第89話 学園祭のお知らせ
ストックアイズの完成から数日、学園に新しい掲示が貼り出された。
「見て見て、学園祭の告知よ!」
食堂で掲示板を確認していたシャルロットが、興奮気味に声を上げた。
「学園祭か、もうそんな時期なんだな」
ニコラスが感慨深げに呟く。
「今年は、私たち三年生が中心になって企画を進めるんですって」
「へえ、それは楽しみだな」
フェリックスが早速、掲示の詳細を確認し始めた。
「各クラスで出し物を決めて、当日は模擬店や展示、催し物をやるらしいぞ」
「うちのクラス、何をやるか、もう話し合ってるんですか?」
エミリーの問いに、シャルロットが答えた。
「まだこれからよ。今日の学級会で決めるみたい」
昼休みが終わり、その日の学級会が始まると、教室は出し物の候補で盛り上がっていた。
「模擬店にしよう!」「いや、お化け屋敷の方が盛り上がるって!」
様々な意見が飛び交う中、担任のクレア先生が皆をまとめた。
「では、多数決で決めましょう」
いくつかの候補の中から、最終的に選ばれたのは「魔道具体験コーナー」だった。
「魔道具体験コーナーか、俺たちにとっては、得意分野だな」
フェリックスがニヤリと笑う。
「せっかくだから、マナレス・ランプとストックアイズも、展示させてもらえないか、バルトロさんに相談してみましょうか」
ソフィアの提案に、ニコラスも頷いた。
「いい考えだな。学園祭で、実際に商品を見てもらう機会にもなる」
放課後、早速クラス代表として、五人がバルトロさんのもとを訪れた。
「学園祭での展示ですか。それは素晴らしい発想ですな」
バルトロさんは快く協力を申し出てくれた。
「両方の商品を、実演用にお貸しいたしましょう。良い宣伝の機会にもなりますし」
「ありがとうございます!」
こうして、クラスの出し物は、単なる体験コーナーから、実際の商品展示も兼ねた、本格的な企画へと発展していった。
「よーし、これは気合入れて準備しないとな!」
フェリックスが意気込む中、シャルロットも張り切った様子で言った。
「展示のレイアウト、私が考えるわ! 来場者の目を引くようなデザインにしないと」
「頼りにしてる」
「エミリーは、接客担当かしら? 前回の発売イベントの経験、活かせそうね」
「はい、頑張ります!」
役割分担が自然と決まっていく中、ソフィアが少し不安げに言った。
「私は、実演を担当した方がいいでしょうか。皆さんの前で説明するの、少し緊張しますが……」
「大丈夫だ、ソフィアの説明、いつもわかりやすいから」
ニコラスの励ましに、ソフィアは嬉しそうに頷いた。
「はい、頑張ります」
学園祭当日に向けて、また新しい準備が始まろうとしていた。グラント商会、クレイン商会との騒動、マナレス・ランプとストックアイズの開発。数々の困難を乗り越えてきた五人にとって、学園祭という晴れやかなイベントは、これまでの成果を発表する、絶好の機会になりそうだった。
「よし、皆で最高の学園祭にしよう!」
ニコラスの言葉に、皆が力強く頷いた。
その日の夜、寮の自室で、ニコラスは学園祭の準備リストを整理していた。展示用のパネル作成、実演の練習、接客のシミュレーション――やるべきことは山積みだったが、不思議と心は軽かった。
窓をノックする音がして、顔を上げると、そこにはシャルロットが立っていた。
「シャルロット? どうしたんだ、こんな時間に」
「ちょっと、展示のデザイン、相談したくて。見てもらえる?」
夜遅くにもかかわらず、シャルロットの表情には、疲れよりも、確かなやる気が滲んでいた。
シャルロットが広げたのは、色鮮やかなレイアウト案だった。
「おお、すごいな、もうここまで考えてくれたのか」
「当然でしょ、任されたからには、しっかりやらないとね」
得意げなシャルロットの様子に、ニコラスは思わず微笑んだ。その真剣な横顔に、彼女の成長を、また一つ感じ取っていた。
「この配置なら、来場者の動線もスムーズそうだ」
「でしょう!? マナレス・ランプとストックアイズ、両方とも目立つように配置を考えたの」
二人で意見を交わしながら、細部を詰めていく。時折、他愛のない雑談も交えながら、作業は和やかに進んでいった。夜の静けさの中、二人だけの時間が、穏やかに流れていた。
「にしても、学園祭、本当に楽しみだな」
「うん、私も。去年までは、正直そこまで興味なかったんだけど……」
「今年は違うのか?」
「だって、皆と一緒に、色々準備できるんだもの。それだけで、なんだかワクワクするのよ」
素直な言葉に、ニコラスも同じ気持ちを噛み締めた。学園祭という、ただのイベント以上の意味を、今の二人は、確かに感じ取っていた。
「俺も、同じ気持ちだよ」
夜が更けるまで、二人は展示の準備について話し合い続けた。窓の外には、秋の夜長を彩る、静かな月明かりが広がっていた。学園祭という新しい目標に向けて、また賑やかな日々が始まろうとしていた。
第90話へ続く




