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31.再び天文台

 ルチアはスカイが訪ねて来なかったか聞いた。

 フィデスは少し寂しそうな顔をして頷いた。


「君への贈り物を返しに来たよ」


「違うんです、公爵様!」


 ルチアは必死な声で叫んでいた。

 ルチアはフィデスに事情を説明した。そしてプレゼントのこと礼を述べた。


「見てください、公爵様」


 ルチアは服の中から首から下げた宝石を取り出した。

 フィデスは顔が綻んだ。


「身につけてくれているのか」


 ルチアは照れながら頷いた。


「わたしはこれだけで十分です。兄が返しに来たプレゼントは気持ちだけいただきます。持って帰ってもまた兄が持ち出すと思います」


「…わかった。あれはわたしが預かっておく。ルチアとリベルがわたしの元に来てくれるまで」


 フィデスは哀願するような顔でルチアを見て言った。


「…そのことなんですが、公爵様にお話したいことがあります」


 ルチアは緊張した面持ちで言った。

 フィデスはその様子を見て中に入ってゆっくり話そうと言ってくれた。


「何なら星をまず見て見ないか?今日は天気がいいのでよく見えるよ」


 ルチアはフィデスに案内されて天文台の塔に昇った。

 リベルを目の前で小さくするわけにはいかなかったので、リベルは外で待つことになった。


「階段狭いから気をつけて」


 ルチアはフィデスがランタンで足元を照らしてくれるのを頼りに壁に手をつきながら昇った。

 円形の屋根の部分が部屋になっていて大きな天体望遠鏡が設置されていた。

 フィデスが望遠鏡を調整して、ルチアに覗くように言った。

 ルチアは恐る恐る望遠鏡を覗いた。


「わあ、何これ⁈星?ボールみたい!」


 ルチアははしゃいで言った。


「キラキラ輝いているのが星かと思っていたわ」


「不思議だろう?わたしはこどもの頃からずっと星に興味があって、先先代の公爵、つまりわたしの祖父がわたしのためにこの天文台を作ってくれたんだ」


 ルチアとフィデスは床に座り、話をした。


 この天文台は崖の中腹にある公爵邸から崖の中の階段を昇って来れること、月に二、三回仕事で疲れたら癒しを求めて領地に帰り、ここに来ていることをフィデスはルチアに話した。


「先程話がしたいと言っていたことなんですが……l


 ルチアが言いにくそうにしているとフィデスが暖かい眼差しをルチアに向けながら言った。


「言いにくいことなら無理に言わなくてもいいが、ルチアから話そうと思ったということはわたしに助けてもらいたいことがあるのではないか?わたしができることなら何でもすると約束するから話して見てごらん」


 ルチアは決心し、スカイとヤンが話していた内容や、いつまでも兄妹の関係でいたいこと、二年後に求婚される前に家を出てスカイの手の届かないところに行きたいことを話した。


「それならわたしのところに来ればいい。わたしの方はそれを望んでいるのだから」


 フィデスは願ってもないことだと言わんばかりの顔で言った。


「それは…とてもありがたい申し出でなんですが…でも一度はっきり断っているのでむしが良すぎる気がして…」


 ルチアは視線を落とし申し訳なさそうに言った。


「わたしは諦めないと言っただろう?まだ諦めていないぞ?」


 フィデスはルチアの手を取って顔を見ながら微笑んだ。


「公爵様…ありがとうございます。とても助かります」


 ルチアは慌てて手を膝に置き頭を深く下げた。


「田舎がいいならわたしの領地でと言ったが、わたしの業務上しばらくは王都に来て欲しい。せっかく来てもらえるのに最初から離れ離れになるのは寂しい」


 フィデスは王都での業務を部下に任せられるようになったら領地の方を拠点にするつもりだからそれまでは王都で一緒に暮らして欲しいとのことだった。

 今は二年前に病気を患い爵位をフィデスに譲った前公爵であるフィデスの父が領地を采配しているが、無理ができないとのことだった。

 王都で暮らしながら今まで通り月二、三回のペースで領地に戻るからそのとき一緒に同行してもらいたいと言った。

 ルチアは世話になる分際でこちらから要件を言えるはずもなく了承した。


「ルチアとリベルは客人扱いでいてもらおうと思っている」


「いいえ、とんでもありません。貴族ならまだしもわたしのような平民、使用人扱いでお願いします」


 ルチアは絶対これは譲れないといった強固な顔でフィデスに言った。


「…そうか……では当初の通りリベルは客人でその客人の世話係ではどうかな?」


「それでは仕事がなさすぎます!」


 ルチアは強い口調で言った。


「うーん……では、リベルとわたしの世話係で。わたしには専属の侍女はいなかったのでわたしの専属の侍女ということで」


「え、それは……」


 ルチアは困った。普通、大貴族の専属の侍女は階級の低い貴族の令嬢がなるものではないのかと考えた。


「これ以上は譲らない。給金もちゃんと支払う。その話はわたしの補佐官と話し合って決める。他に何か聞きたいことはあるかな?」


 ルチアが悩んでいるようなのでフィデスは迷いを打ち消すようにはっきりと言った。


「なければいつ引越しするか決めよう」


 フィデスの声は弾んでいた。ルチアはフィデスに全て任せようと思った。

 ルチアとフィデスは今後のことを詳しく話した。

 引越しは一ヵ月後でフィデスの侍従が馬車で迎えに来ることになった。

 その前にルチアの家族にフィデスが直接挨拶をしにくる。同時にオストラル伯爵にもルチアと一緒に挨拶に伺うことにした。


 話が終わりリベルの待つ外に行った。

 ルチアはフィデスに挨拶をしてリベル背に乗った。


「では七日後に挨拶に伺う。それまでは業務が立て込んでいて会えないが何かあれば王都の屋敷に伝書鳩を飛ばしてくれ。すぐに飛んで来るよ」


 ルチアは微笑みながら頷いた。

 リベルは上空に上がり家に向かった。

 ルチアはフィデスとの話をリベルに聞かせた。


《良かったね。じゃあ僕も一ヵ月後には王都暮らしか…みんなびっくりしないかな》


「公爵様の屋敷の中だけなら大丈夫じゃない?使用人がびっくりするのも初めだけよ」


《そうだね……ルチアが元気になって良かった。公爵と話してスッキリしたみたいだね》


 ルチアは確かにそうだと思った。フィデスといるとドキドキはするが何か不安がかき消されるような気がした。


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