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12.新しいカフェ

 密猟者に狙われてから三日が経った。

 ルチアはニナと一緒に久しぶりに街に買い物に出た。

 リベルは留守番である。いくら小さいといえども街に竜を連れて歩いたら、周りはびっくりするだろうし、それこそ密猟者のような輩が誘拐するかもしれない。

 リベルはルチアと離れることを渋々承諾した。


 二人は乗合馬車に乗って街を訪れた。

 ニナは夏服を購入予定だ。去年まで着ていた夏服が急に合わなくなって、まだまだ暑い日が続くので買いに来た。

 ルチアは特に買うものはなかったが、新しい本を見たいと思っていた。

 ニナが服飾の店で服を選んでいる間、ルチアは本屋へ行った。


「やあ、ルチア。久しぶりじゃな」


 ルチアは本屋のダン爺とは仲が良かった。


「うん、ニヶ月ぶりかな街に出てくるの。何か面白い本入ってる?」


 ルチアは積み上げられた本の背表紙を見ながら言った。


「どんなジャンルが読みたいんだ?」


「うーん……そうね、面白ければなんでもいいんだけど…」


 ルチアは本をめくりながら答えた。


「ルチアの面白いは奥が深くて範囲が広いからな……そうじゃ、昨日入ったばかりの古本だが……」


 ダン爺は積み上げられた本を避けながら一冊の本を手にした。


「この話、実際の冒険者が体験したことを物語風に書いてある。十数年前に亡くなっているが十代で冒険に出て三十年間の体験が書かれているそうだ」


「ふーん、面白そうな話だわ。読んでみないとわからないけど、じゃあそれ買うわ」


「まいど!」


 ルチアはダン爺にお金を渡して本をもらい店を出た。

 ニナとの待ち合わせの噴水広場に行き、ベンチに腰掛けたルチアは早速買ったばかりの本を開いた。

 最初のページにこう書かれていた。


【この物語はわたしの半生をかけた冒険の物語である。そして全身全霊で愛したたった一人の人に捧ぐ】


 次のページを開こうとしたとき、近くで聞き覚えのある声がした。ルチアが顔を上げると数メートル先に三日前、ルチアが浄化した密猟者の一人がいた。

 ルチアは本で顔を隠して密猟者の様子を窺った。

 密猟者は靴磨きをしていた。通る人に声をかけては靴を磨いてお金を貰っていた。中には貴族らしき人もいてお金を支払うときに投げ捨てるようにする人もいたが、密猟者は怒らず、ニコニコしてお礼を言っていた。

 ルチアは人間に浄化の力を使ったのは今世はもちろん、前世でもなかった。

 冥界の魔物はそれ自体が瘴気なので浄化の光を浴びると消えてしまうが、人間が光を浴びると悪意だけが浄化されるのだなとルチアは思った。

 しかし今の密猟者の様子を眺めながら、彼はあれで幸せなんだろうかと疑問に思った。


「ルチア姉、お待たせ!」


 ニナが息を切らしながら走って来た。


「そんなに慌てなくても帰りの乗合馬車までたっぷり時間あるわよ」


「そう、時間があるから走って来たの。あっちに新しく出来たカフェがあってオシャレなの!ルチア姉入ろうよ!」


 ニナは強引にルチアをカフェの方へ腕を掴んで引っ張って行った。

 カフェは確かに田舎の街には似つかわしくない華やかな感じだった。


「まるで貴族様御用達のようなカフェね」


「そうでしょ。王都にでもいる気分を味わえそう。でも大丈夫、ほら見て。平民しかいないわ。ここは領主御一家以外貴族はいないからね」


 ニナはそう言ってルチアの手を引いてカフェに入った。

 中も華やかでルチアは落ち着かないと思ったが、座っているのは平民の女性ばかりだった。

 その女性たちの視線が一点に集中していた。


「いらっしゃいませ」


 艶やかな黒髪で朱色の瞳のスラッとした細身のウエイターがルチアたちに声かけた。


「お席は空いてるところへどうぞ」


 ウエイターは中性的な美しい顔でにっこりと微笑んだ。

 ニナも釘付けになっていた。

 ルチアはそのウエイターに何かわからないが違和感を持った。

 ルチアとニナが窓際のテーブル席に座ると黒髪朱眼のウエイターが注文を聞きにきた。


「わたしはアップルティーとおすすめケーキで。ルチア姉は?」


「…わたしはハーブティーで」


 ルチアがそう言いながら顔を上げるとウエイターと目が合った。


「……へぇ、碧眼にブルーシルバーね…」


 ウエイターがボソッと呟いたのをルチアは聞き逃さなかった。


「アップルティーとおすすめケーキとハーブティーですね。少々お待ちください」


 ウエイターはチラリとルチアを見てから奥に下がった。


「ねえ、ねえ、すっごく神秘的なウエイターだったよね。公爵様もこの世にないぐらいの美しさだったけど、ここのウエイターも公爵様とは違うタイプの美しい顔だったわ。この短期間に二人も拝見できるなんて。公爵様は滅多にお目にかかれないけど、ここなら手軽に来れるわ」


 ニナはすっかりウエイターに夢中になっているようだ。ニナだけではない。この店にいる女性客全員あのウエイターに夢中のようだ。

 ルチアはニナから公爵という言葉が出て胸が熱くなったが、ウエイターが自分の容姿のこと呟いたのが気になった。


「お待たせしました。アップルティーとおすすめケーキとハーブティーです。今日のおすすめケーキはレアチーズをタルトに乗せブルーベリーとラズベリーをトッピングしました。ごゆっくりどうぞ」


 ルチアは驚いた。考え事をしていたせいかもしれないが、ウエイターが近くに来ても気づかないほど足音がしなかったのだ。

 ルチアはウエイターの方をチラリと見た。

 ウエイターは去りながらルチアを横目で見てほくそ笑んだ。

 ルチアは言い知れぬ悪寒が走った。


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