11.再び密猟者
フィデスがオストラル伯爵家の領地を発ってから一ヶ月が過ぎた。
ルチアは農場を手伝いながら時間があれば本を読んだり、リベルと散歩をしたりと、いつものようにのんびり穏やかに暮らしていた。
ときどきフィデスのことが頭をよぎるが、会いたいとかそんなのはなくて、何か彼に対して忘れていることがあるような気がするだけだ。
フィデスにもらった宝石のネックレスはしまってある。こんな田舎で着けるには派手だし、何よりスカイが嫌がってぶちぶち文句を言うからである。
リベルにはつけたままにしておいた。誰かに見つかっても立派な宝石がついた首輪を見たら貴族が飼っていると思って捕獲されないだろうと考えたからだ。
ルチアはリベルと裏山の川に遊びに来ていた。
《久しぶりの水浴び気持ちがいいです》
「ここで危ない目に遭ったけどリベルは平気なの?」
ルチアは川縁に座り足だけを水につけてバシャバシャしながら言った。
《あのときは油断してしまったので。僕本当は強いんですよ。あんな密猟者ぐらい簡単にやっつけられますけど、大騒ぎしたくなかったので》
リベルは少し強がって言った。
「はいはい、そうよね。わたしが知っている前世の黒紫竜はとても強かったわ」
ルチアが言うとリベルは黙り込んでしまった。
「何?どうしたの、リベル?」
《……本当はそんなに強くないです。アルカナ聖国で先輩たちに鍛えてもらっていたのですが、身体が小さいとどうしても力も弱くて……》
リベルはシュンとした。
「リベルはどうして成長が止まったの?」
《わかりません……先輩方が言うには初めての二世だからそこに何か関係があるかもと言っていました》
「他の竜たちは天界から来たんだよね。リベルは違うの?」
ルチアの質問にリベルは初めに天界から地上界に降りた竜の話をした。
竜はもともと天界ではそれほど大きくはなかった。神々の観賞用として創られたいわばペット的存在だったからだ。それでも成体になると人一人乗せられるだけの大きさにはなる。
鱗の色が違うのも宝石のように美しいのも神々が競い合ったからだ。
地上界が魔王率いる魔物で壊滅させられそうになったとき、神々はそれぞれ自分の竜をさらに大きくし力を与え地上界に放った。
もちろん地上界を救うためではあったが、これも競争の一つとなった。どの神の竜が一番強くて力のある聖女を番にできるかだ。
黒と紫の竜は神ユピテルが飼っていた。二体ともルチアの前世であるアテナと契りを交わして合体したが。
本来竜は天界の俗物だから老齢になっても不老不死であるはずなのに、黒紫竜は二十数年前から急に弱り始め、十五年前に土に帰ってしまった。
その土から出てきた卵がリベルだ。
《そういうわけで、僕は他の竜とは違うんです》
「そうなのね…ルキウスはただ弱っていっただけなの?何か病気とか?」
《僕の中にある記憶では急に神からの守護である力がなくなった感じですね》
リベルはそう言いながら、もしかしたらフィデスと関係があるのかもしれないと思った。
《ルチアは神ユピテルのことを覚えてる?》
ルチアは首を傾げて目を左右に動かしながら考えた。
「……うーん、何か思い出しそうでわからないわ。何か大事なことを忘れているような……あっ!」
ルチアは何かを思い出したように叫んだ。
《何か思い出した?》
ルチアは俯いて人差し指で鼻をかいた。
「……この何か忘れているような感覚、公爵様にも同じように感じたの……それを思い出して…」
リベルはやはり神ユピテルとフィデスは関係があると思ったが、はっきりわかるまでルチアには言わないでおこうと思った。
リベルは山の奥から誰かがこっちに来る気配を感じた。
《ルチア、山の奥から誰かが近づいてきている》
「山菜でも取りに行ってた人じゃないの?こんな田舎に見知らぬ人は滅多に来ないわ」
ルチアはそう言ったが密猟者の可能性もあると思い、リベルを抱えて帰ろうとした。
「見つけた!」
ルチアがその声に振り返ると男が二人ルチアに向かって走って来ていた。
《前の密猟者たちだ!》
ルチアはリベルをお腹に抱えて慌てて走って逃げた。
「止まれ!止まらないと矢を放つぞ!」
密猟者は矢を構えて言ったがルチアは振り返らず走った。まさか人間に矢は放たないだろうと思ったのだ。
矢がルチアの顔スレスレに通り過ぎて木に当たった。
ルチアは心臓が止まりそうになったがそれでも走った。
「今度は当てるぞ!」
矢がルチアのふくらはぎに刺さった。
「あっ!」
ルチアは倒れた。ルチアはリベルだけを逃がそうと思ったが飛んでいるところをまた矢に撃たれると思いリベルを抱え込んで守った。
密猟者が近くまで来た。
「手間かけさせやがって。この竜は俺らが一ヶ月前に見つけたんだ。当然俺らのものだ!」
密猟者はルチアからリベルを奪い取ろうとした。リベルは密猟者の手を噛んだ。
「イテッ!何しやがんだ!」
もう一人の男がルチアの後ろから腕を掴んで抱え込んだ。
「リベル逃げて!」
《ルチア、力を使うんだ。前世と同じようにすれば大丈夫!》
ルチアは力を使いたくなかったが今使わないとリベルが連れ去られてしまうと思った。
「ルストラーレ!」
ルチアが唱えると光が降り注ぎ密猟者を包み込んだ。密猟者たちは光の中でボーとした後、光が消えると眠るように倒れ込んだ。
ルチアは脚に刺さった矢にも光を放ち消し、傷も塞がった。
ルチアとリベルは急いで林を出て家に帰った。




