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39.公爵邸見学

 昼食が終わるとルチアはミランダに屋敷を案内してもらった。

 リベルは執務室に残った。

 ミランダは一階の厨房から案内した。

 厨房は料理長をはじめ料理人が三人、メイド二人で回していた。

 ルチアは昼食がとても美味しかったことの礼を述べ、これからよろしくお願いしますと挨拶した。

 みんな忙しそうにしていたがルチアが挨拶すると、ニコニコしながら全員がよろしくと返答した。

 ミランダは次に洗濯場を案内した。そこは三人のメイドが担当していた。

 ルチアが挨拶するとメイドたちは深々と頭を下げた。

 ルチアは自分も同じ立場であることを言おうとしたが、ミランダに止められた。

 次の場所に行く途中、ミランダから振る舞いについて教えられた。


「ルチア様は平民といえど、フィデス様より直々に指名された侍女です。屋敷で働いている者の中にも階級があって、先ほどのように洗濯や掃除の下働きの使用人から屋敷内の運営や屋敷の者や客人など人に仕える侍従侍女がいます。ルチア様はフィデス様専属侍女ですので、本来なら高貴な貴族の令嬢の立ち位置にいるわけです。ですから今後自分が平民だということは一切口外せず忘れてください」


 ルチアは困惑したが一応頷いた。


「それと今後は貴族令嬢の立ち振る舞いやマナーなどを覚えていただきます。フィデス様のお側で使える身ですので必須だと思ってください」


 ミランダは淡々と言ったがその顔はルチアを慮るような表情だった。

 ルチアは嫌だと言いたかったがそれを言えばミランダを困らせるだけだと我慢した。スカイの元から逃げるために自分でフィデスを頼ったのだから、ここのしきたりに合わす他ない。

 スローライフはしばらくお預けだとルチアは自分に言い聞かせた。


 食堂や応接室、広間など一階を案内された後、庭に出た。

 庭園を歩き、庭師に挨拶をした。


「庭師のラダとリック。親子よ。リックは確かルチア様と同じ歳だったかしら?」


 ミランダがリックの顔を見た。


「十六歳です」


 リックが答えた。


「わたしも十六です。よろしくお願いします」


 ルチアは握手を求めて手を出した。

 リックは困惑した表情でミランダとラダを交合に見た。

 ミランダが頷いたのでリックはルチアの手を取って握手を交わした。


 庭園の向こうに建物が見えた。


「あれは使用人の宿舎です。この先に行くと厩舎があります」


 庭をひと通り回ると再び屋敷に戻り、二階に上がった。


「二階は主に客室です。こちらがギャラリールーム、あの部屋が遊戯室です。それ以外の部屋が客室です。三階はご存知のようにフィデス様の部屋と隣のルチア様とリベル様の部屋。あと書斎兼図書室があります」


 向かいの部屋が全て書斎兼図書室なんだとルチアは思った。

 ルチアとミランダは執務室に戻った。執務室は別棟の二階で敷地全体が見渡せる場所にあった。一階は騎士たちの休憩室になっていた。


「明日からのルチア様の予定ですが、午前と午後二時間ずつ公爵家の侍女としての講習を受けさせようと思うのですが、構いませんでしょうか?」


 ミランダはフィデスに伺った。

 フィデスはルチアの方を見た。


「ルチアが構わないならいいが、それはどうしても必要か?」


「公爵家主の専属侍女として必須です。客人をもてなすこともございますでしょうし、フィデス様について他の貴族の屋敷に行かなかればならないこともございます。もし受けなくて良いと仰られるなら下働きとして雇えばよろしいのでは?」


 ミランダは臆すことなくフィデスに淡々と言った。

 フィデスはルチアが恥をかかないためには必要だとは思ったが、そんなことのために来てもらったわけではないから悩んだ。

 ルチアは下働きで全然構わないと思ったが、専属侍女するならばフィデスに恥をかかせないためにも講習は受けるべきだと思った。


「公爵様。わたしは下働きで構いません。専属侍女にはもっと相応しい方をお選びください」


「いや、ルチアがしないなら専属侍女はいらない。だが、ルチアに下働きもさせられない」


 フィデスは難渋顔で言った。


「それでは講習を受けさせてください。もしわたしが講習を受けても専属侍女に相応しくなければ下働きにしてください」


 ルチアは毅然とした表情で言った。

 そこにミランダもルチアに加勢して言った。


「フィデス様。ルチア様のことをお考えになっていらっしゃるのならルチア様が言う通りになさることが一番良いと思います」


 フィデスは渋々了承した。

 講習が嫌になったらすぐに辞めてもいいと言いそうになったが、そうすれば下働きになる。ルチアはその方がいいと思っているようだが、フィデスは嫌だった。


「…わかった。講習を受けてもらおう。しかし何かあればわたしを頼って欲しい。ルチアの力になりたい」


 フィデスの言葉にルチアはドキドキしたが、フィデスは優しいので他意はなく言葉そのものの意味だろうと解釈した。

 クラリスとミランダは違った解釈をしていた。日頃のフィデスの女性に対する言動を考えるとこんな言葉をかけることなどあり得ないと思ったからだ。

 クラリスはニヤニヤして、ミランダは懸念そうな顔をしていた。


「とりあえず明日からしばらくはわたくしが午前は礼儀作法を、午後は食事のマナーを教えます。その間にクラリス様にはルチア様の講習をしていただける方を探していただきたいのですが」


 ミランダがそう言うとクラリスが頷いて言った。


「作法とダンスと貴族のことを教える教師を探せばいいかな?」


「できれば法律や歴史も覚えていただきたいのですが」


 ミランダはチラリとフィデスを見た。


「そんなに必要か?」


 フィデスが言うとクラリスとミランダが同時に言った。


「必要です!」


 全てを聞いていたリベルが心配そうに言った。


《大丈夫?何か大変そうだね?》


 ルチアはリベルに向けて困惑した表情を見せた。何だか大事になりそうでルチアは不安になった。


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