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44.ダンスのレッスン

 翌日、ルチアはリベルと庭園を散歩した。庭園といえど迷ってしまうぐらい広かった。

 この広さを二人だけで手入れしているのかと思うとラダとリックの親子は凄いなとルチアは感心した。

 そんなことを考えているとリックに会った。


「こんにちは、リック」


「あ、ルチア様。こんにちは」


 リックは帽子を取って頭を下げた。


「リック、わたしも使用人の一人よ。それに同じ歳なんだから様付けはやめてくれない?」


「わかりました」


「敬語もね」


 ルチアはウインクをして笑った。リックも照れ笑いをした。


「あの、竜に触ってもいいですか……いいかな?」


 リックは敬語を使ってルチアに首を傾げられ慌てて言い直した。


「いいわよ。リベルっていう名前なの」


 二人は花壇の淵に座ってルチアの田舎での生活やリックの公爵家での生活を談笑した。


 二人の様子を執務室の窓からフィデスが見ていた。


「フィデス、顔が怖いぞ。何を見ているんだ」


 クラリスが書類に目を通しながら聞いたが、フィデスは黙って窓の外を見ていた。クラリスはそっと机から離れ、フィデスの後ろに立った。


「またルチア嬢か。気になるならずっとそばに置いておけよ。仕事が片付かないだろう」


 クラリスは首を振りながら辛辣に言って席に戻った。

 フィデスはクラリスを睨みつけてから自分の席に座り業務を始めたが、外が気になって仕方がないようだった。


「フィデス、わたしがルチアをここに連れてこようか?」


 クラリスに言われてフィデスはハッとしたような顔をして額を拳で軽く叩いた。


「悪い、クラリス。どうしてかわからないが、ルチアのことが気になって頭から離れないんだ」


 フィデスは額に拳を置いたまま上を向いてため息をついた。


「どうしてかわからないだって?お前本気で言ってる?女性を好きになったことがないのか?……いや、なかったな。こどもの頃からお前のそばにいるが浮いた話が一つも出てこなかったな」


 クラリスはニヤニヤしながら言った。


「どういう意味だ?」


 フィデスは真剣な眼差しでクラリスに聞いた。


「お前が言ってるような気持ちを恋心って言うんだよ」


 クラリスが言い終わる前にフィデスは思わず立ち上がって顔を両手で覆った。


「まさか……」


「そのまさかだよ」


「いや、そんなはずない。ただ気になっているだけだ。こどものときからの憧れた聖女に似ているから……」


 クラリスがキョトンとした顔になった。


「お前、まだ聖女と竜の伝説を信じていたのか?」


「伝説じゃない。伝記だ!本当にあった話だ」


 フィデスは眉を吊り上げてクラリスに抗議した。


「本当の話かもしれないが、もう五百年も前の話だ。ルチア嬢とは関係ないだろう」


 これまでのルチアとリベルのことを考えれば関係ないとはいえないとフィデスは思ったが、ルチアが隠そうとしている以上何も話すことはできないと思い、フィデスは黙って業務を始めた。

 クラリスは軽くため息をついて書類に目を通した。



 午後、広間でダンスのレッスンをすることになった。

 まずはオルドが女性役になってフィデスと踊って手本を見せた。

 フィデスはしかめっ面だったが、男同士でもフィデスの高身長にオルドのしなやかな動きがマッチしていて美しく、ルチアは見惚れていた。


「ルチア、ぼうっと見てないでわたしの動きをちゃんと把握して!」


 ルチアはオルドの声にハッとしてオルドの足の動きをしっかりと見た。


「じゃあ、そろそろルチアに踊ってもらおうか。踊りながら姿勢や細かい動きを指示するからちゃんと聞くんだよ」


 オルドはルチアと交代するときにコソッとルチアに耳打ちをした。


「公爵様がどんな顔をしているか見て」


 オルドはニヤっとした。ルチアはどういうことかよくわからなかった。


「はい、まずは挨拶から」


 ルチアは先程見たオルドがした挨拶とそっくりにしてみせた。

 オルドはその動きに感心した。

 ルチアはフィデスが差し出した手を取った。フィデスに腰を引き寄せられ恥ずかしくなって俯いた。


「ルチア、俯いていてはダメだからね。しっかり顔をあげてにこやかにね」


 ルチアは恥ずかしい気持ちを抑えて、顔をあげ微笑んだ。


「笑顔が固いけど慣れだね。音楽かけるよ」


 ルチアはオルドの動きを思い出しながら必死で踊った。フィデスがどんな顔をしているかなんて見る余裕なんてなかった。


「ルチア、ダンスは初めてじゃないのか?」


 フィデスが言った。


「…いえ、初めてです」


 ルチアは余裕なく答え、必死でステップを思い出していた。

 音楽が止まった。ルチアはホーっと息を吐いた。


「ルチア、挨拶。ため息は見えないところでね」


 オルドに言われてルチアは慌てて最後の挨拶をした。


「初めてにしては上出来だよ。よくあの短時間でわたしのステップを見て覚えたね。あとは必死な顔と硬い動きを何とかすれば大丈夫。じゃあもう一度。今度は細かく言うからね」


 ルチアは再びフィデスに腰を支えられてドキドキしたが、音楽がかかるとそれどころじゃなく足を踏まないようにステップのことばかり考えていた。


「ルチア、顔あげて、笑顔。背中丸めないで、背筋伸ばして。ルチア手は肩に軽く置くの、握り締めないで」


 オルドに言われるたびにルチアは焦った。


「ルチア、ダンスは楽しむものだ。音楽に耳を傾けてわたしにもう少し委ねてごらん」


 フィデスは優しく語りかけ腰を支える手に力を入れてルチアを少し床から浮かせクルクルと回った。

 ルチアは驚いたが落ちないようにフィデスにしがみついた。恥ずかしかったがそれが妙に心地よくていつまでもこうして回っていたいと思った。


「はい、じゃあ今日はこれで終わり」


 オルドの声に我に返ったルチアは慌ててフィデスから離れ、挨拶をした。


 ダンスのレッスン後はフィデスの部屋の掃除をし、夕食の準備してフィデスとリベルの世話をして片付けをしてから部屋に戻った。

 部屋に戻ったルチアはベッドに飛び込むように寝転んだ。


《だいぶん疲れているようだね》


 リベルはルチアのベッドに乗って来て言った。


「…うん、慣れないダンスをしたせいでもあるけど、気疲れもね…」


《専属侍女ってそこまでしなきゃいけないものなの?》


「うーん、わたしにもわからないわ。公爵様も言っていたけど…侍女長とクラリス補佐官が必要だって言うんだからするしかないわ…」


 ルチアはそのまま眠りについた。


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