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13.怪しいウエイター

 ルチアはニナを急かせて早々にカフェを出た。


「もうルチア姉!もっとゆっくりしたかったのに」


 ニナは文句タラタラ言っていたが、ルチアはそれを無視して乗合馬車の停留所まで急いだ。


「ルチア姉、そんなに急がなくてもまだ時間あるわよ。何をそんなに急いでるの?」


 ルチアは一旦止まって振り返ってニナを見た。


「嫌な予感がするの…」


 ルチアはハッとした。さっきのカフェがまだ見えているが、あのウエイターが入り口でこちらをじっと見ていた。

 ルチアはニナの手を取り早足でダン爺の本屋に入った。


「おや、ルチアなんか忘れ物かい?」


 ルチアは乗合馬車の時間までここにいれば安心だと思った。


「…うん、買い忘れたものがあって……」


 ルチアが言うとニナが膨れっ面で言った。


「それならルチア姉だけが来れば良かったじゃない。わたしは時間までカフェにいたのに」


「カフェって最近出来たあの派手な店かい?」


 ダン爺が怪訝そうな顔で言った。


「そう!ダン爺何か知ってるの?」


 ルチアはダン爺の怪訝そうな顔に食いついた。


「いや、この街に似合わんものができたなと。それにあそこの黒髪の目の赤い店員がどうも気に入らん」


「何言ってるんですか。あんな神秘的な美しい人滅多に見られませんよ」


 ニナが反論した。


「気に入らないって、何かあったの?」


 ルチアが聞くとダン爺は顔をしかめて言った。


「あの店ができて半月ぐらい経つが、あそこを訪れた娘たちがみんなあの店員に惚れ込んでな。争いが絶えんのじゃ」


「それはあのウエイターのせいじゃないでしょ。争う女たちが馬鹿なのよ」


 ニナは憤慨しながら言った。


「いや、娘たちは自分があの店員と付き合っていると主張しとる。あの店員が何人もの娘に手を出しとるんじゃろ」


「手を出すって?」


 ニナがキョトンとした顔で言った。


「しかもその娘たちの中で行方不明になっている者もおるらしい」


「行方不明ですって⁈…やっぱり…」


 ルチアがあのウエイターに感じた嫌な感じは当たっているのかもしれないと思った。


「それとあのウエイターとなんの関係があるの?勝手に結びつけたら可哀想よ」


 ニナはますます怒っていた。

 今のニナに何を言っても無駄だと思ったルチアはダン爺に顔を向けて無言で謝った。ダン爺はしょうがないというような顔をして頷いた。


「それで?買い忘れた物って何なの、ルチア姉?」


 ニナはまだ怒っているような話し方だった。


「あー、えーと、ほらダン爺、前回来たときに頼んであったあれ、もう入荷したかしら?」


 ルチアは話を合わせて欲しいとダン爺に目配せした。


「え…あ、あれな……えーと、ちょっと探すから待っといてくれ」


 ダン爺は探すふりをしてルチアを呼んだ。


「ルチアこれじゃったかの?」


 ルチアはダン爺の側に行き、一緒に探すふりをした。


「ううん、違うわ。この辺見てもいい?」


「おお、一緒に探してくれ」


 ルチアとダン爺はニナに見えないようにカウンターの中にしゃがんでこっそり話をした。


「ごめんね、ダン爺。ニナのこと」


「いいって。あのカフェに行った娘はみんなあんなふうになるんじゃ。そういやルチアは変わらんの」


 ルチアは苦笑いをしてため息をついて言った。


「この様子じゃニナは一人ででもまたあのカフェに行きそうだわ」


「心配じゃな」


「うん……ダン爺、あのカフェでまた何か分かったら教えて。使いのものを送るから」


「使いのもの?」


 ダン爺は疑問顔でルチアを見た。ルチアは頷いて言った。


「黒紫色の珍しい飛ぶ生き物よ。一度連れて来るわ。目立つからこっそり連れて来るわね」


「おお、楽しみにするわ」


「ルチア姉、まだ見つからないの?乗合馬車の時間が迫ってるわよ」


 ニナはだいぶん落ち着いたようで声がいつもの調子だった。

 ルチアはカウンターから顔出した。


「ごめん、ごめん、ニナ。入荷してないようだからまた来るわ。ダン爺ありがとう」


 ルチアはそう言ってカウンターから出て入り口に向かった。

 ダン爺もカウンターから出てきてルチアたちを見送った。


 ルチアたちが停留所に行くとちょうど乗合馬車がやって来た。

 ルチアたちは乗合馬車に乗り、馬車が動き出すとルチアはホッとした。


「ルチア姉、また近々本屋に行くんでしょう?そのときはわたしも誘って。またあのカフェに行こうよ」


 ルチアは返答に困った。行かないと言えばニナはまた起こり出しそうだった。


「……そうね…いつになるかわからないけど…」


「え〜っ……いいわ、友達と行くから。何なら一人でもいいし」


 ニナはニヤけた顔をしながら言った。

 ルチアは何とかしてニナをカフェに近づけないようにしなければと思った。


 

 夕食後、部屋に戻るとルチアはリベルに今日の出来事を話した。


《僕がその本屋のダン爺とやらにカフェのことを聞きに行けばいいのですね》


「うん、その前に一度顔合わせしときたいんだけど、日中は目立つから籠の中に隠れてもらうけどいい?」


《大丈夫です。それにしてもニナが心配ですね》


「ニナもそうだけど、行方不明者がいるのが気がかりだわ。とにかくあのウエイターは怖いというか不気味な感じね。どうしてみんな惚れ込んじゃうのかわたしにはわからないわ」


 ルチアはウエイターのほくそ笑んだ顔を思い出してゾッとした。


《ルチアは聖女だから見た目だけの美しさには反応しないのでしょう。中身が美しい人がわかるのですよ》


 リベルに言われてルチアはフィデスを思い出した。フィデスも神秘的な美しい容姿だったが、不気味だとは全く思わなかった。それどころかどこか惹かれるものがあった。

 ルチアはフィデスに会いたくなったが、身分も違うし所詮は縁のなかった人と言い聞かせて気持ちを振り払った。

 

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