第68話 夏期休暇のお知らせ
マナレス・ランプの試作成功から数日、学園に掲示された一枚のお知らせが、生徒たちの間で話題になっていた。
「見て見て、夏期休暇の予定表が出てるわ」
シャルロットが食堂の掲示板を指差しながら言う。
「もうそんな時期か。今年は特に色々あったから、あっという間だったな」
「今年の夏期休暇、少し長めに取れるみたいですね」
ソフィアが掲示を確認しながら言った。
「三週間か。結構な長さだな」
フェリックスが顎に手を当てて考え込む。
「なあ、この期間、商業ギルドでの実習とかも組み込めそうじゃないか? バルトロさんに相談してみようぜ」
「いいですね。マナレス・ランプの量産準備、この期間にできれば」
「私も、実家に少し顔を出さないといけないのよね。夏期休暇中に、社交界の集まりもあるし」
シャルロットが少し憂鬱そうに言う。
「大変そうだな、貴族も」
「別に大変というほどじゃないけど……。まあ、色々と面倒な付き合いもあるってだけよ」
そんな話をしていると、エミリーが少し遠慮がちに口を開いた。
「あの、私は、この夏、母の手伝いをしようと思っています。今回のことで、色々ご心配をおかけしましたし」
「無理しすぎるなよ。たまにはちゃんと休むんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
昼休みが終わりに近づく頃、フェリックスが思いついたように提案した。
「なあ、夏期休暇の間、一日でもいいから、皆で集まって何かできないか? ずっと勉強とか作業ばっかりじゃ、息が詰まるだろ」
「それ、いいじゃない! 何か楽しいこと、企画しましょうよ」
シャルロットが目を輝かせて賛成する。
「そうだな、皆で予定合わせて、どこかに出かけるとか」
「海とか、行ってみたいです……」
ソフィアが恥ずかしそうに小さな声で言った。
「海か、いいな。王都から少し離れたところに、綺麗な海岸があるって聞いたことがある」
「決まりね! 夏期休暇中、皆で海に行きましょう!」
シャルロットの提案に、全員が賛同の声を上げた。
「私も、ご一緒してもいいんでしょうか……?」
エミリーが遠慮がちに尋ねる。
「当然だろ。エミリーも、もう俺たちの大事な仲間なんだから」
ニコラスの言葉に、エミリーは嬉しそうに頷いた。
放課後、空き教室でマナレス・ランプの量産準備を進めながら、皆の話題は自然と夏の計画へと移っていった。
「海に行くなら、水着とか用意しないとね」
「シャルロット、気が早いって」
「早いくらいがちょうどいいのよ! こういうのは、計画段階から楽しむものなんだから」
「シャルロット様、本当に楽しそうですね」
ソフィアの言葉に、シャルロットは満面の笑みで頷いた。
「当然よ! だって、皆で出かけるの、初めてじゃない」
その言葉に、ニコラスもふと気づいた。確かに、これまでは騒動続きで、ゆっくりと遊びに出かける余裕などなかった。ようやく訪れた、平和な夏の予感に、皆の表情が自然と明るくなっていく。マナレス・ランプの完成と、間近に迫った夏期休暇。積み重ねてきた努力が、少しずつ形になっていくのを、ニコラスは静かに実感していた。
「よし、それじゃあ、量産準備と並行して、夏の計画も詰めていこう」
「賛成!」
そんな話をしている最中、フェリックスがふと思い出したように言った。
「そういえば、ガレスも誘ってみるか? あいつも最近、結構こっちの輪に馴染んできてるし」
「え、ガレスも!?」
シャルロットが驚いたように声を上げる。
「別に構わないだろ。エミリーの件でも、色々協力してくれたわけだし」
「まあ、それはそうだけど……」
「私からも、一度お声がけしてみましょうか? 最近、剣術部の練習でよくお会いするので」
エミリーの提案に、ニコラスも頷いた。
「それはいいな。頼めるか?」
「はい、任せてください」
「にしても、賑やかになりそうだな、この夏」
「賑やかなくらいが、楽しくていいじゃない」
シャルロットが嬉しそうに笑う。次第に膨らんでいく夏の計画に、皆の期待も高まっていった。
その日の夜、寮の自室に戻ったニコラスは、窓の外に広がる星空を眺めながら、この一年間の出来事を振り返っていた。
異世界に転生してからというもの、様々な出会いと別れ、そして数々の試練があった。だが、こうして仲間たちと共に笑い合える今この瞬間こそが、何よりもかけがえのないものだと、改めて実感していた。村人としての穏やかな暮らしを望んでいたはずが、気づけば魔道具の開発者として、多くの仲間に囲まれている。人生とは、思いもよらない方向に転がっていくものらしい。
「夏か……。楽しみだな」
小さく呟いて、、ニコラスは静かに目を閉じた。窓の外では、夏の訪れを告げる虫の音が、やわらかく響いていた。
明日からも、量産準備と夏の計画、やるべきことは山積みだ。それでも、不思議と心は軽かった。仲間と共に過ごすこれからの日々に、確かな希望を感じていたからだ。
グラント商会の騒動を乗り越え、確かな絆を育んできた五人にとって、この夏は、これまでとは違う特別な思い出になりそうだった。
第69話へ続く




