第66話 試作品と嫉妬心
翌日から、マナレス・ランプの試作が本格的に始まった。放課後になると、五人は決まって空き教室に集まり、それぞれの持ち場で作業に没頭する日々が続いた。
「よし、魔石への魔力蓄積、思ったよりスムーズにいけそうだ」
ニコラスが試作の魔石を掲げながら報告する。
「本当ですか! 早速、放出の調整実験、やってみましょう」
ソフィアが目を輝かせながら近づいてきた。二人で並んで作業机に向かい、細かい調整を重ねていく。
「ここの放出速度、もう少し緩やかにした方がいいかもしれません」
「そうだな、じゃあこの部分の魔法陣を、こう変えてみようか」
「あ、それいいと思います! 一緒に描いてもいいですか?」
「もちろん」
肩を寄せ合うようにして作業する二人の様子を、少し離れた場所から、シャルロットがじっと見つめていた。
「……なんか、二人だけの世界に入ってない?」
小声で呟いた言葉に、隣にいたエミリーがくすりと笑った。
「シャルロット様、気になるんですか?」
「べ、別に! ただ、みんなで協力してる中で、二人だけ盛り上がってるのが、ちょっと気になっただけよ」
「ふふ、そうですか」
意味深な笑みを浮かべるエミリーに、シャルロットは頬を膨らませた。
「な、なによ、その顔」
「いえ、何でもないです」
そんなやり取りをよそに、フェリックスは黙々と資料整理をしながら、ちらちらとシャルロットの様子を窺っていた。
(こいつ、絶対自分の気持ちに気づいてないよな……)
内心でそう思いながらも、フェリックスは余計な口出しはしないことにした。こういうことは、本人たちのペースで進むのが一番だ。
作業が一区切りついたところで、ニコラスがふと顔を上げた。
「シャルロット、こっちのデザイン、少し意見もらってもいいか?」
「え、あ、うん! もちろんよ!」
急に声をかけられ、シャルロットは慌てて立ち上がった。心なしか足取りが軽い。
「この持ち手の部分、どうすればもっと使いやすく見えると思う?」
「そうね……ここをもう少し丸みを帯びさせた方が、手に馴染みやすいと思うわ。それに、色味も、もう少し温かみのある色にした方が、親しみやすい印象になるんじゃないかしら」
「なるほど、さすがだな」
「で、でしょう!」
嬉しそうに胸を張るシャルロットを見て、ソフィアが微笑ましそうに言った。
「シャルロット様のデザイン、いつも本当に素敵です」
「そ、そんな……大したことじゃないわよ」
照れくさそうに視線を逸らすシャルロットに、エミリーがそっと耳打ちした。
「シャルロット様、今、すごく嬉しそうですね」
「な、何言ってるのよ! 普通でしょ、普通!」
そんな騒がしいやり取りを繰り返しながらも、作業は着実に進んでいった。日が暮れる頃には、マナレス・ランプの試作第一号が、ほぼ完成に近づいていた。
「よし、明日、実際に点灯試験をしてみよう」
「楽しみですね」
「絶対成功させましょう」
五人それぞれの想いを乗せて、新しい魔道具の完成が、少しずつ近づいていた。窓の外では、夏に向けて日が長くなり始め、放課後の作業時間も自然と延びていくようになっていた。
作業を片付けている最中、ソフィアがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、試作品の名前なんですが……『マナレス・ランプ』って、光量調節機能はつけないんですか?」
「あ、それ、いい指摘だな。確かに、ただ光るだけじゃなくて、明るさを調整できた方が実用的か」
「はい。実技試験の時のランプの技術、応用できると思います」
「シャルロットが試験で作ったやつ、参考にできそうだな」
「私の作品、参考にするの!? まあ、それなら仕方ないわね、特別に教えてあげる」
「特別にって、お前が作ったのを見せるだけだろ」
「細かいこと気にしないの!」
賑やかなやり取りに、エミリーがくすくすと笑いながら、皆の作業を手伝い続けていた。
「エミリーも、随分と作業に慣れてきたな」
「はい、皆さんに教えていただいて、少しずつですが」
「エミリーさんの丁寧な仕事ぶり、すごく助かってます」
ソフィアの言葉に、エミリーは嬉しそうに微笑んだ。かつて怯えた様子で夜の工房に現れた彼女の姿を思い出すと、この変化がどれほど大きなものか、ニコラスは改めて実感していた。
教室を出て帰る道すがら、フェリックスがニコラスに耳打ちした。
「なあ、お前、シャルロットの気持ち、本当に気づいてないのか?」
「は? 何の話だ」
「いや、いい。お前はそのままでいろ」
「意味わかんねえよ」
首をかしげるニコラスに、フェリックスは苦笑いを浮かべるだけだった。夕暮れの校舎を、五人分の影が長く伸びていく。それぞれの想いを抱えながら、学園生活は、また新しい一日を刻んでいった。
明日の点灯試験を前に、寮の窓には遅くまで明かりが灯っていた。誰もが、この小さな発明が、また新しい誰かの日常を照らすことを願いながら、静かに眠りについていった。
第67話へ続く




