第83話 試作品への道のり
ストックアイズの設計が固まってから、五人は本格的な試作作業に取り掛かっていた。
「よし、まずは魔法陣シールの試作から始めよう」
ニコラスが小さな紙片に、繊細な魔法陣を描き込んでいく。
「これに商品情報を書き込んで、専用のセンサーで読み取る仕組みね」
ソフィアが確認するように言った。
「そうだ。センサー部分は、こっちで作ってる」
フェリックスが見せたのは、小さな箱型の装置だった。
「これを店の入り口や棚に設置すれば、シールを貼った商品が出入りするたびに、自動でカウントしてくれる」
「すごい、本当に便利そうです」
エミリーが目を輝かせながら言った。
早速、試作機を使った実験が始まった。
「よし、まずは基本動作の確認だ」
ニコラスがシールを貼った箱をセンサーの前を通過させると、装置がぴかりと光り、小さな音を鳴らした。
「お、反応した!」
「これ、ちゃんとカウントされてます」
ソフィアが記録用の魔道具を確認しながら報告する。
「よし、次は複数の商品を同時に通過させてみよう」
何度か実験を繰り返すうちに、いくつかの課題も見えてきた。
「あれ、商品が重なると、正確にカウントできないことがあるな」
「本当ですね。シール同士が近すぎると、うまく識別できないみたいです」
「シールの感度、もう少し調整が必要かもな」
フェリックスが装置を分解しながら、改良点を探っていく。
「あと、賞味期限の表示機能も、確認してみましょう」
エミリーの提案で、期限情報を書き込んだシールを使った実験も行われた。
「これ、期限が近づくと、こうやってランプが点滅する仕組みにしてみたんだ」
ニコラスが実際に動作を見せると、皆から感嘆の声が上がった。
「わあ、本当に便利ですね! これなら、うっかり見逃すこともなくなりそうです」
「エミリーのお店でも、こういう機能があったら助かってたか?」
「はい、間違いなく! 母も、きっと喜んでくれると思います」
作業を進める中、シャルロットが外装の試作品を持ってきた。
「見て、外装のサンプル、いくつか作ってみたの」
木目調、メタリック調、そして温かみのある陶器風のデザインまで、バリエーション豊かな外装が並んでいた。
「どれも素敵だな。お店の雰囲気に合わせて選べそうだ」
「でしょう!? どのお店にも馴染むように、色々考えたのよ」
満足げなシャルロットに、皆が感心した様子で頷いた。
日が暮れる頃には、いくつかの課題を残しつつも、試作品の完成度は着実に高まっていた。
「よし、今日の課題、次回までに改善案を考えてこよう」
「はい、頑張ります」
「私も、感度調整の方法、色々調べてみます」
それぞれが次への課題を胸に、教室を後にした。
帰り道、ニコラスはふと、この一年で自分たちが成し遂げてきたことの大きさを、改めて実感していた。保冷魔道具から始まり、マナレス・ランプ、そして今、ストックアイズ。一つの発明が、また次の発明へと繋がっていく。
「俺たち、本当にいいチームだよな」
隣を歩くフェリックスに、思わずそう漏らすと、彼は当然のように頷いた。
「当たり前だろ。これからも、もっとすごいもの作っていこうぜ」
夕暮れの空の下、新しい挑戦への意欲が、また静かに燃え上がっていた。
翌日、放課後の教室では、早速改良案の検討が始まった。
「シールの感度、こうやって間隔を調整すれば、重なった商品でも識別できるようになると思います」
ソフィアが新しい設計図を広げながら説明する。
「おお、これならいけそうだな」
「あと、魔法陣のパターンも、少し変えてみました。より精密に反応するように」
「ソフィア、徹夜で考えたのか?」
心配そうなニコラスの問いに、ソフィアは少し照れくさそうに笑った。
「いえ、そこまでは。でも、気になって、つい夜遅くまで考えてしまいました」
「無理しすぎるなよ。体調第一だからな」
「はい、ありがとうございます」
そんなやり取りを見ていたシャルロットが、少し複雑な表情を浮かべた。
「ニコラス、そういう気遣い、いつもソフィアにばっかりじゃない?」
「え、そんなことないだろ」
「いや、絶対そうよ」
不満げに口を尖らせるシャルロットに、フェリックスが小声でエミリーに耳打ちした。
「な、相変わらずわかりやすいだろ、あいつ」
「ふふ、本当ですね」
そう言いながらも、エミリーの視線は、時折ガレスとの約束を思い出すように、どこか遠くを見つめていた。
そんな二人の様子には気づかず、ニコラスとソフィアは改良案の検討を続けていた。
「よし、この設計で、もう一度試作機を組み立ててみよう」
「はい、頑張りましょう」
改良を重ねるたびに、ストックアイズは着実に完成へと近づいていった。エミリーとシャルロットも、それぞれの担当分野で試行錯誤を重ね、五人のチームワークは、この一年で確かに磨かれていた。誰か一人の力ではなく、皆の得意分野が組み合わさることで、初めて形になる発明。それこそが、このチームの一番の強みなのかもしれなかった。
第84話へ続く




