第82話 在庫管理魔道具の設計
新しいプロジェクトの本格始動から数日、五人は再び空き教室に集まり、在庫管理魔道具の設計に取り組んでいた。
「まず、基本的な機能から整理しよう」
ニコラスが羊皮紙に箇条書きを始める。
「エミリー、お母様のお店で、特に困っていることって、具体的にどんなことだったんだ?」
「そうですね……。一番は、在庫の数を正確に把握するのが大変なことです。特に、小さな商品だと、数えるのに時間がかかりますし、数え間違いもよく起きます」
「なるほど。じゃあ、まずは自動でカウントできる機能が必要だな」
「あとは、賞味期限のある商品の管理も大変です。うっかり期限切れのものを見逃してしまうこともあって……」
「それも、重要な機能だな。期限が近づいたら、自動で知らせてくれる仕組みがあればいいか」
「はい、それがあれば、本当に助かると思います」
議論を進めながら、ソフィアが設計図に手を加えていく。
「魔石を使った自動カウント機能なら、以前の保冷魔道具の技術を応用できそうです。商品に小さな魔法陣のシールを貼って、それを感知する仕組みにすれば」
「シール式か、それはいいアイデアだな」
「はい。それに、賞味期限の管理も、同じシールに情報を書き込んでおけば、一元管理できると思います」
「さすがソフィア、発想が早いな」
フェリックスが感心したように言うと、ソフィアは照れくさそうに微笑んだ。
「シャルロット、外装のデザインは、どんな方向性で考えてる?」
ニコラスの問いに、シャルロットが資料を広げた。
「お店の雰囲気に合わせられるよう、外装を交換式にしようと思ってるの。木目調とか、シンプルなメタリック調とか、いくつかパターンを用意して」
「なるほど、それなら幅広いお店に対応できそうだな」
「でしょう!? 私、こういうの考えるの得意なのよ」
得意げなシャルロットに、皆が微笑ましそうな視線を向けた。
議論が一段落したところで、フェリックスが商業的な視点から意見を出した。
「なあ、これ完成したら、価格帯はどれくらいを想定してる? 小規模な店舗向けってことは、あんまり高くしすぎると、逆に手が届きにくくなるよな」
「確かに、そこは重要なポイントだな」
「バルトロさんに相談して、原価計算をしっかりやった方がいいかもな」
「わかった、今度一緒に相談しに行こう」
「あと、耐久性も大事だよな。商品の出し入れが多いお店だと、頻繁に使うことになるだろうし」
フェリックスの指摘に、ニコラスも頷いた。
「確かに、耐久性の検証も、しっかりやらないとな。魔石の消耗具合とか、外装の強度とか」
「私も、実際にお店で使う想定で、色々テストしてみたいです」
エミリーが積極的に提案する。その言葉には、以前の遠慮がちな様子とは違う、確かな自信が滲んでいた。
そんな議論を交わしながら、日が暮れる頃には、大まかな設計の方向性が固まっていた。
「今日はいいペースで進んだな」
「はい。この調子なら、思ったより早く試作品ができるかもしれません」
「楽しみですね」
教室を出て、寮への帰り道、エミリーがぽつりと呟いた。
「私の経験が、こうして新しい魔道具の開発に繋がるなんて、思ってもみませんでした」
「エミリーの視点、本当に貴重だと思うよ。実際に困ってる人の声を知ってるからこそ、生まれる発想だ」
ニコラスの言葉に、エミリーは嬉しそうに頷いた。
「これからも、母のお店の経験、色々活かせたらと思います」
「頼りにしてるよ」
寮への道すがら、シャルロットがふと思い出したように言った。
「そういえば、この魔道具、名前も考えないとね」
「また、シャルロットのネーミングセンスに期待していいか?」
「もちろん! 任せなさい」
シャルロットは少し考え込んだ後、自信満々に言った。
「『ストックアイズ』なんてどう? 在庫を見守る目、っていう意味を込めて」
「おお、いいじゃないか。分かりやすいし、機能も伝わる」
「でしょう!? 私のセンス、また証明されたわね」
「はいはい、すごいすごい」
「その返事、また出たわね! ちゃんと感心しなさいよ!」
賑やかなやり取りに、皆が笑い声を上げた。
「フェリックス様、ストックアイズって名前、商業的にはどう思いますか?」
エミリーの問いに、フェリックスは顎に手を当てて考え込んだ。
「うーん、悪くないな。覚えやすいし、機能もイメージしやすい。これなら、商談の時にも説明しやすそうだ」
「よかった、フェリックス様にもお墨付きをいただけて」
シャルロットが満足げに胸を張る。
「よし、それじゃあ、正式名称は『ストックアイズ』で決まりだな」
ニコラスの言葉に、皆が頷いた。新しいプロジェクトの輪郭が、また一つ、確かな形になっていった。
夕暮れの空の下、新しいプロジェクトへの期待を胸に、五人はそれぞれの寮へと帰っていった。ストックアイズの完成に向けて、また新たな挑戦の日々が、静かに始まろうとしていた。
第83話へ続く




