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24.スカイの結婚話

 ルチアのいつもの平凡な生活が戻って数十日が過ぎた。

 街に行くことがあるとカフェには寄るがペルデルは大忙しでほんの少し言葉を交わすぐらいだった。閉店後に来て欲しいとペルデルに言われるが、ルチアは夜に出るのは難しいと言って断っていた。

 フィデスも本屋で別れて以来、一度も訪ねて来ていない。


 ある日、ヤンがスカイのお見合い話を数件持って帰って来た。

 農場主の寄り合いに行っていて、一人の農場主がスカイのことを聞いてきた。実はその農場主の娘がスカイを気に入っているらしい。

 その農場主がヤンに釣り書きを渡すところを別の農場主が見て、自分のところにも娘がいると言ってその場で釣り書きを書いて渡された。

 さらにそれを見ていた他の農場主の年頃の娘がいる人はみんなその場で釣り書きを書いてヤンに渡したのだ。

 スカイは見た目はもちろん男前でモテているし、よく働くと農場主の間でも評判が良かった。


「お前ももうすぐ十九になる。そろそろ身を固めてもいいんじゃないか?」


 ヤンがスカイに釣り書きを渡しながら言った。


「俺は…」


 スカイは夕食の支度をしているモリーやルチアの方をチラリと見た。

 モリーがそれに気づいて言った。


「わたしのことは気にするな。よっぽどの悪妻じゃない限りどんな嫁が来ても上手くやっていく自信はあるよ。そこにある釣り書きはこの村のほとんどの農場主の年頃の娘のだよ。選び放題だ。スカイが気に入った子を選べばいい」


 スカイは困った顔をして、苦笑いをした。


「お腹すいたぁ。今日の夕飯何?」


 ニナが二階から降りてきて、テーブルの上の数枚の釣り書きに気づいた。


「何これ?」


 スカイが急いで取ってポケットに押し込んだ。


「スカイの花嫁候補の釣り書きだよ」


 モリーが嬉しそうに言った。


「へぇ、スカイ兄、結婚するの?」


 ニナが驚いて言った。


「まだ決まってない」


 スカイが怪訝そうに言った。


「候補だよ、候補。七人もスカイの嫁になりたいって釣り書きくれたのよ」


 モリーは自分のことのように嬉しそうだ。


「まあ、スカイ兄がモテているのは認めるよ。外面良いから。嫁に来た人は大変だ、小言が多くて」


 ニナは舌を出して言った。


「ニナ!そういうあんたは嫁の貰い手が無いよ。ちっとも家の手伝いしないんだから」


 モリーが腰に手を当てて怒って言った。


「いいのよ、農家に嫁に行くつもりはないから。自分磨きして玉の輿に乗るんだから」


 ニナはスカートの裾を翻しながら椅子に座った。

 モリーもスカイも呆れ顔でニナを見た。

 ルチアはなんでも自由に言えるニナが少し羨ましかったが、玉の輿に乗りたいとは思わなかった。


 夕食後、部屋に戻ったルチアはどんな人がスカイの奥さんになるのだろうかと考えてワクワクした。だが嫁が来るとなったらこの家で住むには狭くないだろうかと思った。

 嫁が来ると畑仕事の手も足りるし、ルチアは家を出た方がいいのかと悩んだ。


「ねえ、リベル。兄さんが結婚したらわたしはいらないと思うの。血の繋がりもないし、お嫁さんが嫌がるわよね。出ていった方がいいのかな」


《そうなれば公爵のところへ行けばいいと思う》


 リベルがしれっと言った。


「あ〜……実は最後に本屋で会ったとき、はっきり断ったんだよね」


 リベルは少し驚いた。フィデスが神ユピテルの生まれ変わりなら絶対ルチアはフィデスの元に行くと思っていたからだ。


《どうして?まだ考え中じゃなかった?》


「領主様からの圧力がなくなってわたしは白紙になったと思ったの。だって行く理由がないでしょ」


《まあ、そうだね。じゃあスカイが結婚したらどうするの?》


「……どうしようかな。まあ、まだ先の話だろうしゆっくり考えるわ」


 ルチアはそう言ってベッドに寝転がって読みかけの本を手に取った。



《ルチア、ルチア、起きて》


 ルチアは本を読みながらいつの間にか眠っていた。


《寝るなら夜着に着替えないと》


「……ああ、そうね……喉乾いたからお水飲んでくる……」


 ルチアはそう言ってフラフラと部屋を出て階段を降りた。

 キッチンに行こうとしてキッチンの横にあるヤンの部屋から声が聞こえた。


「………だから、釣り書きは返しておいて欲しい」


「ルチアの気持ちはわかっているのか?」


 ルチアは自分の名前が聞こえたので立ち止まって聞き耳を立てた。


「いや、ルチアはまだ十六歳だ。気持ちを伝えるにはまだ早いと思っている。だけど、俺はルチア以外の伴侶は考えられない。あと二年待って欲しい。二年経ってルチアに気持ちを伝える。ルチアが拒否したらそのときは考えるよ」


 スカイの言葉はルチアには衝撃過ぎた。

 ルチアは口を押さえ、水を飲むのも忘れて急いで部屋に戻った。

 部屋に戻ったルチアは真っ青な顔でドアの前にしゃがみ込んだ。


《ルチア、どうしたの?顔色が悪いよ?どこか具合悪いの?》


 リベルが心配してルチアの顔を舐めた。


「リベル!わたし…わたしどうしよう…」


 ルチアはリベルを抱きしめて涙を流した。


《ルチア、どうしたの⁈》


 ルチアはヤンの部屋の前で聞いたことをリベルに話した。

 スカイはルチアにとってたった一人の大切な兄だ。それ以上でもそれ以下でもない。ずっと兄として慕ってきた以外の気持ちは微塵もない。

 そんな兄が自分を嫁にしたいなどとルチアは気持ちが混乱してどうして良いかわからなかった。


「やっぱり家を出よう。公爵様はまだ諦めていないって言っていたわ。今度来たときには一緒に連れて行ってもらおう…そう、それが一番いいのよ…」


 離れて暮らせばスカイの想いも消えていくだろう。ルチアは自分に言い聞かせるようにように何度も何度も呟いた。

 


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