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46.王都新出のカフェ

 オルドとは街の広場の噴水の前で待ち合わせていた。そこまでは乗合馬車で行くつもりだったが、フィデスが公爵家の馬車を出してくれた。


 馬車が広場につき、オルドは公爵家の馬車が見えたのでルチアだと思って手を振りながら馬車に近づくとフィデスが降りて来て、オルドをジロリと見た。

 オルドは驚いて立ち止まり振っていた手を慌てて背中に回した。

 フィデスに続いてルチアが降りて来た。


「公爵様にご挨拶申し上げます。ルチア、ごきげんよう」


 オルドはフィデスに丁寧に挨拶をして、ルチアに手を振った。

 ルチアはフィデスのお願いを断れなかった。新しくできたスイーツの店に行くだけだから三人でもいいかなと思った。


「オルド様、今日はお誘いしていただきありがとうございます。あの、公爵様も一緒なんですが…」


「オペランティ卿、今日はルチアの護衛のつもりで来た。よろしく頼む」


 フィデスはルチアの後ろに立ちオルドを牽制した。

 オルドは少し困り顔をしてルチアを見た。ルチアは同じような顔をして頷いた。


「…よろしくお願いします、公爵様。では行こうか、ルチア。この間言ったスイーツの美味しいカフェに」


 オルドはルチアに向かって腕を差し出したが、フィデスと目が合って慌てて腕を下げた。

 オルドの落ち着かない様子を見て、ルチアは誰だって格上の者と一緒だと緊張するわと思いオルドに心の中で謝った。


 三人は広場から歩いて数分の新しくできたカフェにやって来た。

 その見た目の派手なカフェにルチアは既視感をおぼえた。しかしながらさすが王都、その派手さも周りに溶け込んで違和感がない。

 流行っているらしく入り口付近で何人もの列ができていた。


「混んでるのね。美味しいと有名なだけあるわ」


「大丈夫だよ、ルチア。ちゃんと予約してあるからすぐに入れるさ」


 オルドは入り口のカウンターで名前を言い、一名増えたことを告げた。ウエイターが予約席まで案内してくれた。


 オルドがルチアに椅子を引いてあげるとすかさずフィデスはその隣に座った。オルドは苦笑いしながらルチアの向かいに座った。

 ウエイターが注文を聞きに来た。


「あ、碧眼ブルーシルバー…」


 ウエイターはルチアを見てつぶやいた。注文を取ったウエイターは慌てて厨房に入って行った。

 ルチアはウエイターのつぶやきが気になったが、フィデスも気にしているようだ。

 しばらくして注文の品を持って来たウエイターを見て、ルチアもフィデスも驚いた。


「ペルデル!」


 ペルデルは注文の品をひとつずつ確認しながらテーブルに置き、本日のスイーツセットの種類を説明したあと、ルチアに話しかけた。


「やあ、ルチア久しぶり。会いたかったよ」


 ペルデルはそう言ってルチアの髪に触れた。

 フィデスは怪訝そうな顔をした。オルドも一瞬ムッとした顔をしてから言った。


「ルチア、知り合いかい?」


「わたしの故郷の街のカフェのオーナーです……どうしてペルデルが王都に?」


 ルチアはオルドに答えてからペルデルに質問した。


「わたしのカフェの噂を聞いて王都から通ってくれていた貴族婦人に王都で店を出さないかって誘われていたんだ。ルチアが王都に来る前からだよ。どうしようか迷っていたけど、ルチアが王都に行くと聞いて迷わず王都に店を出すことを決めた。ルチアの特徴をウエイターたちに伝えて、ルチアが来るのをこの一ヶ月心待ちにしていたんだよ。やっと会えたね。三、四ヶ月ぶりかな?」


 相変わらずおしゃべりだなとルチアは思った。

 フィデスはずっと怪訝そうな顔をして黙っている。

 オルドは三人の間で何かあったのかと考えた。


「それで君はルチアとどのような関係?」


 オルドはペルデルに聞いた。


「ルチアはわたしの恩…」


「ただの店のオーナーと客です。妹がとても気に入っていて再々連れて行かれたんです」


 ルチアはペルデルの言葉を遮るように言った。

 ペルデルはチラリとフィデスを見てルチアに向かって微笑んだ。


「まあ、今はまだそんな関係だけど、わたしはルチアに惚れていますからこの先関係が変わるかもしれません」


「ペルデル!」


 ルチアは驚いた顔をしてからペルデルを睨んで言った。


「あり得ないな」


 フィデスは静かにかつ威圧的な言い方をした。


「うーん、君がここでルチアに告白するならわたしも参戦させてもらうよ。公爵様に遠慮していたけど、僕もルチアのことは気に入っているからね」


 オルドが挑戦的な口調でペルデルに言った。

 フィデスの顔が歪んだ。

 ルチアは再び驚き困惑した表情でオルドを見た。


「僕も恋人候補の一人として頭に入れた置いて欲しいな」


 オルドはルチアに向かってにっこりと微笑んだ。

 フィデスが立ち上がり、テーブルに銀貨をパチンと置き、ルチアの手を取って入り口に向かった。


「公爵様…?」


「ルチア、待って」


 オルドも慌てて席を立ち後を追った。

 ペルデルはフィデスがテーブルに置いた銀貨を手に取り叫んだ。


「お客様、お釣りがあります!」


「釣りはいらない」


 フィデスは投げ捨てるように言ってルチアの手を引いたままカフェを出て広場に向かって早足で歩いた。


「あの、公爵様?」


 フィデスはハッとして立ち止まった。


「すまない、ルチア。まだ食べてもいないのに勝手に連れ出して…」


 オルドが追いついて来た。


「公爵様、ルチア、すみません。なんかペルデルさんがあまりにもルチアにベタついていたのでつい言ってしまいました」


「では君は本気ではないということか?」


 フィデスはオルドを睨みつけながら言った。


「僕は……」


 オルドはフィデスの圧が凄すぎて何とも思っていないと言おうとしたが、ルチアを見て決心したように言った。


「僕はルチアのことを本気で好きです」


 フィデスの顔が歪んだ。ルチアも驚いた。


「ルチアはわたしがご両親にお願いして預かった者だ。そう簡単に付き合えると思うな。それに君は女性に不自由していないと言っていたな」


 フィデスは冷静だが低い声で威圧的に言った。


「あれは…場を和ませようと言ったことで本当のことではありません!」


 オルドはフィデスから目を逸らさずに真剣な眼差しで言った。


「とにかく今日はこれで終わりだ。今度からルチアを誘うときはわたしを通してくれ」


 そう言うとフィデスは手を繋いだままのルチアの顔を見てそれでいいかの返答を待った。

 ルチアは軽く頷いた。


「…わかりました」


 オルドは視線を落として渋々返事をした。


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