第72話 夏休みの成果
海への小旅行から数日後、五人は再び空き教室に集まり、マナレス・ランプの量産準備に取り掛かっていた。
「よし、デザインバリエーション、大体固まったな」
フェリックスが並べられた試作品を眺めながら頷いた。子供向けの可愛らしいデザイン、落ち着いた色合いの大人向けデザイン、そして贈答用の華やかなデザインと、シャルロットの提案通り、幅広い層に対応した種類が揃っていた。
「シャルロット様のデザイン、本当にどれも素敵ですね」
ソフィアが感心したように言う。
「でしょう!? この夏休み中、ずっとデザイン画描いてたんだから」
「え、休み中もずっと?」
「当然でしょ。せっかく休みをもらったんだから、有意義に使わないと」
得意げに言うシャルロットに、フェリックスが感心したように口笛を吹いた。
「お前、意外と真面目だよな」
「意外とって、失礼しちゃうわね!」
そんなやり取りをしながらも、作業は着実に進んでいった。ニコラスは魔石への魔力充填効率をさらに改良し、ソフィアは放出速度の微調整を重ねていた。
「これで、量産に向けた最終調整、ほぼ完了だな」
「はい。あとはバルトロさんに報告して、正式な生産計画を立てていただければ」
そこへ、明るい声で教室に飛び込んできたのはエミリーだった。
「皆さん、お待たせしました! 母のお手伝い、無事に終わりました」
「エミリー、お疲れ様。夏休み、大変だったんじゃないか?」
「いえ、それが、意外と楽しかったんです。母の仕事を手伝いながら、色々なお客様と話す機会があって……接客のコツとか、勉強になることも多くて」
「へえ、それは良かったな」
「それで、あの……もしよろしければ、私も今度から、マナレス・ランプの販売企画に関わらせていただけないでしょうか。接客の経験、少しは役に立つと思うので」
意外な申し出に、皆が顔を見合わせた。
「もちろん、大歓迎だ。エミリーの視点、きっと役に立つと思う」
「ありがとうございます……!」
嬉しそうに微笑むエミリーを見て、フェリックスが冗談めかして言った。
「これで、うちのチーム、また一段と強力になったな」
「そうですね。皆さんと一緒に、もっと頑張りたいです」
作業を進める中、バルトロさんからの使いが来て、量産計画についての正式な会議が来週開かれることが伝えられた。
「いよいよ本格的な販売に向けて動き出すのね」
「ああ。これが上手くいけば、マナレス・ランプ、王国中に広まるかもしれないな」
期待に胸を膨らませる一同だったが、そんな和やかな空気の中、フェリックスがふと真剣な顔になった。
「そういえば、グラント商会の処分の件、その後どうなったか知ってるか?」
その一言に、教室の空気が少しだけ引き締まった。
「バルトロさんから、正式に営業停止処分が下されたって聞いたよ。今回の一件で、ハインツも商会を追われたらしい」
「そうか……。まあ、当然の結果だな」
「ただ」とニコラスが続けた。「バルトロさんが言うには、グラント商会自体はなくなっても、そこにいた人間が、また別の形で動き出す可能性は否定できないって」
「それって、まだ完全に終わったわけじゃないってこと?」
シャルロットの問いに、ニコラスは静かに頷いた。
「油断はできない、ってことだと思う。でも、今は目の前のことに集中しよう。マナレス・ランプの成功が、俺たちにできる一番の反撃だ」
その言葉に、皆がそれぞれ頷いた。
「まあ、心配するだけ損よ。今は目の前の量産計画に集中しましょう」
シャルロットが明るい声で場を締めくくった。
「そうだな。それより、来週の会議に向けて、資料をまとめておかないとな」
フェリックスが早速資料整理に取り掛かる。ソフィアも試作品の性能データをまとめ始めた。
「エミリーは、接客企画の案、考えてみてくれないか?」
「はい、頑張ります!」
それぞれが自分の役割に向かって動き出す中、ニコラスはふと窓の外を見上げた。夏の日差しはまだ強かったが、吹き抜ける風には、どこか秋の気配が混じり始めていた。
「もうすぐ新学期か……」
呟いた言葉に、隣で作業していたソフィアが顔を上げた。
「あっという間の夏休みでしたね」
「ああ、本当に。でも、充実した休みだったと思う」
「はい。マナレス・ランプも完成に近づきましたし、皆さんとの絆も、より深まった気がします」
ソフィアの言葉に、ニコラスは自然と頷いた。グラント商会との騒動から始まり、商業祭での勝利、そして仲間たちとの海への小旅行。この一年で、本当に多くのことがあった。
「これからも、色々あると思うけど、皆でなら乗り越えられる気がするよ」
「はい、私もそう思います」
夕暮れが近づく教室に、五人それぞれの声が、静かに、しかし確かに響いていた。新学期に向けて、そしてマナレス・ランプの正式な発売に向けて、彼らの挑戦は、まだまだ続いていくのだった。窓の外に広がる茜色の空を眺めながら、ニコラスは静かに、次の一歩への決意を固めていた。
第73話へ続く




