第99話 年の瀬と小さな発見
共同研究が始まって数週間。五人は週に一度、ローランドの研究室に通いながら、学園生活との両立に励んでいた。
「今日は、魔力の蓄積構造について、もう少し掘り下げてみましょう」
ローランドが黒板に、複雑な図を描き始める。
「魔石の内部には、微細な魔力の通り道があるのですが、この通り道の形状によって、魔力の保持力が大きく変わるのです」
「なるほど、通り道の形状か……」
ニコラスが真剣な表情で図を見つめる。
「では、魔石に特殊な加工を施して、通り道の形を整えることはできないでしょうか」
ソフィアの問いに、ローランドは感心したように頷いた。
「実に鋭い着眼点ですな。理論上は可能ですが、実際にやるとなると、かなり繊細な作業になります」
「試しに、小さな魔石で実験してみませんか?」
ニコラスの提案に、皆が頷いた。
早速、実験用の小さな魔石が用意され、五人はそれぞれの持ち場で作業を始めた。
「この角度で、魔力を流し込んでみる……」
ソフィアが慎重に魔力を操作する。細やかな魔力の流れが、魔石の内部へと吸い込まれていく。
「どうですか?」
「魔力の反応、今のところ安定しています」
エミリーが記録用の魔道具を確認しながら報告した。
「ふむ、これは興味深い。通常なら、この段階で魔力が漏れ始めるはずなのですが」
ローランドが目を輝かせながら、実験の様子を見守る。
しばらくして、魔石に蓄積された魔力の量を測定すると、通常の約一・五倍の数値が記録されていた。
「一・五倍!? すごいじゃないか!」
フェリックスが驚きの声を上げた。
「まだ、小さな魔石での実験ですが、これは大きな一歩ですな」
ローランドが感慨深げに頷く。
「この技術を応用すれば、マナレス・ランプの持続時間も、大幅に伸ばせるかもしれませんね」
ソフィアが嬉しそうに言った。
「ええ、その可能性は十分にあります。皆様のおかげで、長年の課題に、ようやく光が見えてきました」
ローランドの言葉に、五人は互いに顔を見合わせ、喜びを分かち合った。
その日の帰り道、王都の街は、年の瀬の賑わいに包まれていた。屋台には、色とりどりの飾りや、年越しの品々が並んでいる。
「もう、年末なのね。時間が経つのは早いわ」
シャルロットが感慨深げに呟いた。
「本当だな。学園に入ってから、あっという間だった」
ニコラスも、街の賑わいを眺めながら頷く。
「そういえば、年越しは、皆で一緒に過ごさないか?」
フェリックスの提案に、皆が顔を輝かせた。
「いいわね! 賑やかで楽しそう」
「私も、ぜひ」
「わたしも、参加したいです」
「じゃあ、決まりだな。場所は、また考えよう」
フェリックスの言葉に、皆が笑顔で頷いた。
冬の夕暮れの空の下、屋台の灯りが、温かく街を照らしている。その光景を眺めながら、ニコラスは、この穏やかな時間が、少しでも長く続いてほしいと、心から願っていた。
街を歩きながら、五人は屋台を冷やかして回ることにした。
「見て、この飾り、綺麗ね」
シャルロットが、小さなガラス細工の飾りを手に取った。
「お、いい趣味してるな」
「でしょう? これ、部屋に飾ったら素敵だと思うの」
「買っていったらどうだ?」
「そうね、せっかくだから」
シャルロットが嬉しそうに購入する様子を見て、ニコラスも微笑んだ。
「ソフィアは、何か気になるものあったか?」
「あの、この小さなランプ、すごく可愛いなと思って」
ソフィアが指差したのは、手のひらサイズの、素朴な作りのランプだった。
「マナレス・ランプの、小型版みたいな感じだな」
「はい、もし小さいサイズも作れたら、お子さんの枕元とかに置けて、便利かなと」
「それ、いいアイデアだな。次の新作の候補にしてもいいかもしれない」
ニコラスの言葉に、ソフィアは嬉しそうに頷いた。
「エミリーは?」
「わたしは、母への贈り物を探しています。何か、温かいものが良いかなと」
「それなら、あそこの店、暖かい手袋が売ってたぞ」
フェリックスが指差すと、エミリーは目を輝かせた。
「本当ですか! 見てきます」
嬉しそうに駆けていくエミリーの後ろ姿を、皆が微笑ましく見守っていた。
屋台の温かい飲み物を片手に、五人は街の広場のベンチに腰を下ろした。冷たい風の中、湯気の立つカップが、心地よい温もりを与えてくれる。
「今年も、本当に色々あったな」
ニコラスがしみじみと呟いた。
「グラント商会に、クレイン商会に、フェアに……。一年間で、こんなに色んなことがあるなんてね」
シャルロットが指を折りながら振り返る。
「でも、全部、良い思い出になりましたね」
ソフィアの言葉に、皆が頷いた。
「来年も、こうして皆で過ごせたらいいな」
「もちろんよ」
シャルロットが力強く頷き、他の三人も、それぞれ笑顔で応えた。その温かい空気に包まれながら、ニコラスは、確かな幸せを噛み締めていた。
冬の夜空に、白い息が、ふわりと溶けていった。賑やかな街の喧騒も、今の五人には、どこか心地よい子守唄のように聞こえていた。
第100話へ続く




