第70話 波打ち際の攻防
「よーし、ビーチボール対決、男性チーム対女性チームで行くぞ!」
フェリックスの提案に、皆が円陣を組むように集まった。
「男性チームは、俺、ニコラス、ガレスの三人だな」
「女性チームは、私、ソフィア、エミリーの三人ね」
シャルロットが腕を組み、不敵な笑みを浮かべる。
「言っておくけど、私、社交界でスポーツ全般得意なんだから。舐めない方がいいわよ」
「へえ、面白い。じゃあ、俺たちも本気でいくか」
ガレスが珍しく好戦的な笑みを見せた。剣術で鍛えた体は、こういった遊びでも本領を発揮しそうだった。
「よーし、それじゃあ、ルール説明するぞ。三回落としたら負けな!」
試合が始まると、思いのほか白熱した攻防が繰り広げられた。
「シャルロット、そっち!」
「任せて!」
シャルロットが軽やかに跳び上がり、ボールを鮮やかに打ち返す。その動きには、確かに運動神経の良さが表れていた。
「うおっ、すごいな!」
「言ったでしょ! 私を舐めないでって!」
一方、ソフィアは少し苦戦していた。
「あ、あの、ボールが……!」
慌てて手を伸ばすものの、ボールは砂浜に転がってしまう。
「大丈夫か、ソフィア!」
「す、すみません、運動はあまり得意ではなくて……」
「気にすんな! こういうのは楽しんだもん勝ちだ!」
フェリックスが明るく声をかける。エミリーも、慣れない様子ながらも、一生懸命ボールを追いかけていた。
しばらく攻防が続いた後、決着はシャルロットの見事なスパイクによって、男性チームの敗北という形でついた。
「よっしゃ、勝った! やっぱり私たちの勝ちね!」
シャルロットが両手を上げて喜びを爆発させる。
「くそー、負けたか」
「まあまあ、フェリックス。楽しめたなら、それでいいだろ」
ガレスが肩をすくめながら言った。息を切らしながらも、その表情はどこか爽やかだった。
「よし、それじゃあ、負けたチームは、皆に飲み物を買ってくること! これ、罰ゲームね」
「なんだよ、それ!」
「決まりでしょ、勝負した以上!」
ぶつぶつ言いながらも、フェリックス、ニコラス、ガレスの三人は、近くの露店へと飲み物を買いに向かった。
「にしても、シャルロット、本当に運動神経いいんだな」
露店へ向かう道すがら、ニコラスがぽつりと呟いた。
「そうだな。それに、なんというか……見ていて飽きない奴だ」
ガレスの言葉に、ニコラスは思わず苦笑いした。
「お前もそう思うか」
「思うも何も、お前、あいつのこと相当気にかけてるだろ」
不意打ちの指摘に、ニコラスは言葉に詰まった。
「な、何の話だよ」
「別に、隠さなくてもいいと思うがな」
意味深な笑みを浮かべるガレスに、ニコラスはそれ以上何も言えなかった。
飲み物を買って戻ると、女性陣は砂浜に座り込み、貝殻を集めて楽しそうに話し込んでいた。
「見て、この貝殻、綺麗でしょ」
「本当ですね、綺麗な模様です」
エミリーとソフィアが仲良く貝殻を見せ合っている。その様子を見て、シャルロットも自然と笑みをこぼしていた。
「お待たせ、飲み物買ってきたぞ」
「あら、遅かったじゃない。何かあったの?」
「い、いや、別に何もない」
不自然に目を逸らすニコラスに、シャルロットは少し首をかしげたが、それ以上は追及しなかった。
夏の日差しの下、賑やかな笑い声が、いつまでも砂浜に響き渡っていた。
昼食は、皆で持ち寄ったお弁当を広げて食べることになった。シャルロットが用意してきたバスケットからは、見るからに手の込んだサンドイッチが姿を現した。
「これ、私の屋敷の料理人に頼んで作ってもらったの。遠慮なく食べていいわよ」
「おお、豪華だな」
「わたしも、少しですが、母と一緒に作ったおにぎりを持ってきました」
エミリーが照れくさそうに、竹の皮に包まれたおにぎりを取り出す。
「エミリーのおにぎり、美味しそうだな」
「あ、ありがとうございます……!」
それぞれの手料理を分け合いながら、賑やかな昼食の時間が過ぎていった。フェリックスは自前の弁当をあっという間に平らげ、シャルロットのサンドイッチにも手を伸ばしている。
「おい、フェリックス、それ私の分よ!」
「一個くらいいいだろ! 分け合うのが友情ってもんだ!」
「都合のいい時だけ友情持ち出さないでよ!」
賑やかなやり取りに、皆が声を上げて笑った。
食事を終えた後、今度は皆で砂の城作りに挑戦することになった。
「よし、俺が設計担当な。城の形、任せろ」
「フェリックス様、意外と器用ですね」
「これでも、昔から手先は器用な方なんだよ」
得意げに砂を盛り上げていくフェリックスを見て、ソフィアとエミリーも協力して装飾用の貝殻を集め始めた。
「シャルロット様、こっちの塔の部分、手伝ってもらえますか?」
「いいわよ。任せなさい」
皆で協力して作り上げた砂の城は、想像以上に立派な出来栄えとなった。
「見て見て、結構いい感じにできたんじゃない?」
「本当だ、なかなかの完成度だな」
満足げに眺める一同の表情には、心からの充実感が滲んでいた。
第71話へ続く




