# 第81話 剣術部の模擬試合
約束の休日、五人は連れ立って、学園の剣術訓練場へと向かった。既に観客席には、多くの生徒たちが詰めかけている。
「思ったより、盛況だな」
フェリックスが辺りを見回しながら言った。
「剣術部の模擬試合、毎年結構な人気なのよ。特に、上級生同士の対戦は見応えあるから」
シャルロットが解説するように言う。
「エミリー、ガレスの実力って、実際どうなんだ?」
ニコラスの問いに、エミリーが少し誇らしげに答えた。
「学年でも、トップクラスだと思います。特に、剣筋の速さと正確さは、他の生徒とは一線を画してますね」
「へえ、そんなにすごいのか」
観客席に腰を下ろし、しばらく待つと、いよいよ試合が始まった。次々と繰り広げられる対戦の中、ひときわ歓声が上がったのは、ガレスの出番だった。
「では、次の試合! ガレス・レイモンド対、マルクス・ハートウェル!」
審判の声に合わせ、二人の生徒が中央に進み出る。ガレスの対戦相手も、なかなかの実力者らしく、観客席にも緊張が走った。
「始め!」
合図と同時に、二人は素早く間合いを詰めた。剣がぶつかり合う金属音が、訓練場に響き渡る。
「うわ、速い……!」
ソフィアが思わず息を呑んだ。ガレスの剣捌きは、以前武芸大会で見た時よりも、さらに洗練されているように見えた。
「あの動き、無駄がないですね」
エミリーが感心したように呟く。
「エミリー、詳しいんだな」
「はい、剣術部の練習を見に行く機会が増えて、少しずつ勉強させてもらってます」
そう言いながらも、エミリーの視線は、ずっとガレスの動きを追い続けていた。その様子に、シャルロットが小さく笑みを浮かべた。
「あら、エミリー、随分と熱心な視線ね」
「え、そ、そんなことないですよ!」
慌てて否定するエミリーだったが、頬がほんのり赤くなっているのを、隣のソフィアは見逃さなかった。
「ソフィア様、そんな目で見ないでください……」
「ふふ、何も言ってませんよ」
そんなやり取りをよそに、試合は白熱した展開を見せていた。互角の攻防が続く中、ついにガレスが相手の隙を突き、鮮やかな一撃を決めた。
「そこまで! 勝者、ガレス・レイモンド!」
審判の声に、観客席から大きな歓声が上がった。
「やった! すごいな、ガレス!」
フェリックスが立ち上がって拍手を送る。試合を終えたガレスが、額の汗を拭いながらこちらに気づき、小さく手を上げた。
試合終了後、ガレスが観客席に近づいてきた。
「来てくれたのか」
「約束したからな。すごい試合だったよ」
ニコラスの言葉に、ガレスは満足げに笑った。
「まあまあの出来だったな。それより、エミリー、来てくれて嬉しいよ」
「あ、そ、その、応援してました……!」
顔を赤くしながら答えるエミリーに、ガレスは少し驚いた様子を見せた後、優しく微笑んだ。
「ありがとう。今度、剣術の基本くらいなら、教えられると思うけど、興味あるか?」
「え、いいんですか!?」
「もちろん。護身術くらい、身につけておいて損はないだろう」
嬉しそうに頷くエミリーを見て、フェリックスがニコラスに耳打ちした。
「なあ、あの二人も、なんかいい感じじゃないか?」
「本当だな……」
賑やかな観客席の空気の中、また一つ、新しい絆の芽生えが、静かに始まろうとしていた。
試合の後、皆で連れ立って、訓練場近くの茶屋に立ち寄ることになった。
「今日の試合、本当に見応えあったな」
フェリックスが興奮冷めやらぬ様子で言う。
「ガレス様、本当にお強いんですね」
ソフィアが感心したように言うと、ガレスは少し照れくさそうに頭をかいた。
「まあ、日々の鍛錬の成果だな。それより、皆の方こそ、マナレス・ランプの成功、すごいじゃないか。噂は聞いてるぞ」
「ああ、おかげさまでな。次の新作の構想も、もう始まってるんだ」
ニコラスの言葉に、ガレスは興味深そうに身を乗り出した。
「へえ、今度は何を作るんだ?」
「小規模な商店向けの、在庫管理を助ける魔道具だ。エミリーの発案でな」
「エミリーの?」
ガレスが驚いたようにエミリーを見ると、彼女は照れくさそうに頷いた。
「はい、母のお店の経験から、思いついたんです」
「なるほど、それは実に実用的な発想だな。母上の店の実情を知っているからこその、着眼点というわけか」
感心したように言うガレスに、エミリーは嬉しそうに微笑んだ。
「ガレス様に褒めていただけて、光栄です」
「大袈裟だな。当然の評価だ」
そんなやり取りを見ながら、シャルロットがフェリックスに小声で耳打ちした。
「ねえ、あの二人、絶対いい感じよね」
「だよな。俺もそう思ってた」
賑やかな笑い声とともに、茶屋での時間は、夕方近くまで続いた。剣術部の模擬試合をきっかけに、また一つ、新しい交流の輪が、確かに広がりつつあった。夕日に照らされた帰り道、六人分の影が、仲良く並んで伸びていた。学園生活は、こうしてまた一つ、賑やかな一日を刻んでいくのだった。
第82話へ続く




