第73話 新学期と量産会議
夏休みが明け、学園には新学期特有の慌ただしい空気が戻ってきていた。
「おー、久しぶりだな、みんな!」
教室に入るなり、フェリックスが元気よく声を上げた。夏の間、それぞれ実家に帰ったり用事を済ませたりしていた生徒たちが、久々に顔を合わせている。
「フェリックス、日焼けしたわね」
「お前もな、シャルロット。健康的な小麦色じゃないか」
「や、やめてよ、そんな言い方! 日焼け対策、ちゃんとしてたのに!」
賑やかなやり取りに、ソフィアとエミリーも笑顔で加わった。
「皆さん、久しぶりです」
「エミリー、夏休みはどうだった?」
「はい、母のお手伝いをしながら、色々と勉強になることが多かったです」
新学期初日の授業を終えた放課後、五人は約束通り、商業ギルドで行われる量産会議に出席するため、バルトロさんのもとを訪れた。
「皆様、お待ちしておりました。本日は、マナレス・ランプの正式な量産計画について、詳しくお話しさせていただきます」
会議室のテーブルには、詳細な資料が並べられていた。
「まず、生産体制についてですが、王都近郊の工房と提携し、月産五百個を目標に生産を開始する予定です」
「五百個! そんなに作るんですか」
ソフィアが驚いたように声を上げる。
「ええ。既に王国内の商会数社から、正式な取引の打診が来ておりましてな。皆様の発明が、いかに注目されているか、ということです」
「すごいな……。本当に、多くの人に届くんだな」
ニコラスが感慨深げに呟いた。
「利益配分についても、以前の契約を基準に、今回の新作にも適用させていただきます。エミリー様の販売企画についても、正式に報酬をお支払いする形で契約を結ばせていただきたく」
「私にも、報酬をいただけるんですか……!」
「もちろんです。立派な戦力として、期待しておりますぞ」
バルトロさんの言葉に、エミリーは感激した様子で目を潤ませた。
「それと、もう一つご報告が」
バルトロさんが少し表情を引き締めた。
「グラント商会の元幹部数名が、新たに別の商会を立ち上げようとしている、という情報が入っております」
その言葉に、五人の間に緊張が走った。
「新しい商会……。もしかして、また同じようなことを?」
「断定はできませんが、警戒は必要かと思います。商業ギルドとしても、動向を注視していく所存です」
「わかりました。何か情報があれば、すぐに教えてください」
ニコラスの言葉に、バルトロさんは力強く頷いた。
「もちろんです。しかし、今は明るい話題を優先いたしましょう。マナレス・ランプの発売、来月に決定いたしました」
「来月……! いよいよですね」
「はい。発売に合わせて、王都の主要な店舗での展示販売も予定しております。皆様には、当日の実演をお願いすることになるかと」
「任せてください、絶対成功させます!」
フェリックスが力強く宣言する。会議室に、明るい熱気が満ちていった。
会議を終え、ギルドを後にした五人は、夕暮れの道を歩きながら、それぞれの想いを語り合っていた。
「新しい商会の話、少し気になるわね」
シャルロットが不安げに呟く。
「ああ、でも、今はマナレス・ランプの発売に集中しよう。何かあれば、その時にちゃんと対処すればいい」
ニコラスの言葉に、皆がそれぞれ頷いた。
「そういえば、ガレスにも今回のこと、報告しておいた方がいいんじゃない?」
シャルロットの提案に、フェリックスが頷いた。
「そうだな。あいつも、レイモンド家の名誉に関わることだし、知っておいた方がいいだろう」
「わたしからも、それとなく伝えておきましょうか? 剣術部の練習でよくお会いしますし」
エミリーの申し出に、ニコラスは頷いた。
「頼めるか? 助かるよ」
「はい、お任せください」
夕暮れの道を歩きながら、話題は自然と、来月に迫った発売イベントへと移っていった。
「発売イベント、どんな感じになるんだろうな」
「王都の主要な店舗での展示販売、って言ってたな。結構大きな規模になりそうだ」
「私も、当日のデザイン説明、頑張らないとね」
「わたしも、接客企画、しっかり準備します」
それぞれの意気込みを語り合いながら、五人は寮への道を歩いていった。
「なあ、皆」
不意に、ニコラスが立ち止まって振り返った。
「この一年、本当に色々あったけど……皆と一緒に頑張ってこられて、良かったと思ってる」
急に真面目な言葉に、一同は少し驚いた様子だったが、やがてそれぞれ笑みを浮かべた。
「何よ、急に。柄にもないこと言うじゃない」
「まあ、たまにはこういうのもいいだろ」
「私も、同じ気持ちです」
「わたしも、皆さんと出会えて、本当に幸せです」
温かい言葉を交わしながら、五人は夕暮れの空の下、それぞれの寮へと帰っていった。
夏を越え、また新しい季節を迎えようとしている学園生活は、今まさに、新たな局面へと差し掛かろうとしていた。新しい商会の噂も気にはなったが、今はまず、目の前の発売準備に全力を尽くすことこそが、五人にできる最善の道だった。
第74話へ続く




