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35.王都に向けて出発

 ルチアが王都に旅立つ日が来た。

 フィデスの王都の屋敷の侍女長と侍従が馬車二台で昼過ぎに迎えに来てくれた。

 ヤンとモリーが出迎えて挨拶をした。ニナも家の中から出てきたが、スカイは畑仕事に行っていた。


「初めまして、王都で公爵家の侍女長をしているミランダと言います。この者はアイザック。あと護衛騎士が五名と御者が二名。王都までの二日間ルチア様とリベル様のお世話をさせていただくことになっています」


 ミランダは淡々と言いながらルチアの頭の先からつま先まで品定めでもするかのように目を細めながら眺めた。


「初めましてミランダ様、アイザック様。わたしは使用人として公爵家に参ります。なのでどうぞ呼び捨てでお願いします」


 ルチアが言うとミランダとアイザックは顔を見合わせた。


「わたくしどもはフィデス様より大事な客人だと伺っています」


 ミランダが問いかけるような言い方でルチアを見た。


「客人はわたしの飼っているこの竜のリベルだけです。わたしはこのリベルの世話と公爵様の専属侍女をすることになっています」


 ミランダは再びアイザックと顔を見合わせた。


「…わかりました。それは公爵邸についてから詳しいことはフィデス様に聞くことにいたします。この二日間はフィデス様に言われた通り客人として扱わせていただきます。それでよろしいですね」


 ミランダは淡々と言ったが、先ほどより突き放したような言い方だった。

 平民の小娘を貴族の令嬢のように扱うなんて誰だって嫌に決まっている。ミランダに申し訳ないとルチアは思った。


「はい、よろしくお願いします」


「後の馬車に荷物を、前の馬車にルチア様とリベル様とわたくしが乗ります。アイザックは後ろの馬車に乗りますので。荷物をアイザックに渡してください。長旅になりますので必要な物は手元にお持ちください」


 ミランダは淡々とだが、テキパキと指示した。

 ルチアは兵器の入ったトランクだけ手元に置いた。


「ルチア、身体には十分気をつけてね。辛くなったらいつでも帰っておいで」


 モリーはルチアを抱擁しながら耳元で囁いた。ルチアは頷いた。


「ルチア姉、落ち着いたら必ず王都に呼んでよ。楽しみにしてるから」


 ニナが涙を浮かべながら言った。

 ヤンは黙って微笑んだが、その顔は寂しそうだった。


 ルチアは馬車に乗り込み窓から手を振った。

 馬車は出発して田舎道をゆっくりと走った。

 ルチアが窓の外を見ているとスカイが畑仕事をしているのが見えた。

 フィデスが挨拶に来ると伝えた日以来、まともに話をしていない。

 今度会うときは前のような仲の良い兄妹に戻れればいいのにとルチアは思った。


「本日の予定ですが、この一つ先の領地の宿に宿泊予約をしています。夕食もそこで召し上がることになります。何か召し上がれないものはありますか?」


 しばらくするとミランダが聞いてきた。


「大丈夫です。何でも食べられます。リベルも人が食べられるものなら何でも食べます」


 ルチアはにっこり微笑んで答えた。


「わかりました。明日の朝は夜明けと同時に出発いたします。申し訳ありませんが朝食は馬車の中でパンを食べていただきます。昼食は途中の街の食堂による予定です。昼食が終わるとまたすぐに出発します。そこから先は宿屋がないので遅くなりますが王都近郊まで走ります。そこで一泊して次の朝公爵邸に到着予定です。何か質問はありますか?」


 ミランダはルチアをジロリと見て言った。


「いえ特に何もありません」


 ルチアは戸惑いを感じながら答えた。


《なんか威圧的な人だね。ルチア大丈夫?これからこの人と一緒に生活するんだよ》


 ルチアは言葉に出すことができないので、リベルに向かって苦笑いをした。

 ミランダはリベルに目を向けて首輪についている宝石をしばらく見ていた。


「平民では買えそうにない宝石がついているわね」


 ミランダは独り言のように呟いた。

 ルチアは答えるべきか聞き流すか悩んだ。


《言ってやりなよ、公爵からのプレゼントだって》


「あの、これは公爵様に頂いたものなんです」


 ルチアは恐る恐る言った。


「…あら、そうなのどうりで…」


 ミランダはそれだけ言って黙り込んだ。

 ルチアは気まずかった。二日もミランダとこの密室で二人きりだなんて公爵邸に着く頃には精魂尽き果てているかもと思った。


 日が暮れる頃宿についた。思ったより立派な宿で、部屋は別なのでルチアはホッとした。


「荷物は宿の従業員が運んでくれますので、このまま食堂に行きます。食事が済んだら入浴してください」


 ルチアはリベルをそのまま一緒に食堂に連れて行って大丈夫かと思った。


「あの、リベルも一緒に連れて行って大丈夫ですか?」


 リベルは一応ダン爺がくれた籠の中で隠れている。だが、食事に顔を出さないわけにはいかない。


「大丈夫です。食堂といっても個室になっていますので、他からは見えないでしょう」


 ルチアは安心した。そういうところはちゃんと気遣ってくれているんだなと思った。


 食事と入浴が終わりルチアは部屋で寛いだ。


「うわー、ベッドふかふか!」


《明日朝早いんだから早く寝なよ。ルチアは朝が弱いんだから》


「わかってる。支度もあるから夜明け前に起こしてね、リベル」


《…そう言うと思っていました。ちゃんと起きてくださいね!》


「はいはい、おやすみ」


 ルチアは気疲れもあってすぐに眠りについた。


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