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17.魔王か眷属か

 ルチアはカフェにいるニナたちのことが気になった。

 

「ニナたちは大丈夫かしら?わたし見に行ってくるわ」


《危険です。僕も一緒に行きます》


 ルチアはリベルを見て危険なのはどっちかしらと思った。密猟者にすら捕まりそうになっていたのにもし魔王がいたとしても戦えないでしょうと思った。

 ルチアは不安そうな顔をしてリベルをじっと見た。


《ルチアの考えていることは何となくわかります。密猟者のときは相手が人間なので傷つけるわけにはいかなかったのです。冥界のものには容赦しません》


 ルチアは本当に?という顔をしてリベルを見た。


「わたしがカフェに戻って見てくるよ。ルチアはここにいなさい。さっきカフェで体調を崩しただろう?」


 フィデスはそう言って椅子から立ち上がり出口に向かった。


「待ちなさい」


 ダン爺がフィデスを止め、カウンターの奥の部屋に入って行った。しばらくするとダン爺は宝石箱のような物を持って出てきた。

 ダン爺は宝石箱の埃を息を吹きかけて払いながらフィデスに差し出した。

 フィデスはダン爺から宝石箱を受け取り蓋を開けた。


「これは?」


 宝石箱の中には透明な結晶の塊が入っていた。


「それはロッククリスタルじゃ。長年研究して天然のクルスタルから作り出された物で、おそらく瘴気を少しは防いでくれるじゃろう。わしには瘴気が見えんから使ったことはないがの」


 そう言ってダン爺は声を出して笑った。


「やはりあなたはダン・スワロブ博士でしたか。あなたの功績は今でも聞き及んでいます」


 ルチアは驚いた顔をしてダン爺を見た。


「はは、もう三十年前の話よ。今はしがない古本屋の店主じゃ」


「ではお借りします」


 フィデスはロッククリスタルを宝石箱から取り出して上着のポケットに入れた。


「お気をつけてください」


 ルチアが心配そうな顔で言うと、フィデスは微笑みながら頷いた。

 フィデスが本屋から出ていくとルチアはダン爺にリベルが入るくらいの大きさの籠はないか尋ねた。

 ダン爺は取手のついた果物籠を貸してくれた。


「どこか行くのかの?」


「どうしても気になるのでリベルを連れてカフェを遠巻きに見ようと思って」


 本当はリベルと話がしたいがダン爺がいてできないので、店の外で話をしようとルチアは考えていた。


「近くには行くなよ。気をつけてな」


「うん、ありがとう」


 ルチアは貸してもらった果物籠にルチアを入れハンカチで覆った。

 店の外に出るとルチアは早速歩きながら小声でリベルに話しかけた。


「リベルには瘴気は見えるの?」


《もちろん見えるよ》


「カフェのオーナーのペルデルが怪しいのだけど、リベルは彼を見たら人間かそうでないかわかる?」


《それは経験がないから何とも言えない》


「もし、もしもよ、彼が魔王かその眷属だったらどう対処すれないい?」


《浄化するしかないよね。魔物と違って消滅することはないけど魂が洗われるから悪さはしなくなると思う。これも経験がないからなんとも言えない》


「…そうよね、前世では魔物しか浄化しなかったものね。魔王も眷属も冥界に逃げ帰ってしまったから。でもみんなの前で力は使いたくないわ」


 角を曲がるとカフェが見えるところまで来た。ルチアは角の店の壁に身体を寄せて顔だけ出してカフェを見た。

 店の前は長蛇の列ができていた。フィデスが店の外から窓を覗いている姿が見えた。

 リベルも籠から顔を出して覗いた。


《ねぇ、ルチア。あの並んでいる人たちは?》


「カフェに入る順番を待っているのよ」


《あの人たちの中に何人も瘴気を帯びている人がいるけど》


「えっ、本当?」


 ルチアはよく目を凝らして行列を見た。確かに黒いモヤのかかっている人が何人かいる。

 フィデスが中に入ろうと入り口の近くに行くとその周辺の人の瘴気が少し和らいだ。


《ダン爺のロッククリスタルが瘴気を吸い取っているね、少しだけど》


 フィデスは何やら周りに文句を言われていたようだが、笑顔で悩殺したのと瘴気が和らいだのとで先に入れてもらえたようだ。

 しばらくしてニナたちがフィデスと出てきた。ニナとマリーにも瘴気がまとわりついているようだが、少しずつ消えている。

 ルチアはフィデスたちのもとに駆け寄った。


「公爵様、ありがとうございます」


 フィデスは頷いた。


「もう、ルチア姉が公爵様にお願いしたのね!もう少し居たかったのに!」


 ニナはプンプン怒った。


「何言ってるの。あれを見てごらんなさい。あんなに順番を待ってる人がいるのよ。あなたたちが居座っていたらみんな入れないじゃない」


 ルチアは強い口調で言った。

 ニナとマリーは長蛇の列を見てしょうがないというような顔をした。


「わたしはしばらくここにいてカフェの様子やオーナーのことを調べるつもりだが、ルチアはどうする?」


 フィデスが小声でルチアに言った。


「わたしはニナたちと乗合馬車で帰ります………リベルを連れていたら周りがびっくりするので公爵様預かってもらっていいですか?暗くなったら自分で飛んで帰ってくると思いますので。申し訳ありません」


「それは構わないが、わたしを信用するのかな。わたしはリベルを欲しいと言った人間だよ」


「公爵様は決して人を騙す方ではないと信用しています。それにリベルは瘴気がわかります。お役に立つと思います」


 ルチアはフィデスにそう言うとリベルに超小声で言った。


「リベルは残ってオーナーを確認してちょうだい」


《了解しました》


「ルチアにそのように言われたら裏切れないな」


 ルチアは果物籠に入ったリベルをフィデスに渡した。


「公爵様、厚かましいお願いですが、果物籠はダン爺に返してもらっていいですか?」


「承知した。ルチアたちも気をつけて帰ってくれ」


 ルチアは会釈してニナたちと乗合馬車の停留所に向かった。


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