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32.公爵が挨拶に来た

 フィデスがルチアの家族に挨拶に来る予定の前日の夕食のとき、ルチアはやっと明日フィデスが来ることをみんなに話せた。


「何故公爵様がここに来るんだ?」


 スカイが怪訝そうに言った。


「リベルを連れて王都に行くことを決めたからです」


 スカイが顔を強張らせた。


「やったぁ!これでわたしもいつでも遊びに行けるわね」


 ニナが手放しで大喜びしているとスカイがテーブルを拳で叩いた。


「何よ、スカイ兄。公爵様からのプレゼントを勝手に突き返すからルチア姉はここにいるのが嫌になったんじゃないの?」


 ニナがスカイに向かって辛辣に言った。スカイは横を向いて唇を噛み締めた。


「公爵様からのプレゼントって?」


 何も知らないモリーが聞いた。


「この間、ルチア姉に公爵からのプレゼントがたくさん届いたの。それをスカイ兄が勝手に公爵様に返しに行ったのよ」


 ニナは憤慨しながら言った。


「まあ……」


 モリーは呆れて何も言えなかった。


「そのことはあまり関係なくて…少し前から家を出ようと思っていたから、今まで黙っていてごめんなさい」


 ルチアは頭を下げた。


「もしかして、スカイの結婚のことまだ気にしているのかい?それなら別棟を建ててスカイ夫婦にはそっちに住んでもらえばいいよ」


 モリーが心配そうに言った。


「待て、俺の結婚とはどういうことだ?」


 スカイが不可解そうに言った。


「ルチアは血のつながらない自分がいてはスカイの結婚に支障があるんじゃないかと気に病んでいたんだよ」


 モリーがため息を漏らしながら言った。


「そんなこと!……俺は…俺の嫁は…」


 言わないでとルチアは心の中で叫んだ。


「スカイ!」


 ヤンが珍しく大きな声を出した。


「ルチアの決めたことだ。ルチアの人生なんだからお前が介入してはならない」


「父さん!父さんは俺の気持ちを知っていて…」


「お前の気持ちはお前のものだ。ルチアの気持ちとは関係ない」


 ヤンは低い声だったが強い口調で言った。

 スカイは拳を握りしめて立ち上がり自分の部屋に行った。


「ごめんなさい…」


 ルチアは涙を浮かべながら謝った。


「ルチアが謝ることなんて何もないよ。父さんも言った通りルチアの人生なんだからルチアがしたいようにすればいい」


 モリーがルチアの肩に手を置いて言った。


「……今まで育てていただいたのに何の恩返しもできずに出ていくこと、ごめんなさい…」


 ルチアは手で顔を覆い泣き伏した。


「何を言ってるんだい。ルチアは十分に手伝ってくれたじゃないか。それにわたしたちは家族なんだから親が子を育てて当たり前だよ」


 モリーが言うとヤンも頷いた。


「ルチア姉ったら、今生のお別れみたいに言わないで。ちょっと離れて暮らすだけじゃない。いつでも会えるし、親孝行はできるわよ。わたしなんか何もしないで嫁に行こうと思ってるのに。ま、玉の輿に乗ってここに豪邸でも建ててあげるつもりでいるけどね」


 ニナがふざけたように舌を出した。

 ルチアは本当に幸せだと感じた。今まで通りここで過ごせたらどんなにいいかと思ったが、でもいつまでも変わらないものは何一つとしてないこともルチアは知っていた。



 翌日、フィデスがルチアの家に訪ねてきた。

 スカイは朝早くからどこに行ったのか、出かけていた。

 フィデスはルチアとリベルの支度金と称して袋一杯に金貨を持参して、ヤンに差し出した。


「公爵様、これは受け取れません。こちらがお世話になる身ですのに。公爵様は使用人を雇用するときいつもこのようになさるのですか?」


 ヤンが申し訳なさそうに言った。


「いや、他の使用人にはしない。今回はわたしの我儘に付き合ってもらっているからその代償だ。王都のような慣れない場所に連れて行くのだからこのぐらいは当たり前だと思っている。あなた方がどれだけ大事に育ててきたのか御息女を見ればよくわかる。この一ヵ月でしっかり支度をしてあげて欲しい。これはわたしからのお願いだ」

 

 ヤンもモリーもフィデスの誠意ある言葉に涙ぐみながら深く頭を下げた。

 血の繋がりがないことを知っていて、今まで育ててくれたヤンやモリーの気持ち汲んだフィデスの言葉にルチアも涙で目が潤んだ。


「公爵様、オストラル伯爵夫妻にはこの後ご挨拶に伺うのですか?」


 ヤンがルチアから聞いていたのでフィデスに訪ねた。


「伯爵たちは今王都に滞在している。挨拶はルチアが王都に来てから行こうと思っている」


「そうですか…今から行くなら一緒に行ってご挨拶と懇請をさせてもらおうと思ったのですが…では伯爵夫妻にはよろしくお伝えください。娘のことよろしくお願いいたします」


 ヤンはまた深々と頭を下げた。モリーも一緒に下げた。

 

 フィデスを玄関先まで見送りに出てまたヤンとモリーは頭を下げた。


「ではルチア、一ヵ月後王都で待っている」


 フィデスはそう言うと乗って来た馬に跨がり、微笑みながら手を振って駆けて行った。


「ふぅー。緊張したよ。でもいい方で良かった。安心してルチアを預けられるねぇ」


 モリーが言うとヤンは黙って頷いた。

 ヤンはフィデスから貰った金貨が入った袋をそのままルチアに渡した。


「父さん、これは公爵様から父さんたちにあげたものよ」


「お前とリベルの支度金だと言っていた。お前が全て持っていなさい。王都に行っても何があるかわからない。何かのときのためにお守り代わりにしなさい」


 ルチアは唇を噛み締めて涙を堪えながら頷いた。


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