20.カフェの浄化
ルチアたちがカフェの中に入るとペルデルが待っていた。
「これはこれは。誰がドアを消し去ったかと思えばあなたでしたか」
ペルデルが立っている近くのテーブルには女性が二人、虚な顔で座っていた。
「あなた、彼女たちに何をしたの!」
「この暗闇でも目が効くとはさすが聖女ですね」
ルチアは驚いた。何故聖女だとわかったのだろう。
「おや、驚いていますね。まずは自己紹介をさせてください。わたしの本当の名前はペルデルではありません。念の為お伝えしておきますね。本当の名前は教えられません。契約されると厄介ですから。わたしは冥界からきた魔族です。でも勘違いしないでください。魔王様とは関係ありません。わたしは生き血が若さを保つ源でね。冥界では美味しい血が確保できなくてこうして地上界に単独で出て来ているのです」
女性たちの血を吸い取っているのかとルチアはぞっとした。
「実はここにくる前に別のところでいたんですけどね。わたしのご馳走の一人がいつの間にかフラフラと抜け出して川に落ちてしまって遺体で見つかってしまいましてね。バレないうちにとこちらに引っ越して来たんですよ。ここに聖女がいるなんて思わずにね。おっと、どうしてあなたが聖女だとわかったかでしたよね。わたしからの贈り物の香炉の瘴気いかがでしたか?かなり強い瘴気を仕込んだのに全く影響を受けていないことがまず一つですね。あと、こんなに綺麗にドアを消し去るなんて、まずもって魔王様でなければ聖女しかあり得ませんよ。そしてあなたのその髪色と眼です。わたしは先の戦いではまだこの世に存在していませんでしたがね、飛び抜けた力の持ち主の聖女の話は冥界では有名ですよ。最後にそこの黒紫竜。聖女でなければなんなんでしょう?」
ニナに負けず劣らずお喋りだわとルチアはウンザリしていた。
「もう、いいかしら?あなたがわたしを知っていようが何者であろうがどうでもいいのよ。冥界から来たのなら浄化するまで。わたしのスローライフを邪魔させないわ」
ルチアはペルデルに向かって両手を伸ばした。
「ちょ、ちょっと待って!大事な話はこれからですよ!魔王様の情報知りたくない⁈」
ペルデルは慌てて後退りしながら言った。
「知りたくもないわ。じゃあ、さようなら、あなたの悪意。ルストラーレ!」
ルチアから放たれた光はペルデルを包みカフェ全体に広がった。
カフェに漂っていた瘴気が浄化された。
ペルデルはどうなっているだろうかとルチアが見ると床に倒れていた。
ルチアはテーブルに突っ伏している青ざめた女性たちの首筋に手を当てた。
「まだ息があるわね」
ルチアは女性たちに向かって手をかざし、治癒をイメージした。
「サナーレ!」
ルチアの手から放出された光が女性たちを包み、青ざめていた顔に血色が戻った。
《ルチア、この床の下から人の声が聞こえる》
ルチアは地下室の入り口を探したが、巧妙に隠されているらしく見つからない。
「仕方ないわ、床の一部を消滅させるわ」
ルチアはそう言って床に手かざし「デレオ!」と唱えた。
直径一メートルほどの床が消滅した。中を覗くと暗闇の中で何人かの人がうごめいているのが見えた。
「行方不明になっている女性たちかもしれないわ。ペルデルは血を吸うために殺さず監禁していたのね」
ルチアは床の穴から手をかざして「サナーレ!」と唱えた。地下室全体を光が包んだ。
「さて、あとはペルデルが目覚めるの待つだけね。彼がどう浄化されたか確認しておかなければね」
ルチアはペルデルが目覚めるのを待った。半時ほど過ぎるとペルデルの腕が動いた。
「う、うう……」
ペルデルは手を床につき上半身を起こした。
「あなたの名前は?どこから来て何をしていたの?」
ルチアはペルデルの前に立ち聞いた。
「……あれ、わたしは今まで何をしていたのか……?名前…名前は…ペレデレ…そうペレデレ!冥界から来て血を分けてもらっていた!」
《ペレデレって…一文字変えただけですね。捻りが見られない》
ルチアはしゃがんでペレデルと同じ視線に合わせ聞いた。
「まだ血が吸いたい?」
「……いや…あれ?どうして血なんか欲しかったのだろう…?わたしが作る料理やスイーツの方が断然美味いじゃないか……どうしたんだろう…?」
ルチアはホッとした。浄化は上手くいったみたいだ。
「女性たちは解放してあげてね」
「はい、わかりました……あの、聖女様ですよね?あの、その、言いづらのですが、床とドアを直すことできますか?」
「あ〜、そこらの記憶は消さないとね。まずは復元してみるわ」
ルチアは床に手をかざして元の床をイメージした。
「レスタウラーレ!」
穴の空いた床が光に包まれ元に戻った。
「あら、いけるわ。じゃあドアも」
ルチアがドアに向かって同じように唱えるとドアが元のように戻った。
ルチアはペルデルに手をかざして、聖女のことと冥界の魔族であること、今夜のルチアの記憶の抹消をイメージした。
「デレメモリア!」
ペルデルが光に包まれた。
「リベル、今夜のことも抹消したはずだからペルデルが気がつく前にここを出るわよ」
ルチアは急いでカフェを出た。
リベルを大きくして背に乗り家に向かった。
《ペルデルをあのままにしておいて大丈夫なの?女性たちも》
リベルは飛びながらルチアに聞いた。
「たぶん大丈夫だと思う。自分がしたことは覚えてるはずだから、すぐに女性を解放するわ。血を吸われていたことは記憶にないと思うから通常に戻るんじゃない?」
《ペルデルは何事もなかったかのようにカフェを続けそうですね》
「記憶がないから続けるわよ。女性の監禁以外はね。女性の方はペルデルに夢中になっていただけだから監禁されていたなんて思ってないわよ、きっと」
どうせニナがまたカフェに行くだろうから、一度だけ一緒に行って様子を見ようとルチアは思った。




