第67話 点灯試験
翌日の放課後、空き教室には五人分の緊張した空気が漂っていた。テーブルの中央には、昨夜遅くまでかけて完成させたマナレス・ランプの試作第一号が置かれている。
「よし、それじゃあ、いよいよ点灯試験だ」
ニコラスの声に、全員が固唾を呑んで見守った。
「まず、魔力を持たない状態での起動を試してみる」
そう言って、ニコラスは魔力を一切込めずに、ランプのスイッチに触れた。
「……あれ、点かない」
「え、そんな……」
シーンと静まり返る教室。ソフィアが慌てて設計図を確認し始めた。
「す、すみません、魔石への魔力充填量が、まだ足りなかったのかもしれません……」
「いや、待って。ちょっとスイッチの接続確認してみるわ」
シャルロットが試作品を手に取り、外装を丁寧に調べ始めた。
「あ、ここ、配線がずれてるんじゃない?」
「本当だ! 昨日、組み立てる時にずれたのかもしれない」
フェリックスが慎重に配線を直していく。
「よし、直したぞ。もう一回試してみよう」
再び、ニコラスが魔力を込めずにスイッチに触れる。
「……」
しばしの沈黙。そして、ランプがふわりと、柔らかな光を放ち始めた。
「つ、ついた!」
「やった!」
歓声が教室に響き渡る。ソフィアが感極まった様子で目を潤ませた。
「本当に、魔力を使わずに、光ってます……!」
「すごいじゃないか、ソフィアのアイデア、本当に実現したんだな」
「これ、明るさの調整もできるんですよね? やってみましょう」
エミリーの提案に、シャルロットが試験用のつまみをそっと回した。淡い光が、ゆっくりと明るくなったり、暗くなったりする。
「わあ、綺麗……」
「これなら、魔力量が少ない人でも、問題なく使えそうだな」
フェリックスが満足そうに頷いた。
「よし、この調子で、耐久試験もやってみよう。何時間くらい持続するか、確認しないとな」
「はい、記録つけますね」
作業は順調に進み、試験開始から数時間が経過しても、ランプは安定して光り続けていた。
「すごい、もう三時間経ちましたけど、全然光量落ちてません」
「これなら、実用レベルに達してると言えるんじゃないか?」
「あとは、量産する時のコスト面も考えないとな」
フェリックスが早速、商売人としての視点で計算を始める。
「魔石一つあたりの原価と、この持続時間を考えると……うん、十分採算取れそうだ」
「本当に? やったじゃない!」
シャルロットが嬉しそうに声を上げる。皆で顔を見合わせ、達成感に満ちた笑顔が広がった。
「今日は本当にいい日だったな」
「はい、ソフィアさんのアイデア、本当にすごいと思います」
エミリーの言葉に、ソフィアは照れくさそうに頬を赤らめた。
「皆さんが協力してくれたおかげです。私一人じゃ、絶対に完成させられませんでした」
「そんなことないさ。最初に発想したのはソフィアなんだから、堂々と誇っていいよ」
ニコラスの言葉に、ソフィアは嬉しそうに小さく頷いた。
作業を終え、教室の片付けをしている最中、シャルロットがふと窓の外を見て呟いた。
「もうすっかり夜ね。今日は本当に、いい進展があったわ」
「ああ、この調子なら、来月には商品化の目処も立ちそうだな」
「楽しみですね」
窓の外に広がる星空を眺めながら、五人はしばしの間、静かな達成感に浸っていた。
「そういえば、このマナレス・ランプ、量産型にする時のデザイン、もう少し種類を増やしてもいいかもね」
シャルロットが思いついたように言う。
「種類って、色違いとか?」
「それもあるけど、例えば、子供向けには可愛らしいデザイン、大人向けには落ち着いたデザインとか、用途に合わせて分けるの。そうすれば、もっと幅広い層に売れると思うわ」
「なるほど、マーケティング的にも理にかなってるな」
フェリックスが感心したように頷いた。
「シャルロット、お前、意外と商売のセンスもあるんじゃないか?」
「意外とって、また失礼な言い方するのね! でも、まあ、褒め言葉として受け取っておくわ」
得意げに笑うシャルロットに、皆も釣られて笑顔になった。
「じゃあ、明日からは、デザインバリエーションの検討も並行して進めよう」
「はい、私も新しい意匠、考えてみます」
ソフィアの言葉に、シャルロットが張り合うように声を上げた。
「デザインは私の担当でしょ! ソフィアは機能面に集中してよね」
「あ、す、すみません、つい……」
「べ、別に怒ってるわけじゃないから! ただ、役割分担はちゃんと守ってほしいだけ」
「シャルロット様、ソフィア様と一緒に考えたいだけなんじゃないですか?」
エミリーの何気ない一言に、シャルロットの顔が一瞬で赤くなった。
「なっ……! そんなわけないでしょ!」
「ふふ、そうですか」
意味深に微笑むエミリーに、シャルロットは何も言い返せず、黙り込んでしまった。そんな様子を見て、フェリックスがニコラスにこっそり耳打ちする。
「な、わかりやすいだろ、あいつ」
「本当だな……」
ようやく状況を理解し始めたニコラスに、フェリックスは呆れたようなため息をついた。
新しい魔道具の完成は、また一つ、彼らの絆を確かなものにしていくのだった。
第68話へ続く




