38.豪華すぎる部屋
ルチアは自分の部屋に案内されて呆然とした。何をどう言えばよいのか、思考停止状態になった。
ルチアが困惑しているのを見てフィデスが言った。
「何か問題でもあるかな?リベルと同じ部屋でいいと思ってそれぞれ過ごしやすいように改修したのだが、気になるところがあるなら言って欲しい」
問題ありすぎです!とルチアは心の中で叫んだ。
そもそも使用人が使う部屋ではない。
いくらリベルが客人扱いだといっても豪華天蓋付きベッドが二つ。二人用のハンキングチェア、高価そうなソファにテーブル、ドレッサー、キャビネット。もちろん専用の浴室もある。テラスにはリベルの水浴び用のプールなんて、贅沢すぎだ。
そして一番の問題はこの部屋がフィデスの自室の隣にあるということだ。
「……あの、どうして公爵様のお部屋の隣に?しかも使用人の部屋にしては広いし贅沢すぎる気が……」
「リベルが客人だ。それなりの扱いをして当然だ。ルチアは世話係として一緒に生活するのだから致し方ない。わたしの隣の部屋では不服か?」
フィデスは強気の口調で言った。ルチアは困惑して何と言っていいかわからなかった。
「ルチア様がかなり困られています。ほらご覧なさい、わたくしが申した通りでしょう。いくら客人とはいえ、この家の主人の隣の部屋なんて、奥方様以外あり得ません」
ミランダが口を挟んだ。フィデスはウッという顔をしてチラリとルチアを見た。確かにルチアの顔は困っているように見えた。
「わたしには奥方も婚約者もいないから気にしないでくれ。ルチアがどうしても嫌なら部屋を替えるが、いずれ領地に戻るからそれまではここを使って欲しい」
フィデスは哀願するように言った。
ルチアは部屋を替えるとなったらリベル仕様にするだろうからまたお金を使わせてしまうと考えた。
「わたしとリベルにはもったいない部屋です。でも公爵様がわたしたちのことを考えて改修してくださったのにその気持ちを無下にはできません。ありがたく使わせていただきます」
フィデスはホッとした顔をした。
側にいたサイオンとミランダは顔をも合わせて微笑んだ。
「それで働いてもらうのは明日からで、わたしの補佐官とも会って報酬の話もしたいのでこの後、昼食を補佐官も交えて話しながら一緒にと思っているのだが、どうかな?」
フィデスはルチアの気持ちを尊重したいと言わんばかりに伺い立てるように聞いた。
「わかりました。昼食は公爵様とご一緒させていただきます。その後は屋敷の中を覚えたいので見てまわっていいでしょうか」
「それならばわたしが案内しよう」
フィデスは嬉しそうに言ったが、ルチアは使用人が主人に案内してもらうなんて恐れ多くて無理と思った。
ルチアが返事しかねているのを察してサイオンが言った。
「フィデス様は業務が溜まっています。最近出かけるばかりだったでしょう」
「それでしたらわたくしが専属侍女としての業務内容や振る舞いを教えながら案内いたします」
ミランダが淡々と言った。
「それは大変助かります。ミランダさんお願いします」
ルチアがミランダに頭を下げた。
フィデスは少しガッカリした顔をしたが、ミランダに託した。
昼食は執務室で食べることになり、ルチアとリベルはフィデスと一緒に執務室に行った。
「ルチア、紹介しよう。補佐官のクラリスだ」
「ルチアです。よろしくお願いします」
ルチアが頭を下げると、クラリスは席から離れルチアの前に立った。
「クラリス・ペルフェクティオです。あなたが噂のルチアですか、なるほど」
クラリスはルチアに顔を近づけてじっと見た。
フィデスが咳払いをしてルチアの肩に手を置いて自分に引き寄せた。
「おや、フィデス何か問題でも?」
クラリスはニヤニヤしながら言った。
ルチアはクラリスがフィデスを呼び捨てにしたので二人はどういう関係だろうと思った。
「わたしはフィデスの乳母の息子でね。フィデスとは兄弟のように育ったんですよ。だからフィデスからルチアのことは耳が痛くなるぐらい聞かされてましてね…」
フィデスが少し顔を赤らめてまた咳払いした。
「わたしが話したのはリベルの話が主だろう」
フィデスが言うとクラリスは眉を上げて頭を少し傾けた。
「そうだったかな?」
クラリスは面白がるように言い、リベルを見た。
「君がリベルか。黒紫色の綺麗な鱗ですね。フィデスが欲しがるのも無理はない。よろしくリベル」
クラリスが言ったすぐ後に執務室のドアがノックされた。
「昼食をお持ちしました」
「入ってくれ」
フィデスが言うとドアが開いてサイオンが入って来て、後からワゴンを押して入って来た侍従に指示をした。
侍従は執務室の応接セットのテーブルにクロスをかけ、食事を並べた。
並べ終わると会釈をしてサイオンと共に出て行った。
フィデスはルチアに二人掛けのソファに座るように促した。
クラリスはルチアの向かいの一人掛けのソファに、フィデスはサイドの一人掛けのソファに座った。
「これはまた豪華なランチだね。ルチアのために作ってもらったのかな?」
クラリスはクスクス笑いながらフィデスを見て言った。
フィデスはクラリスを無視してルチアとリベルに声をかけた。
「さあ、ルチアもリベルも遠慮しないで食べてくれ。食べたいものがあれば作らせるから言ってくれ」
「いえ、十分です。ありがとうございます。いただきます」
ルチアはステーキと野菜を皿に乗せルチアの足元に座っていたリベルの前に置いた。
昼食をとりながらルチアの給金についてクラリスから話があった。
ルチアは十分すぎる報酬に驚いてそんなにいただけないと言ったが、王都では侍女に支払う給金はこの金額が普通だと説明された。
リベルにかかる費用は全て公爵家が負担することになった。
ルチアは良すぎる待遇にそれなりの働きができるか不安になった。




