43.公爵にバレた?
フィデスに服を買ってもらったルチアは帰りの馬車の中で居心地の悪い思いをしていた。
目の前に座っているフィデスは腕と脚を組んで横を向いて不機嫌そうにしているのだ。
ルチアの前でこんなに不機嫌なフィデスを見るのは初めてだった。
「すみません、公爵様。わたしのせいでお手間を取らせてしまった上に、服まで買っていただいて……本当に申し訳ありません」
ルチアは頭を下げたままチラリとフィデスを見ながら謝った。
フィデスはフーっと息を吐いた。
「人助けをしたのだからルチアが謝ることではない……すまない、わたしの気持ちが顔に出ていたようだな……聞いてもいいか?」
「はい」
ルチアはこどもをどうやって治したのか聞かれるのだろうかとドキドキした。
「何故オペランティ卿と街にいた?」
ルチアはそっち?と肩透かしに合った気持ちになった。
「午後から空いたので侍女長がオルド様に案内してもらって王都の見学に行って来なさいとお休みをくださいました」
「……きみはいつからオペランティ卿のことを名前で呼んでいる?」
フィデスは少しイラついた声で言った。
「あ、オル…オペランティ卿が街では貴族だと思われたくないので名前で呼んで欲しいと…」
「そうか……それでリベルは置いて二人っきりで街に行ったのか?」
ルチアはリベルの世話のために王都に呼ばれ、給金をいただくことになっている。
フィデスはリベルを放置して遊びに出たのが気に入らないのかもしれない。
リベルの今の姿を見せたくはないが、職務怠慢と思われるのは絶対に嫌だと思った。
ルチアはバッグを開いてリベルに出てくるように促した。
リベルがバックの中から飛び出してフィデスの目の前まで飛んだ。
「!!…リベルなのか?」
「はい、そうです。リベルが小さくなれることも知ってカバンにそっと忍ばせて連れて来ました」
「オペランティ卿は知っているのか?」
「いえ、リベルが大きくなったり小さくなったりすることを知っているのは公爵様だけです。ですのでリベルが一緒にいたことをオペランティ卿は知りません」
その言葉を聞いた途端フィデスの顔が綻んだ。
ルチアはフィデスの顔が変わったのを見てホッとした。職務怠慢でクビになるか、減給になるのは免れたかなと思った。
「次に街に出るときにはわたしが案内しよう」
フィデスは微笑みながら言った。
「いえ、とんでもありません。公爵様はお忙しいのに。今度からは一人でも大丈夫です」
ルチアは両手を前に出して横に振った。
「そうか……」
フィデスは寂しそうな顔をして窓の外を見た。
ルチアはどうやってこどもを治したのかとフィデスが聞いてくるとばかり思っていたが、全くその話には触れなかった。
もしかして騎士を治した前例があるから気にしていないのかもしれないと思った。
公爵家に着くとオルドが待ちかねていたようにルチアに話しかけてきた。
「公爵様お帰りなさいませ。ルチア話があるんだけど」
オルドはフィデスに挨拶するとすぐにルチアに向かって言った。
「オペランティ卿、ルチアは疲れている。今日は帰ってくれ。明日の午前中の講義も休ませるつもりだ。午後からのダンスのレッスンのときに来てもらおう」
フィデスが後ろからルチアの肩に手を置いて眉をひそめてオルドに言った。
オルドは仕方なしにお辞儀をしてトボトボと馬車に向かって行った。
ルチアは疲れていなかったが、フィデスの言葉を遮ることはしなかった。
オルドはきっとこどもの怪我をどうやって治したのか聞きたいのだろう。彼はこどもを抱えて馬車に乗せてくれた人だ。こどもの怪我がどれだけ酷かったかよく知っている。
ルチアはオルドに話せることがなかったので、フィデスが断ってくれたことに感謝した。
明日も二人きりの時間がなくなったので聞いてくるタイミングがないだろう。
ルチアはフィデスがわかっていてそうしてくれたのだろうかと考えた。もしそうなら力のことを知っているのだろうかとルチアは不安になり、フィデスの顔を見た。
ルチアと目が合ったフィデスは優しく微笑んだ。
「あの、公爵様。明日の講義はどうしてお休みにしてくださったのでしょう?」
ルチアが尋ねるとフィデスは片眉を上げで答えた。
「さっきも言った通り疲れているだろうと思ってだ」
ルチアは腑に落ちない顔をしてフィデスをじっと見た。
「…前にも言ったが、わたしは五百年前の聖女と黒紫竜に憧れを抱いている。彼女たちの活躍を書いた本を何冊も何度も読み漁った。アルカナ聖国が今でもあると信じてもいる。現に目の前に大きさを自由に変えれる竜を目の当たりにしているからな」
フィデスは目を細めてルチアを見つめた。
「聞かれたくないこともあるだろう?明日の午前中はリベルと散歩にでも行けばいい」
フィデスはそう言うとルチアの腕を取り玄関に向かった。
力のことを何となくわかっているような口振りだとルチアは感じた。落石のこともあったし、下手な言い訳が通じる相手ではないとルチアは思った。
《公爵は知っているけど知らないふりをしているというような言い方だね。ルチア大丈夫?》
ルチアは苦笑いをした。
いつかは話さなければならないのだろうが、まだ知らないふりをしてくれているので聞かれるまではこちらも知らないふりをしようとルチアは決めた。




