第96話 技術革新フェア、前日
技術革新フェア前日、五人は最終確認のため、王都の会場を訪れていた。広大な会場には、既に多くの出展者たちが、それぞれのブースの準備を進めている。
「うわあ、すごい規模ですね……」
会場の広さに、ソフィアが圧倒された様子で呟いた。
「これが、技術革新フェアか。想像以上だな」
ニコラスも辺りを見回しながら、感嘆の声を漏らした。
案内された自分たちのブースは、思いのほか良い場所に位置していた。
「バルトロさんが、また色々と手を回してくれたみたいだな」
フェリックスが感心したように言う。
「よし、それじゃあ、展示の設営、始めよう」
シャルロットが練り上げたレイアウトに沿って、五人は手際よく展示の準備を進めていった。マナレス・ランプ、ストックアイズ、そして完成したばかりのクイックレジが、それぞれ美しく陳列されていく。
「三つ並ぶと、壮観ですね」
エミリーが感慨深げに呟いた。
「本当だな。これまでの積み重ねが、こうして形になってるんだな」
ニコラスも、しみじみとした気持ちで展示を眺めた。
設営作業を進める中、隣のブースから、興味深そうな視線が向けられていることに気づいた。
「失礼、そちらの展示、拝見してもよろしいですか?」
声をかけてきたのは、初老の男性だった。落ち着いた雰囲気から、経験豊富な発明家であることが伺えた。
「もちろんです、どうぞ」
ニコラスが快く応じると、男性は興味深そうにマナレス・ランプを手に取った。
「ほう、これは……。魔力を使わずに動く仕組み、実に興味深いですな」
「ありがとうございます。魔石に蓄積した魔力を、少しずつ放出する仕組みになっています」
「なるほど。若いのに、素晴らしい発想力ですな」
男性は感心したように頷きながら、名刺を差し出した。
「私、王都で魔道具研究をしております、ローランドと申します。もしよろしければ、後日、詳しくお話を伺いたいのですが」
「こちらこそ、光栄です」
思いがけない交流に、五人は互いに顔を見合わせ、喜びを分かち合った。
「すごいな、もう早速、興味を持ってもらえるなんて」
フェリックスが興奮気味に言った。
「明日の本番、期待できそうですね」
ソフィアの言葉に、皆が頷いた。
設営を終え、会場を後にする頃には、日はすっかり暮れていた。
「明日は、いよいよ本番だな」
ニコラスの言葉に、皆がそれぞれの決意を固めた。
「緊張するけど、楽しみでもあります」
エミリーが少し緊張した面持ちで言った。
「大丈夫、これまでの練習の成果、しっかり発揮できるはずだ」
ニコラスの励ましに、エミリーは笑顔で頷いた。
「よし、今夜はしっかり休んで、明日に備えよう」
「はい」「もちろん」「そうしましょう」
賑やかな声を残しながら、五人は王都の宿へと戻っていった。窓の外に広がる王都の夜景を眺めながら、ニコラスは、これまでの道のりを静かに振り返っていた。
明日は、これまでの集大成となる、特別な一日になる。そんな確かな予感を胸に、五人はそれぞれ、静かな夜を過ごしたのだった。
宿の一室、ニコラスは寝る前に、もう一度、明日の説明の流れを頭の中で確認していた。窓の外から、王都の喧騒がかすかに聞こえてくる。
「異世界に来て、こんな大きな舞台に立つ日が来るとはな」
小さく呟きながら、これまでの日々を思い返す。村人として静かに暮らすはずだった転生生活が、いつの間にか、多くの仲間たちと共に、様々な発明に挑戦する日々へと変わっていた。
コンコン、と控えめなノックの音がした。宿の廊下に、静かに響く音だった。
「ニコラス、まだ起きてる?」
シャルロットの声だった。ドアを開けると、彼女は少し落ち着かない様子で立っていた。
「シャルロット、どうした?」
「その、明日のこと考えると、なんだか緊張しちゃって。少し話し相手になってもらえないかと思って」
「もちろん」
二人はしばらく、廊下の窓辺に並んで、王都の夜景を眺めた。遠くに灯る街の明かりが、まるで地上に降りた星々のように瞬いていた。
「今回のフェア、本当に大きな挑戦よね」
「ああ、でも、これまで積み重ねてきたものがあるから、大丈夫だと思う」
ニコラスの言葉には、根拠のない自信ではなく、確かな実績に裏打ちされた落ち着きがあった。
「うん、そうよね」
シャルロットが小さく頷き、少し照れくさそうに続けた。
「あなたと一緒に、こうして大きな舞台に立てること、本当に嬉しいの」
「俺も、同じ気持ちだよ」
窓の外の夜景を見つめながら、ニコラスは、今この瞬間の幸せを、静かに噛み締めていた。
穏やかな夜の静寂の中、二人はしばらくの間、言葉少なに、互いの存在を確かめ合っていた。
「よし、そろそろ休もうか。明日に備えて」
「うん、おやすみ、ニコラス」
「おやすみ、シャルロット」
それぞれの部屋へと戻りながら、ニコラスは、明日への確かな期待と共に、静かに眠りについたのだった。窓の外には、王都の夜空に、澄んだ星々が瞬いていた。
第97話へ続く




