第85話 バレた秘密
シャルロットとの関係に、小さいながらも確かな変化があってから数日。ニコラスとシャルロットは、表向きはこれまで通りの態度を装いつつも、時折見せる互いへの視線に、以前とは違う柔らかさが滲むようになっていた。
「なあ、二人とも、最近本当に様子おかしいよな」
放課後の空き教室、作業の合間にフェリックスが疑わしげな目を向けてきた。
「な、なんのことよ」
「別に、いつも通りだけど」
不自然に目を逸らす二人を見て、フェリックスの目が、いよいよ確信めいた色を帯びた。
「……もしかして、お前ら、ついに」
「ち、違う! 何もないから!」
「そうだそうだ、何もないぞ!」
必死に否定する二人を見て、フェリックスはニヤリと笑った。
「その慌てぶりが、何よりの証拠だな」
「くっ……」
観念したように黙り込む二人を見て、ソフィアとエミリーも、微笑ましそうに顔を見合わせた。
「実は、私たちは、なんとなく気づいてました」
ソフィアの言葉に、シャルロットが驚いたように声を上げた。
「え、ソフィアも!?」
「はい。お二人の様子、少し前から、変わったなと思っていたので」
「わたしも、なんとなく」
エミリーも頷きながら言った。
「くっ……こんなにわかりやすかったなんて……」
シャルロットが顔を赤くしながら机に突っ伏す。
「まあまあ、いいことじゃないか。おめでとう、二人とも」
フェリックスが茶化すように言いながらも、その表情には、心からの祝福が滲んでいた。
「ありがとう、フェリックス」
ニコラスが少し照れくさそうに答えると、フェリックスは満足げに頷いた。
「にしても、鈍感なお前が、よくシャルロットの気持ちに気づけたな。俺、正直半分諦めてたぞ」
「うるさいな、放っておいてくれ」
賑やかなやり取りに、教室中が温かい笑いに包まれた。
「それにしても」とエミリーが少し考え込むように言った。「これで、チームの雰囲気、もっと良くなりそうですね」
「そうだな。皆で協力する時、余計な遠慮とかなくなりそうだし」
フェリックスの言葉に、皆が頷いた。
「あ、でも、作業の時は、ちゃんと集中してよね! 私情を挟むのは禁止だから!」
シャルロットが慌てて釘を刺すと、ニコラスも真剣な顔で頷いた。
「もちろんだ。ストックアイズの完成、しっかり進めよう」
そう言って、皆は改めて作業に戻った。試作機の改良点を一つずつ潰していく作業は、地道ながらも、確かな手応えを感じさせるものだった。
「よし、感度調整、これでかなり改善されたはずだ」
ニコラスが装置を調整しながら報告する。
「本当ですね! 重なった商品でも、正確に識別できてます」
ソフィアが記録を確認しながら喜びの声を上げた。
「これなら、実際の店舗でのテストも、そろそろできそうだな」
「エミリーのお母様のお店で、試させてもらえないでしょうか」
ニコラスの提案に、エミリーは嬉しそうに頷いた。
「はい、母もきっと喜んで協力してくれると思います」
新しい関係の始まりと、プロジェクトの着実な進展。賑やかな教室に、また一つ、明るい未来への希望が満ちていくのだった。
その日の夕方、作業を終えて教室を出たところで、フェリックスがこっそりニコラスに耳打ちした。
「なあ、シャルロットのこと、これからちゃんと大事にしろよ」
「わかってるよ」
「あいつ、ああ見えて、結構繊細なところあるからな。素直じゃないけど、本当は色々気にしてるタイプだ」
フェリックスの言葉に、ニコラスは真剣な表情で頷いた。しっかりと胸に刻むように。
「ああ、肝に銘じておく」
「よし、それならいい」
満足げに頷くフェリックスを見て、ニコラスはふと尋ねた。
「お前、意外と面倒見いいよな」
「まあ、腐れ縁みたいなもんだからな、シャルロットとは。昔からの付き合いだし」
「そうだったのか」
「詳しい話は、また今度な」
そう言って、フェリックスは軽く笑いながら去っていった。夕暮れの空に、彼の背中が小さく溶けていく。
一方、少し離れた場所では、シャルロットがソフィアとエミリーに囲まれ、質問攻めにあっていた。
「それで、それで、どっちから告白したんですか?」
「な、なんでそんな詳しく聞くのよ!」
「気になるじゃないですか! 教えてください」
エミリーが珍しく積極的に食い下がる。
「うう……」
顔を真っ赤にしながらも、シャルロットは渋々、噴水での出来事を話し始めた。二人の少女は、興味津々な様子で耳を傾け、時折きゃあきゃあと歓声を上げながら聞き入っていた。
夕暮れの校舎に、賑やかな笑い声が響き渡る。新しい関係の始まりは、こうして皆に温かく見守られながら、少しずつ、確かな形になっていくのだった。ストックアイズの完成も、二人の関係も、これからゆっくりと育っていく。そんな穏やかな予感に、皆の心は満たされていた。まだ始まったばかりの物語が、これからどんな結末を迎えるのか、誰にもわからない。それでも、この瞬間の温かさだけは、確かなものだった。
第86話へ続く




