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34.ダン爺の過去

 ダン爺は十代の頃から王宮の研究所で働いていた。

 類稀なる天才肌のダン・スワロブは研究所で頭角を著し、大抵のものは作ることができた。

 何でも作れるという自負心が傲慢へと変化しかけた頃、当時の国王に戦争になったとき一瞬で相手を殲滅させる兵器を作るように言われ数年かけてそれを作った。

 その兵器はほんの一滴落としただけで数十メートルを破壊するという恐ろしい兵器だった。

 まだ実験がなされていなかったある日の夜、ダンが研究所を離れている隙に、自分の手柄にしようとした研究所所長がその兵器を盗もうとしたのだ。

 ダンは盗まれたりしたら大変なことになるので完成品は固まらせて最強の金属の箱に保管して持ち歩いていた。

 研究所所長は研究員を一人研究所の外に待機させてダンが研究所を訪れたらしばらく足止めをするように指示をしていた。

 ダンは長い間研究所で寝泊まりしていたのでその日は一旦家に戻り、用事を済ませて研究所に戻った。

 研究所の入り口の前で同期の研究員に呼び止められ、話し込んでいるときだった。

 大きな爆発音と同時に研究所が吹っ飛んだのだ。

 幸いダンと研究員は軽い怪我で済んだが、研究所の中にいた者は全員命を落とした。

 おそらく所長は盗もうとしたとき見つからず、実験用に置いておいた一滴分を持ち去ろうとして誤って落としてしまったのだろう。

 後日、見張りをさせられた研究員の証言によって所長が盗もうとしたことが明らかになった。

 ダンはその事件があってから、自分が作った物で身近な多くの人の命を奪ってしまったこと、人の命をいとも簡単に奪える兵器を作ってしまったことを悔いた。

 その危険な兵器をどうにか無効にできないかダンは研究したが、爆破させる以外無効にできなかった。

 そんな中、国王から兵器を渡すように要請されダンは兵器を持って王都から姿を消した。

 ダンが持っている兵器のことを他国に知られてはまずいと国王は公に探すことができず、ダンは逃げ延びることができた。

 それから二十年後、国王が代替わりし、ダンを探す者もいなくなった。

 そしてダンはここに本屋を開いたのだ。


「そしてもう一つ」


 そう言ってダン爺はルチアに本を渡した。


「前に言っていた冒険家の後半の本じゃ。本当はこの本だけを餞別に渡すつもりじゃったが、中を読んだらルチアしかいないと思ったんじゃ」


 ダン爺はゆっくりと息を吐いて話し始めた。


 ダンは兵器を無効にするための研究中、昔魔物を浄化した聖女のことやアルカナ聖国のことを本で知った。

 今聖女がいればこの兵器を何とかしてくれるかもしれないと思ったが、もう五百年も前の話だ。アルカナ聖国はとうの昔に存在していないし、ましてや聖女がいるはずもない。

 そう思ってダンは諦めていた。

 瘴気を吸い取るロッククリスタルを見つけたのもその頃だ。

 ところがつい最近この本を手に入れることができ、ルチアにあげる前に製本ミスがないか確認のため読んで驚いた。

 この冒険家はアルカナ聖国を訪ねていたのだ。アルカナ聖国が彼にとって最後の冒険の旅だったようだ。


「これを読めばなぜわしがルチアに託すのかわかると思うよ」


 ダン爺は銀白色の箱を布で包み前に借りた果物籠に入れて上から布を覆った。


「ルチア、この箱は絶対に開けないでくれ。空気に触れると固形化しているのが液体化して少しの衝撃で爆発する。面倒ごとを押し付けてすまん。しかしもうお前さんしかおらんのじゃ。わしはこれでようやく安心してあの世の迎えを待つことができる。王都に行っても元気でな。公爵様によろしく伝えておくれ」


 ダン爺の弱々しい言葉を聞くとルチアはそれ以上断れなかった。

 ダン爺に挨拶をしてルチアは本屋を出て乗合馬車の停留所に向かった。

 乗合馬車の中でルチアは本を広げた。


 本の後半にアルカナ聖国を見つけたことが書かれていた。冒険家はアルカナ聖国でたった一人残っている聖女と出会って恋に落ちたが、黒紫竜の容態が思わしくないので聖女をアルカナ聖国から連れ出すことはできず、しばらくアルカナ聖国で過ごしたが、本の出版の話が出ていたので帰らなければならなかった。そのとき聖女のお腹には冒険家の子が宿ったばかりだった。

 こどもが生まれるまでに必ず戻ると約束したところで物語は終わっていた。

 あとがきに編集者の言葉が添えられていた。本の執筆が終わる頃に病が発症して亡くなってしまった冒険家への追悼の言葉だった。


 ルチアは涙が流れた。

 この本の作者はルチアの実の父だ。そして母は黒紫竜が亡くなったので父を追いかけてまだ赤ん坊のルチアを連れてアルカナ聖国を出たのだ。

 母は父に会えず途方に暮れたに違いない。アルカナ聖国で生まれ育った母は見知らぬ土地でどれだけ過酷で辛い思いをしただろう。

 ルチアは自分を捨てた両親に会いたいと思ったことは一度もなかったが、今は会いたいという気持ちが溢れて涙となって流れた。

 ダン爺はルチアが捨てられていたことを知っていた。歳もちょうど合うし、何より黒紫竜がそばにいることでルチアをアルカナ聖国の聖女のこどもだと判断したのだろう。


 ルチアは家に帰るとダン爺から預かった兵器を王都に行くために準備した服ばかりを入れたトランクの中に隠した。

 そしてリベルに今日のことを全て話した。


《そうだったんだ…僕は前の黒紫竜が弱ってからの記憶をあまり詳しく伝えられていないんだ。だからルチアのお父さんが誰だか知らなかった。ルチアは知れて良かったの?》


「うん。今まで実の両親のこと何とも思わなかったけど、何だか愛おしくなった。知れて良かった」


《良かったね。それと問題発生だね。どうするの、その最悪な兵器》


「ダン爺はわたしに聖女の力がいつか顕現すると願って託したのでしょうね。折を見て浄化してみようと思ってる」


《そうだね、なるべく早い方がいいよ、誰かに知られる前に》


「そうは言っても爆破の力を無効にできるかどうかわからないわ。国一つ簡単に消滅できるそうよ。大海のど真ん中にでも行ってやらないと。周りを巻き込みたくないわ」


《じゃあいずれ僕の背に乗って大海の真ん中まで行かなくてはね。ルチア、スローライフからどんどん遠ざかってる気がするよ》


 リベルの言う通りだとルチアは思った。

 いつかは命懸けで浄化しなければならないが、今はまだ覚悟がないし、平穏な生活を堪能したいので兵器のことはしばらく忘れることにした。


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