第100話 年越しの夜に
大晦日、五人はフェリックスの提案で、王都郊外にある小さな丘の上に集まっていた。ここからは、王都の夜景と、年越しの花火が、一望できるという話だった。
「わあ、綺麗な景色ですね」
ソフィアが、眼下に広がる王都の灯りを見つめながら、感嘆の声を上げた。
「だろ? ここ、実は前から知ってたお気に入りの場所なんだ」
フェリックスが得意げに言う。
「フェリックス様、こんな素敵な場所、よくご存じでしたね」
エミリーの言葉に、フェリックスは少し照れくさそうに笑った。
「まあ、色々あるんだよ」
丘の上に敷いた敷物に腰を下ろし、五人は温かい飲み物を片手に、賑やかな時間を過ごしていた。
「今年一年、本当に色々あったわよね」
シャルロットがしみじみと呟く。
「保冷魔道具から始まって、グラント商会、クレイン商会、マナレス・ランプ、ストックアイズ、クイックレジ……。数えきれないほどの出来事があったな」
ニコラスが指折り数えながら、この一年を振り返った。
「わたしにとっては、皆さんと出会えたことが、何よりの財産です」
エミリーが静かに、しかし確かな想いを込めて言った。
「あの頃の私は、本当に一人で抱え込むことばかりで……。でも、皆さんのおかげで、こんなに温かい場所を見つけることができました」
その言葉に、皆が優しい笑みを浮かべた。
「俺たちこそ、エミリーがいてくれたから、色々なことを乗り越えられたんだ」
フェリックスの言葉に、ソフィアも頷いた。
「はい、エミリーさんの視点があったからこそ、生まれたアイデアもたくさんありました」
賑やかな会話が続く中、夜空に一発の花火が打ち上がった。
「あ、始まった!」
シャルロットが声を上げると、次々と色とりどりの花火が、夜空を彩り始めた。
「わあ、綺麗……!」
ソフィアが感嘆の声を漏らす。花火の光が、五人の顔を、次々と柔らかく照らしていった。
花火が最高潮を迎える中、ニコラスはふと、シャルロットの方を見た。花火の光を受けて輝く彼女の横顔に、思わず見とれてしまう。
「どうしたの、そんなに見つめて」
視線に気づいたシャルロットが、少し照れくさそうに尋ねた。
「いや、綺麗だなと思って」
「な、なによ、急に」
「花火も、シャルロットも」
思いがけない言葉に、シャルロットの顔が、花火よりも赤く染まった。
「も、もう! こんな皆の前で!」
「ふふ、お邪魔虫かしら、私たち」
エミリーがからかうように言うと、フェリックスとソフィアも、微笑ましそうに二人を見つめていた。
「うるさいわね、皆!」
赤面しながらも、シャルロットは、どこか嬉しそうな表情を隠しきれていなかった。
盛大な花火が、次々と夜空を彩る中、五人は肩を並べて、この特別な瞬間を分かち合っていた。
「今年も、もうすぐ終わるな」
ニコラスの言葉に、皆が頷いた。
「来年も、また新しい発明に挑戦しましょう」
ソフィアの言葉に、フェリックスが力強く答えた。
「もちろんだ。俺たちなら、きっと、もっとすごいものを生み出せる」
「わたしも、精一杯頑張ります」
エミリーの決意に満ちた言葉に、皆が笑顔で頷いた。
「私も、負けないわよ」
シャルロットの言葉に、ニコラスは優しく微笑んだ。
「ああ、皆でなら、きっと、どんな未来も乗り越えられる」
夜空に響く花火の音とともに、王都の鐘が、新しい年の訪れを告げ始めた。
「新年、あけましておめでとう!」
フェリックスの声に、皆が笑顔で応えた。
「あけましておめでとう!」
賑やかな声が、丘の上に響き渡る。冬の澄んだ夜空の下、五人は、これまでの一年に感謝しながら、新しい年への希望を、静かに胸に刻んでいった。
異世界に転生してから、数々の出会いと困難を乗り越え、こうして大切な仲間たちと共に、新しい年を迎えられることに、ニコラスは心から幸せを感じていた。
花火が最後の一発を打ち上げ、夜空に静けさが戻ってくる頃、シャルロットがそっとニコラスに寄り添った。
「ねえ、ニコラス」
「なに?」
「来年も、再来年も……ずっと先まで、こうして一緒にいたいな」
素直な言葉に、ニコラスは驚きながらも、優しく微笑んだ。
「ああ、俺も、同じ気持ちだよ」
二人のやり取りを、フェリックスたちは、少し離れた場所から、温かい目で見守っていた。
「なあ、あの二人、本当にお似合いだよな」
フェリックスの言葉に、ソフィアとエミリーも、笑顔で頷いた。
「はい、見ていて、こちらまで幸せな気持ちになります」
「わたしも、いつか、あんな風に素直になれたらいいなと思います」
エミリーの呟きに、フェリックスがニヤリと笑った。
「お、それ、ガレスに聞かせてやりたいセリフだな」
「ちょ、フェリックス様!」
慌てるエミリーに、皆が声を上げて笑った。
冬の澄んだ星空の下、五人の笑い声は、いつまでも丘の上に響き渡っていた。この一年で積み重ねてきた絆は、決して脆いものではなく、これから先も、確かに続いていくのだろう。
村人として静かに暮らすはずだった人生が、思いもよらない方向へと転がり、多くの仲間たちと出会い、数々の発明を成し遂げ、そして、かけがえのない絆を育んできた。全てが、スキルのおかげだけではない。皆で力を合わせ、困難を乗り越えてきたからこそ、今のこの瞬間があるのだと、ニコラスは改めて実感していた。
物語は、まだ、始まったばかりだった。
第101話へ続く




