41.オルドの講義
オルドから講義を何回か受けたルチアは、とてもわかりやすく、焦らさずにゆっくりと考える時間も与えてくれていい教師だと思った。
リベルもオルドのことを口は軽いが悪いやつではないと言っていた。
法律の講義が終わると次は歴史に移った。法律の講義も歴史の講義もその背景にあるものを詳しく説明して、そこに関わる作法を同時進行してくれたので、どういうときにどのような礼儀や動きが必要か整理しやすかった。
休憩を挟みお茶を飲んでいるときルチアは日頃の感謝を伝えた。
「オペランティ卿の講義はわたしのような者にも理解しやすくて助かります。ありがとうございます」
「とんでもない。ルチアの飲み込みがいいからですよ。そこらの貴族令嬢より全然頭がいい」
「オペランティ卿、わたしを褒めても差し上げるものは何もありませんよ」
「じゃあ、ルチアとリベルを貰おうかな……なんて冗談だよ。本当にルチアは優秀な生徒なんだよ。逆にわたしが何かあげたいぐらいだ」
「ありがとうございます。じゃあオペランティ卿の知識をどんどんいただきますね」
「上手いこと言うね、ルチア」
二人は談笑しながらお茶を飲んだ。
談話室からルチアとオルドの笑い声が漏れてきて、執務室にいたフィデスの顔が曇った。
「一緒に休憩してくれば?」
その顔を見逃さなかったクラリスがフィデスに言った。
「何を言っている?」
フィデスが何事もなかったかの如く書類に目を通しながら言った。
クラリスは肩をすくめて軽くため息をついた。
「きゃあっ!」
談話室からルチアの叫び声が聞こえた。フィデスは咄嗟に立ち上がり倒れた椅子をそのままに談話室に飛び込んだ。
オルドがルチアを抱きかかえていた。
「何をしている!」
フィデスは急いでルチアをオルドから引き離し抱きしめた。
「オペランティ卿!どういうことだ!」
フィデスはらしくなく大声で怒鳴った。
「公爵様、違うんです!わたしが椅子から立ちあがろうとしてスカートの裾を踏みつけて倒れかけたのをオペランティ卿が支えてくださったのです」
ルチアはフィデスの腕の中でドキドキしながら言った。
フィデスは思わず抱きしめてしまったことに気づき、腕を離した。
「すまない……わたしの勘違いだ。怒鳴って申し訳ない、オペランティ卿」
「…いえ、あの状況を見れば誰でも勘違いなさると思います」
オルドはフィデスの素早い行動を見てルチアには絶対に手を出すのはやめようと思った。
ルチアがオルドに講義を受け始めてから一ヶ月が過ぎた。
「法律も作法も貴族のこともほぼ完璧ですよ。本当に優秀な生徒です。あとはダンスができるようになれば完璧です」
午前の講義が終わりオルドがルチアに言った。
「午後は公爵様の都合を聞いてダンスのレッスンをしましょう」
ルチアは頷いたが、フィデスとダンスをするのかと思うと胸の高鳴りを抑えることができなかった。
午後フィデスは王宮に所用があって出かけた。
ダンスのレッスンができなくなったルチアはホッとしたが残念な気持ちにもなった。
「王都に来て一ヶ月が過ぎましたが、講義があってまだ一度も休んでいないでしょう。今日は午後からお休みをあげますので王都の街を見学していらっしゃい」
午後から空いたルチアはミランダの提案でオルドの案内のもと王都見学をすることになった。
部屋で着替えながらリベルをどうしようかルチアは考えた。
籠に入れてもいいが街の中を歩くには王都は人が多過ぎて邪魔になったり、見つかる可能性が高い。でも初めての王都見学だから連れて行ってあげたいとルチアは思った。
ルチアが悩んでいるとリベルが言った。
《大きくできるなら小さくもできるんじゃない?カバンに入る大きさなら問題ないと思うけど》
ルチアはリベルの言葉に目から鱗が落ちたような気がした。
「そうだよね。何で思いつかなかったのかしら」
ルチアはそう言いながらリベルに手を当て小さくなるようにイメージした。
「ミヌオー!」
淡い光がリベルを包みリベルは手のひらサイズになった。
「まあ、可愛すぎる!」
ルチアはリベルを手のひらに乗せ頬に擦り寄せた。
《ルチア、早くしないとオルドが待ってるんじゃないの?》
「ああ、そうだったわ」
ルチアはリベルをカバンに忍ばせ玄関前に行った。オルドが馬車の前で待っていた。
「オペランティ卿、お待たせしました」
「ルチア、侍女服も似合っていたが、私服も可愛いね」
オルドの言葉にルチアは少し照れた。
今着ている服はニナが選んだルチアにとっては派手目の服だ。オルドがエスコートしてくれるから恥をかかさないようにとルチア好みの地味な服はやめたのだった。
「ありがとうございます。王都に来ることが決まって妹が選んでくれたものです。オペランティ卿の隣にいても大丈夫な感じでしょうか?」
「全然大丈夫。妹君はセンスあるね。ちゃんとルチアにあった物を選んでいると思うよ。ところで街ではオペランティ卿って呼び方はなしで。オルドと呼んでくれるかな。貴族ということは忘れて楽しみたいからね」
オルドはウインクをして言った。
「承知しました。オルド様と言わせていただきます」
オルドは頷いてルチアの手を取り馬車に乗せた。
馬車は街に向けて出発した。




