第75話 マナレス・ランプ、発売
発売当日、王都の目抜き通りにある大型店舗の前には、朝から長い行列ができていた。
「うわ、こんなに並んでるのか……!」
店舗の様子を見て、ニコラスは思わず声を上げた。
「新聞効果、すごいな。それに、口コミも広がってたみたいだ」
フェリックスが興奮気味に言う。行列には、実際に商業祭で商品を見た客の姿も多く見受けられた。
「よーし、皆、気合入れていくわよ!」
シャルロットの号令のもと、五人はそれぞれの持ち場についた。ニコラスとフェリックスが商品説明、ソフィアが実演、シャルロットが接客とデザイン説明、エミリーが会計と案内を担当することになっていた。
「開店時刻になりました! それでは、マナレス・ランプ、発売開始でございます!」
店員の声とともに、扉が開かれる。待ちわびていた客たちが、次々と店内へとなだれ込んできた。
「いらっしゃいませ! こちら、魔力を一切使わずに点灯する、画期的な魔道具でございます!」
ニコラスの説明に、一人の女性客が興味深そうに近づいてきた。
「あら、本当に魔力いらずなの? うちの子、まだ幼くて魔力操作が苦手だから、興味あるわ」
「はい、お子様でも安心してお使いいただけます。実際にお試しになりますか?」
「ええ、お願いするわ」
ソフィアが実演用のランプを手渡すと、女性は驚いたように目を見開いた。
「本当に、何もしなくても光るのね! すごいわ」
「ありがとうございます! ぜひご検討ください」
そんなやり取りが、店内のあちこちで繰り広げられていた。シャルロットのブースにも、デザインの美しさに惹かれた客が次々と訪れる。
「このランプ、贈り物にもぴったりですね」
「ええ、実は、贈答用のデザインも特別にご用意しております。ぜひご覧ください」
シャルロットの丁寧な接客に、客は満足げな表情を浮かべながら商品を手に取っていった。
会計を担当するエミリーも、忙しなく動き回っていた。
「ありがとうございます! こちら、保証書と使用方法の説明書でございます」
初めて任された大役に、緊張しながらも、エミリーは着実に仕事をこなしていった。
昼過ぎになると、店内は身動きが取れないほどの盛況ぶりを見せていた。
「これ、想像以上の反響だな……!」
フェリックスが額の汗を拭いながら、感嘆の声を上げる。
「初回生産分、このままだと夕方には完売しちゃうかもしれません」
ソフィアの報告に、皆が驚きの表情を浮かべた。
「そんなに早く……!」
「バルトロさんに、追加生産の相談をした方がいいかもしれないな」
そんな話をしていると、店の奥から店長らしき人物が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「皆様! 予想以上の売れ行きで、在庫が心もとなくなってきました。追加の手配、可能でしょうか」
「すぐにギルドに連絡します」
フェリックスが即座に対応に動く。目まぐるしい忙しさの中、それでも皆の表情には、達成感に満ちた笑顔が浮かんでいた。
夕方、閉店時刻を迎える頃には、初回生産分のほとんどが売り切れとなっていた。
「やった……! 大成功だ!」
ニコラスが思わず声を上げると、皆が歓声を上げて喜びを分かち合った。
「本当に、皆で頑張ってきた甲斐があったわね」
シャルロットが感慨深げに呟く。
「エミリー、今日の接客、本当に助かったよ」
「ありがとうございます……! 皆さんのおかげで、私も頑張れました」
疲労の中にも、確かな充実感が漂う店内で、五人は改めて、この日の成功を噛み締めていた。
片付けを終え、店を出た頃には、空はすっかり夕闇に包まれていた。
「今日は本当に疲れたけど、最高の一日だったな」
フェリックスが伸びをしながら言う。
「はい、こんなに多くのお客様に喜んでいただけるなんて、想像以上でした」
ソフィアも嬉しそうに微笑んだ。
「私のデザインも、たくさんの人に選んでもらえたし。今日は本当に、いい記念日だわ」
シャルロットが誇らしげに言うと、エミリーが控えめに手を挙げた。
「あの、私からも一言……。今日、初めて大きなお役目を任せていただいて、本当に嬉しかったです。皆さんに信頼していただけたことが、何よりの喜びでした」
「エミリーの頑張り、ちゃんと皆見てたよ」
ニコラスの言葉に、エミリーは涙ぐみながら頷いた。
夕食は、皆で近くの食堂に立ち寄り、ささやかな祝勝会を開くことにした。
「かんぱーい!」
グラスを合わせながら、フェリックスが陽気に音頭を取る。
「今日の売り上げ、バルトロさんから聞いた話だと、想定の三倍近くだったらしいぞ」
「三倍!? それはすごいな」
「これなら、追加生産も、すぐに軌道に乗せられそうだ」
明るい話題に花を咲かせながら、五人は久しぶりに心からくつろいだ時間を過ごした。
「これからも、色々な魔道具、皆で作っていきたいですね」
ソフィアの言葉に、全員が笑顔で頷いた。
「ああ、次はどんな発明をしようか、今から楽しみだ」
賑やかな笑い声に包まれながら、王都の夜は静かに更けていった。マナレス・ランプの発売という大きな一歩を踏み出した五人の前には、まだ見ぬ未来が、確かに広がり始めていた。
第76話へ続く




