第98話 ローランド氏の研究室
技術革新フェアから数日後、五人は約束通り、ローランドの研究室を訪れていた。王都の一角にある古い石造りの建物は、外観こそ質素だったが、中に入ると、所狭しと並ぶ魔道具や資料の山に圧倒された。
「ようこそ、皆様。散らかっていて申し訳ありませんが、どうぞお入りください」
穏やかな笑みを浮かべながら、ローランドが五人を迎え入れた。
「すごい……。こんなにたくさんの資料が」
ソフィアが目を輝かせながら、棚に並ぶ魔道具を眺める。
「長年の研究の成果です。もっとも、大半は失敗作ですがね」
ローランドは笑いながら、五人を応接用の席へと案内した。
「さて、本題に入りましょう。先日のフェアで拝見した皆様の技術、特にマナレス・ランプの仕組みに、私は大変興味を持ちました」
「魔石に魔力を蓄積して、少しずつ放出する仕組みですね」
ニコラスが確認するように言うと、ローランドは頷いた。
「ええ。実は、私は長年、魔力の『蓄積効率』について研究を続けているのです。より少ない魔石で、より長く魔力を保持できる方法を探していまして」
「なるほど。それが実現できれば、マナレス・ランプの持続時間も、大幅に向上しそうですね」
ソフィアが興味深そうに身を乗り出した。
「その通りです。実際、私の理論を応用すれば、現在の三倍近い持続時間が実現できるかもしれません」
「三倍!? それはすごいな」
フェリックスが驚きの声を上げた。
「ただ、理論だけでは限界がありまして。実際に形にするには、皆様のような、実践的な発明力が必要なのです」
「そこで、共同研究、というわけですね」
「はい。もし、ご興味がおありでしたら、ぜひ」
ローランドの真摯な眼差しに、五人は顔を見合わせた。
「私たちで、力になれるなら、ぜひ」
ニコラスの言葉に、皆が頷いた。
「ありがとうございます。それでは、早速、研究の概要をご説明いたしましょう」
ローランドが広げた資料には、複雑な魔法陣の図が、びっしりと描き込まれていた。
「これは……かなり高度な理論ですね」
ソフィアが真剣な表情で資料を読み込む。
「はい、正直、私一人では、実用化にまで漕ぎ着けるのは難しくて。ですが、皆様の柔軟な発想と技術があれば、きっと道が開けると思います」
ローランドの説明を聞きながら、五人は少しずつ、この共同研究の面白さと難しさを理解していった。
「よし、それじゃあ、学業と両立しながら、少しずつ進めていこう」
ニコラスの言葉に、皆が力強く頷いた。
「学園の授業もありますし、無理のない範囲で、週に一度程度、こちらにお邪魔させていただくのはいかがでしょうか」
ソフィアの提案に、ローランドは嬉しそうに頷いた。
「もちろん、構いません。皆様のペースで、ゆっくり進めていきましょう」
こうして、新たな共同研究の幕が上がった。
研究室を後にする頃には、夕暮れの空が、王都の街を優しく染めていた。
「なんだか、また新しい世界が広がった気がするな」
ニコラスの言葉に、シャルロットが笑顔で頷いた。
「うん、私も。まだまだ、学ぶことがたくさんあるのね」
「これから、楽しみですね」
エミリーも、期待に満ちた表情で言った。
冬の澄んだ空気の中、五人はそれぞれ、新しい挑戦への期待を胸に、学園への帰路についた。
学園に戻る馬車の中、フェリックスがふと思い出したように言った。
「そういえば、もうすぐ卒業の時期も近いんだよな」
その言葉に、車内の空気が、少しだけ静まった。
「そうか……。もう、そんな時期なんだな」
ニコラスが感慨深げに呟く。三年間、色々なことがあった学園生活も、終わりが近づいているのだ。
「卒業したら、皆、それぞれの道に進むことになるのよね」
シャルロットが少し寂しげに言った。
「私は、実家の商会を手伝うことになると思います」
エミリーが静かに言う。
「私は、魔道具の研究を、もっと深く続けていきたいです」
ソフィアの決意に満ちた言葉に、皆が頷いた。
「俺は、そうだな……。ギルドと協力しながら、商売の道を探っていくつもりだ」
フェリックスが自分の進路を語る。
「ニコラスは、どうするんだ?」
不意に振られた質問に、ニコラスは少し考え込んだ。
「正直、まだはっきりとは決めてないんだ。ただ、これからも、発明を続けていきたいとは思ってる」
「それなら、俺たちと一緒にやればいいじゃないか。卒業しても、ずっと仲間なんだから」
フェリックスの明るい言葉に、皆が笑顔で頷いた。
「そうよ、卒業したからって、バラバラになるわけじゃないわ」
シャルロットの言葉に、ニコラスは温かい気持ちになった。
「ああ、そうだな。これからも、皆で一緒に、色々なものを作っていこう」
窓の外を流れる冬の景色を眺めながら、五人はそれぞれ、来るべき卒業と、その先の未来に、思いを馳せていた。三年間で築いた絆は、きっと、卒業した後も、決して色褪せることはないだろう。馬車は、静かに、学園への道を進んでいった。
第99話へ続く




