くフィデスの領地に行きたいと思った。田舎に行けばまたのんびり穏やかに過ごせるんじゃないかと考えた。


 ルチアはニナに手紙の返事を書いた。いつ来るか連絡さえくれればいつ来ても構わないと返事を書いた。ヤンやモリーにも来てもらいたいと思ったが、そうなればスカイも来るだろう。スカイが連れ戻そうとさえしなければ一緒に来てもいいのだが。


 今日フィデスは国王に呼び出されて王宮に行っている。

 フィデスは王太子の補佐として時折登城しているが、国王に呼び出されることは滅多にない。


 ルチアはリベルと庭園で散歩をしていた。

 ガゼボ近くの花壇に鈴なりに薄紫色の小さな鐘のような花が一面に咲いているのを見つけた。リックが近くで作業をしていたのでルチアは花の名前を聞いた。


「この花はレディベルと言います。野草なのですが僕が気に入って育てています」


「とても愛らしい花ね。公爵様の部屋に飾りたいのだけど摘んでもいいかしら?」


「どうぞ、どうぞ。庭にある花は自由に摘んで屋敷の中に飾って構いません。そのために育てているのですから」


 ルチアがお礼を言うとリックが持っていたハサミで摘んでくれた。


「ルチア!ルチアどこ?」


 遠くでミランダの声がした。

 ルチアはリックから花を受け取ると急いで声のする方へ行った。


「侍女長!ここにいます!」


「あ、ルチア。フィデス様が帰られたんだけど、急いでルチアを呼ぶようにと。執務室ね」


 ミランダがレディベルに気づき預かっておくと言って受け取った。

 ルチアは急いで執務室に行って、ドアをノックした。


「ルチアです」


「入ってくれ」


 フィデスの声がした。

 ルチアが中に入るとフィデスが眉をひそめてソファに座っていた。

 何かしでかしたかしらとルチアは不安になった。


「座ってくれ」


 フィデスに促されてルチアはおずおずと向かいのソファに座った。リベルはルチアの足元で丸まった。


「……今日陛下に呼び出されてリベルのことを聞かれた」


 フィデスは申し訳なさそうな顔をしながら言った。


「屋敷の使用人にはリベルのことは口外しないように釘を刺していたんだが、王宮にも出入りしている商人がここに来たときリベルを見かけたようで、王宮で陛下と謁見したときどうも話題作りに喋ったらしい……それで陛下が是非とも見たいと言い出して」


 リベルを王宮に連れて行かなければならなくなったということねとルチアは思った。


「わたしの竜ではなく侍女が飼っているものだからと断ったのだが……聞いてもらえなくて…」


 相手は国王だ。無下に断ることなどできなくて当然だ。ルチアはフィデスの心情を理解した。


「申し訳ありません。わたしがもっと気をつけているべきでした。公爵様には余計な気を遣わせて本当に申し訳ありません」


 ルチアは頭を下げて謝った。


「ルチアは悪くない。わたしが君たちをここに呼んだのだから、わたしがもっと気をつけるべきだった。それでどうしてもリベルを登城させなければならないが、ルチアが行きたくなければわたしだけで連れて行ってもかまわないか?」


 ルチアはリベルを見た。


《ルチアが行かないなら僕は行かないよ。僕はルチアのためにいるのだから》


 ルチアはそっとため息をついた。平民風情の自分が王城なんてとんでもない。だけどルチアが行かなければリベルは動かない。それではフィデスの顔を潰してしまう。


「わかりました。わたしも一緒に連れて行ってください」


 ルチアが言うと執務室で仕事をしていたクラリスが口を挟んだ。


「ルチア、君は行かない方がいい。王城なんて気位の高い貴族の巣窟だ。嫌な思いをするだけだぞ」


 ルチアは困った。自分が行かなければリベルは行かない。でもそれを伝えればリベルと会話ができることがバレてしまう。竜と会話ができるなんてバレればどんなことで利用されるか、ルチアは絶対に知られたくなかった。

 そういえばフィデスはルチアとリベルが会話ができることを薄々感じていることを思い出した。

 この際フィデスには伝えてもいいのではないかと思った。フィデスは信用できる人物だとルチアは思った。

 ルチアが考え込んでいるとフィデスがクラリスに言った。


「クラリス、悪いがサイオンかミランダにお茶と茶菓子を持って来るように伝えてくれ」


「了解」


 クラリスは返事をして執務室を出た。


「リベルが何か言ったのだろう?」


 フィデスが小声で聞いてきた。

 ルチアは頷いてフィデスの顔をじっと見た。


「大丈夫、前にも言ったが誰にも言わない」


 フィデスは微笑みながら頷いた。


「リベルはわたしが行かなければ行かないと言っています」


「そうなのか?リベル」


 フィデスはルチアの足元にいるリベルに向かって言った。

 リベルはルチアの膝に乗りツンとしてから横を向いて頷いた。


「リベルは人の言葉がわかるんだな。どうしてルチアはリベルの気持ちがわかるんだ?」


 番だからなんて言えるわけがない。


「それは……どうしてだかわたしにもよくわかりませんが、リベルの言葉が頭の中に入ってくるんです」


「そうか…君たちは硬い絆で結ばれているんだな」


 フィデスは少し寂しそうに呟いた。


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